第13話 ボス戦と宣戦布告
ルナのうっかりによって落ちたダンジョンのトラップから復帰した将暉とミツキ。そんな中ダンジョンボスとの対局が始まろうとしていた。
「マサ!ミツキ!」
俺達が転移した先はやはり岩の洞窟の中。しかしながら見知った……というよりも罠を起動した張本人であるルナがそこで待っていた。
「お姉さま!」
仲睦まじく抱き合う姉妹に呆れつつ周囲を確認する。広い空間の先にボス部屋らしい身長の3倍はある巨大な門が見えた。
「あ、ボスは普通に人型NPCとの対局だよ」
「ああ。さっき遭遇した」
杖をどこか異次元に仕舞いながら教えてくれるルナに短く答える。
驚いた表情で何か聞きたそうにしているので後で話すとするか。
ルナが全身で扉を押すと、鈍い音を立てながら扉が開いた。
全体が岩で追われていた洞窟とは一変して部屋全体が青いレンガで作られており、壁に掛けられたランタンの中で松明が燃えている。
そして部屋の中央には先ほどの顔を白い布で覆った人物が脚付き盤の前に座っていた。
「ふぉふぉふぉ。ここまで来たのはお前さんたちが初めてじゃ」
「……なんかデジャブなんだが」
「……ですね」
「ふぉふぉふぉ。ここまで……」
「いや、そういうのは結構です」
「……そうかの?」
ミツキに冷たくあしらわれて顔は見えないのに落ち込んでいることが分かる。
お前も午前中に同じことをしていたがな。
「なんですか?」
「何でもない」
俺の思考を読むな。
気を取り直したようにルナがNPCに確認する。
「それじゃあ早速だけど対局させてらえる?」
「うむ」
布で見えないが顎髭をさするような仕草をするNPC。
ルナが俺を見て来るが俺は首を横に振った。
「ミツキ、任せた」
「えっ⁉」
俺は将棋が嫌い、ルナは対局できない。なら消去法的にしかたない。
ミツキは何かを訴えるように必死にルナを見ているが困ったように手を振り返されるだけだった。
「マサさん!折角少し理解が深まったかと思ったのに……。覚えておいてくださいよ!」
ミツキが盤の前に座り怒声を上げたのを合図に昨日の俺の対局と同様に周囲に六角形の壁が表れた。
かなりご立腹の様子だし対局後には忘れてくれているといいんだがな。
俺は将棋を指さなくて済んだことに安堵していたせいで、ミツキの戦法を楽しみにしていた自分に気付かなかった。
「……なあ本当にこれで勝てるのか?」
「大丈夫。ミツキの得意戦法の一つだから。それにここのNPCじゃあどうしようもないと思うよ?」
俺が不安に思いルナに尋ねると想定外の回答が返ってくる。
これが得意戦法な人間ってろくな奴がいた覚えがない。
ミツキ対白い布で顔を隠したNPC(便宜上、白子と呼ぶことにした)の対局は当初互いの飛車先を突く相居飛車であった。
変化はミツキが飛車を2六に浮き、9七と端に角を設置した当たりから。
それからまるで玉が羽を広げるように銀と金が自陣全体に効きを満たしていく。そうして、ついにミツキが玉をひたすら上下させるという手待ちに入った。
「アヒルか」
俺は思わずその名をつぶやいた。
アヒル戦法。このふざけた名前の由来は忘れたが自陣の打ち込みをなくして相手からの攻めをひたすらに待つ戦法。多少強引にでも大駒を捨てて相手が攻めあぐねている間に倒してしまうという実に捻くれた発想の戦法だ。
対人戦だと棒銀でどうにかなることが多いのだが、打開が苦手なやや旧式の突破が苦手な低レベルのソフトだと千日手になりやすいのだ。無論、勝つには無理やり突破された後も指しこなす棋力が必要であるが。
「ちなみにダンジョンで千日手になると無条件でプレイヤーの勝ちになるんだ」
「それで千日手狙いか」
確かにソフトの棋力が制限されていようが人間と感覚のことなるAIを相手に勝つのは骨が折れる。同じ手を指し続けるだけで勝ちがもらえるなら安いものだろう。
ルナが対局を見ながらどこか不安げに髪を弄っている。
「マサは、本当に新人戦よかったの?別に嫌なら……」
「気にするな。ただ優勝するだけで限定称号がもらえるとは思えないがな」
「優勝する気満々だね?」
「多少とはいえリハビリに付き合ってもらったんだ。ちゃんと結果はだす」
「そんな、付き合ってるなんて……」
何故か耳の先まで赤くなっているので、しっかりと訂正する。
「そうは言ってないからな。後、そういう冗談はミツキに闇討ちされる材料になるから止めてくれ」
「うーん。ボクは別に冗談じゃなくてもいいよ?」
「そういう冗談が命取りなんだよ」
俺の返答に不満げだが、本当にそういう冗談を言っていると残基がいくらあっても足りないのだ。
一方で俺にとって死神になり得る少女はというと、六角形の中で白子NPCと会話していた。対局場のマイクが仕事をする。
局面は既に千日手模様だった。
「お主、それでも人間か?お前の血は何色だ⁉」
「ちゃんと赤いですよ。それに文句があるなら駒の組み換えでもして打開すればいいじゃないですか」
ミツキは簡単に言うが下手に駒を動かすとそこから一気に瓦解しかねない。
完全にミツキの作戦勝ちだった。
「……く、これは負けではないぞ!」
そう悲鳴を上げて四度目の同一局面を指す白子NPC。
その瞬間、千日手判定がなされて対局が終了した。通常は先後入れ替えの指しなおしだが、今回はミツキの勝ちとなっている。
ゆっくりと立ち上がったミツキは悔しそうに項垂れる白子NPCに対して無慈悲に告げた。
「はいはい。対局は引き分けですが、勝負は私の勝ちですね」
彼女の言葉に呼応するように周囲のパネルが消失し、対局者が出て来る。
そのまま俺の隣に立つルナに飛びついて……と思いきや急遽軌道を変更して俺の前に笑顔で立った。
勝利の笑みだろう。きっと、おそらく、多分。
対局の押し付け、今日一日見たミツキの態度、そしてこの笑顔。ここから導かれる結論は……。
「マサさん……お分かりですよね?」
ミツキが右手を振り上げる。
この世界の暴力ってどうなんだろうな。
結果から言って普通に痛かった。
俺は左の紅葉をさすりつつ一人で帰路を歩く。
あの後、白子NPCからダンジョンクリア認定をされた報酬として上質な布のアイテムをそれぞれ受け取った俺達だったが、
「それでは先に町でお待ちしていますね」
と言い残してミツキはルナと二人で先にアイテムを使って帰ってしまったのだ。
対局したら忘れるだろう、というのは読みが甘かったな。
そう反省しつつ森の中をマップで方角を確認して進む。
まだかなり森の深くにいた。日が徐々に傾きつつあるので急いだほうがいいのかもしれない。
と軽く絶望を覚えた時だった。
「やあ。またお会いしましたね」
木陰から伸び始めた影に釣られて顔を向けると腕を組んで木にもたれ掛かる何時ぞやの白フードの姿があった。
「神出鬼没だな」
「ふっ。偶然ここを通りかかったものでして」
こんな森の深くで気にもたれ掛かりながら言われても説得力に欠けるな。
向こうも信じさせる気はなさそうだが。
「それで何の用だ?」
「そう警戒しないでください。あなたに危害を加えるつもりはありませんよ。私は貴方へエールを送りに来たのです」
「……エールだと?」
俺の反復に頷く白フード。
ゆっくりと木から離れて俺に背を向ける。
「明日の新人戦に出場するらしいですね」
「誰から聞いた?」
「クライアントの秘密は守りませんと」
そういって人差し指を口に当てる姿は実にキザで腹立たしい。
「そんなことはどうでもいいのです。あなたには是非とも明日の大会、あなたの将棋で決勝まで残っていただきたいのですから」
「優勝はするなと?」
「さあ。それはあなた次第ですね。もっともこの大会の優勝にあなたが価値を見いだせているのかは疑問ですが」
ふっ。あの時も警告くらいもらえれば無条件で投了くらいしたのだが。
俺の自嘲は白フードへ届かない。
限定称号は準優勝のプレイヤーも貰っていたはずだ。確かにコイツの言う通り優勝に固執する必要はない。
「明日の勝負楽しみにしていますよ、神童さん」
そう呼ばれた瞬間背筋に冷たいものが走る。
「お前は誰だ?」
「ふふ。それではまた明日。お会いできるといいですね」
そう言って白フードの影はぼやけ、空気に溶け込むように消えていった。アイテムでの移動は数字となって消失するエフェクトだ。つまりこれは別の移動手段である。
全体的に要領を得なかったが、要するに……。
「宣戦布告か」
また厄介なのに絡まれてしまったかもしれない。
夕日を背にしたままゲームの世界にも関わらず重い足取りで道を進むしかなかった。
最近寒いのでコタツ+みかんという最強の組み合わせをお供にしている春野仙です。
如何にみかんを食べながらキーボード入力をするかという難題をみかんとつま楊枝という荒業で解決しました(笑)
謎の話をしてすいません。次はおそらく木曜日に投稿すると思います。
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