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第12話 ダンジョン

新人戦への出場を余儀なくされた将暉のリハビリを兼ねてダンジョンに向かう三人。が、そのダンジョンは将暉の想像の斜め上を行くものだった。

「……この戦闘システムを作ったヤツ出てこい」


 ダンジョンに入り込んでから間もなく、俺の呟きが思ったよりも広い岩の洞窟に響き渡るも周囲の騒音に消されてしまった。


 俺のイメージでは複数の選択ルートがあり、その鍵である詰将棋を解ければ先に進めるという単純なものだった。が、蓋を開けてみれば。


「お姉さま、そっちに行きました!」


「了解。マサ、こっちお願い!」


 片手で何かを操作しながらダガーを振って攻撃するミツキからルナに掛け声が飛び、長い杖を持ったルナが魔法で攻撃しながら俺に指示をだす。俺は指示通りに飛んでくる敵に短い杖から魔法を出してダメージを与えた。


 現在、俺達は複数体の角と羽根を持った赤黒い飛行生物に囲まれていた。いわゆるガーゴイルと言った容貌をした十数匹のそれはハエの様に俺達の周りを飛び回っている。


 このガーゴイルは敵であり、コイツの攻撃を受け、一定ダメージを受けると洞窟の入口に強制的に送られてしまう。


 そしてこちらの攻撃方法は……予想通り詰将棋を解くことだった。


 端的に説明すると、手札の詰将棋を解いてMPマジックポイントを溜め、一定数溜まったところで自分の持つ攻撃手段を発動するという流れだ。


 具体的にはガーゴイルを視認していると手元に六題の詰将棋が表れる。宝箱と同様にその一つを選択、操作して詰将棋を解くとMPバーが上昇し、そうして溜まったMPを消費して魔法を放ちダメージを与えるというルーチンだ。


 MPの回復量は詰将棋の手数と難易度によって計算されるため二人に式を教えてもらったが、計算するよりもひたすらに詰将棋を解いた方が早いという結論に落ち着いた。


 ……要するにクソゲーというやつである。


「はい、これで終わり!」


 そう言ってルナが片手ほどの大きさの盤面を操作して長手数の詰将棋を解き終わると、広い洞窟の天井にバランスボールほどの太陽が現れそれが複数のガーゴイルを同時に焼き尽くした。


 ……明らかにオーバーキルだな。



 今回の敵の数は計14匹だった。


 倒した内訳はミツキが1匹。俺が2匹。そしてルナが11匹。


 しかも俺が倒した2匹のうち片方はルナが事前に半分以上体力を削ったものにトドメを刺しただけだった。


 それにしてもルナが圧倒的に活躍しているが、それを可能にしているのが彼女の複数の詰将棋を同時に解く技術。


 基本的に手札の詰将棋は左から順に徐々に難易度が高くなるよう選ばれており、複数の詰将棋を同時に解くことが可能である。要するに一つの詰将棋を3手進めて隣の詰将棋を解いてから戻るというようなことができる、理論上は。


 それをルナはまるでピアノでも演奏するかのように両手で六題同時に解くのだ。本人曰く相手の駒が動く間に他の詰め将棋を進めた方が効率的ということだがそう言う問題ではない。


 複数の詰将棋を瞬時に解き、手順を記憶し、正確に両手で同時入力する。


 そんな人間離れした芸当を見せられてはただのクソゲーにすら同情が湧くのもしかたなかろう。


 それを伝えるとルナは出来ない方が不思議というようにきょとんとし、ミツキは嬉しそうにしていた。


「ところで、マサ。その杖の使い心地はどう?」


「使い心地も何もこれしか使ったことないからな。強いて言えば技名が覚えられないのが難点だな」


「それは気合で覚えるしかないね。レア武器だしレベルの高いダンジョンだからそれなりのものとは思うけど……」


 そう。俺の使っている杖はこのダンジョンの入り口近くで入手したアイテムだった。このダンジョンで初めて魔物に遭遇した時に武器が無いことに気付き、ちょうど倒した魔物からドロップした杖をもらった訳だ。


 使える技はファイアボールとアイスランスと……あとは何だっただろうか。


 まあ正直、大量に詰将棋を解いてしまえばあとは同じ技を連射していれば倒せるのだ。やはりクソゲーである。


 そうして俺のリハビリなどそっちのけでルナの演武を見る会の如く戦闘はほぼルナに任せて順調に先に進んだ。何か宝石のモンスターや巨大な蜘蛛が出てきたが瞬殺されてアイテムになっていたのでとりあえず手を合わせた。


 俺はふと気になったことを尋ねる。


「この戦闘システムでプレイヤー同士の戦いとかはないのか?」


「うーん。なんでか分からないんだけど、この方法、人気が無いみたいなんだよね。だからPVPもないし戦闘もダンジョンの中だけだよ」


 ダンジョン専用でこんなシステムを作ったのか。WSCは複数の開発者が独自に開発したものを無理やり詰め込んだという事実の裏付けだな。


 このシステムの最大の欠陥はプレイヤー層の問題だろう。


 満足に戦闘するためには最低でも3~5手詰めを30秒程度で解く必要があり、棋力的に初段は欲しい。しかしながら詰将棋狂はともかく、普通の将棋指しなら詰将棋を解くのは息抜きと日々の鍛錬くらいだろう。限定アイテムを欲してくる人も多少はいるだろうが知れたものだ。


 つまり有段者で且つこの詰将棋が解けなければ話にならないクソゲーをしたいというごく少数の奇特な人種しかこのダンジョン攻略をしないことになる。


 それならPVPなんて導入しても無駄だし、ジョブのようなRPGに必須の項目がないのも納得だ。




 いくつかの分岐を進むと、ミツキが何かを確かめるように口を開いた。


「そういえば、明日の新人戦にはネットで有名な右四間飛車使いが出るみたいですね。一度だけ出た対面大会では決勝まで進んだとか」


 ミツキは俺の顔を覗き込んで来るし、ルナはワザと無視するように黙って前へ進んでいるが時折こちらを伺っている。


 右四間飛車とは将棋の戦法の一つで文字通り飛車を右から四番目の筋に振る戦法だ。対居飛車、振り飛車に対応した万能性とその絶対的な破壊力が売りとされている。


 俺は短く、


「そうか。それなら悪いが俺の優勝は無理そうだな」


 とだけ答える。


 何とも気まずかった。


 どうにかして話題を変えなければ……。


「あ……ゴメン」


 俺の必死な願いが通じたのだろうか、少し先を進んでいたルナが小さく声を上げた。


 どうしたのかとルナに問いかけようとした時、一瞬の間を置いて後ろを歩いていた俺とミツキの足元に穴が開いた。すぐにジェットコースターのような浮遊感が内臓を襲う。


「きゃああああ」


 スカートを抑えつつ悲鳴を上げるミツキ。


 俺もそれ位リアアクションが取れればよいのだが、残念ながら既に思考は着地後の事にシフトしていた。


 壁を蹴って上がる、なんて芸当ができれば苦労しないが多分無理、ルナが都合よく長いロープを持っているとも思えない。空を飛ぶ魔法なんて使えないし、そもそも敵がいないのでMPもない。


 着地の衝撃で体力が削られて入口に戻されるか、先に進んで合流できるかの運次第だな。


 そこまで考えると穴を覗き込んで小さくなっていくルナを眺めながら俺は重力に身を任せた。


 二十秒は落ちただろうか。ボフッという柔らかい音と共に床の白い何かに衝撃を吸収されつつトランポリンの様にバウンドしてからゆっくりと岩の床に降り立つ。


 周囲は小さなドーム状になっており、通路が二方向に分かれているが先へ進めそうだ。


 俺が扉を確認しているとミツキが追い付いてきた。


「し、死ぬかと思いました」


「ああ。その方が入口からやり直せて楽だったかもな?」


 怯える小動物みたいになっているせいか軽口も返してこない。


 まあ唐突にいわゆる紐無しバンジーというのをやったんだ。仕方なかろう。


 ミツキの少女らしい反応に内心でほくそえみつつも俺は扉を調べる。


 俺が当初イメージしていたように詰将棋が貼られた扉であった。


「どっちへ行く?」


「えっと……右で」


「了解だ」


 ミツキが何か考えるようにした後、俺が一瞬で詰将棋を解く。と言っても簡単な5手詰なので暇つぶしにすらならない。


 案外すんなりと開いた扉を通りしばし歩く。


 それにしてもミツキと二人というのは妙に緊張する。午前中が初対面だったことも当然ながら、ルナの件で目の敵にされているようだしな。


「別に目の敵にしている訳ではありませんよ」



 ……思考が口に出ていたか?そんなつもりは無かったんだが。バグか?


「でも、お姉さまは私のお姉さまです。たとえ振り向いて貰えなくても他の人には渡しません!」


「愛情が深すぎて、ただの犯罪者だろ」


「自覚はありますよ。でもそれが私の本心です」


 立派なストーカー宣言なのに妙に諦めた顔で言うのだから始末に負えない。


「……振り向いてもらえるといいな」


 俺の返事に銀の少女は残念そうに頷くだけだった。


 それから敵に遭遇することもなく、謎の自信をもって選ぶミツキに二択を任せて詰将棋を解き進む。


 途中の何気ない雑談で一先ずミツキはルナが絡まなければそこまで警戒する必要はないということが分かった。いわゆる理解が深まったというやつだろう。


 やがて始めと同じようなドームに出る。


 依然岩に覆われた部屋であるが、中央には大理石のような正方形の台がある。WSCのマークが刻まれていることから転移ポータルに間違いないだろう。


 問題はポータルが電池切れと言わんばかりに光が落ちていること。


 起動条件を探ろうと部屋を見回していると突如としてどこからか声が聞えてきた。


「ふぉふぉふぉ、ここまで来たのはお前さんたちが初めてじゃ」


 やがてポータルの前に数字の羅列が形を作り、白い布で顔を隠した杖を持った人物が現れた。


「ワシがこれから問題をだす。その問題すべてに回答できればここから出してやろう」


 何とベタな。やはりこのダンジョンの製作者には一言もの申したい。


「やるしかないですね」


 これは間違えたらやり直し系のイベントだ。なぜそんなにやる気なのか。


 こちらの内心は無視したまま、声が勝手に問題を読み上げ始めた。


「第一問、飛車を6筋に振る戦法を何というか」


「四間飛車」


「第二問、筋違い角で5手目は」


「4五角」


「第三問……」


 こうして謎のクイズ大会が始まった。クイズ内容は将棋のみかと思いきや


「1から200まで全て足すと?」


「20100」


 というように唐突に数学が出題されたり


「日本の国鳥は?」


「キジ」


「ノックスの十戒で出て来る国は?」


「中国」


 と将棋以外の雑学も出てきた。


 俺とミツキで互いにカバーしながら回答を続ける。


 そうこうしている間にようやく最後の問題が訪れた。


「ワシの正体は?」


 知らん!


 思わずそう怒鳴るのを堪えてこれまでの道のりと問答を思い返すも手がかりがない。


 俺が苦戦しているとミツキが何か集中するようにしてから口を開いた。


「このダンジョンのボスの方ですね?」


「……正解。何故分かったのじゃ⁉」


 本当になんでだよ……。


 白布の人物は無性に悔しがっているがミツキに取り合う素振りはない。


 まあ正解なら何でもいいか。


「まさかこれで攻略終了という訳じゃないだろうな?」


「ふぉふぉ。それはない。それでは玉座で待っておるぞ」


 言い終わるが早いか、現れた時と同様に数字の羅列となって消えていく。


 こうしてポータルが無事に起動したのだった。


 あっけない幕切れだった。


「……行くか」


「……そうですね」


 こうして俺達はポータルに乗ってどこかへ転移した。


お読みいただいた方は昨日ぶりになります。春野仙です!

今回はダンジョンという意味不明な戦闘システムを作ってみました(笑)

このシステムが生きるのか、茶番として放置されるのかは気分次第ですね。場合によっては抹消されるかもしれませんが……。

お楽しみいただけたのなら幸いです。評価、感想をお待ちしています!

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