第11話 密談
聖稜館へ向かうための会議を終え、昼食休憩を挟んで再度集まった将暉たち。
平和に見える彼らの裏で、影が動いていた。
ここはどこかの宮殿だろうか。庭にある巨大な池とそこにかかる朱色の橋は寝殿造りを思わせるもので、その和を象徴した造りに不釣り合いな真っ白いテーブルと椅子が置かれている。机の上には三段に重ねられた洋菓子が塔を作っており、純白のカップには太陽が蕩けたように輝く紅茶が注がれていた。
しかしながらそこに集まる白、青、紫、黒のフードを被った四人はゆったりとお茶会を楽しむという風でもなく、冷ややかな視線を交わしていた。
白が茶化すように口を開く。
「どうだった?」
「残念ながら判断できませんでした」
「でしょうね。私の部下も利用したのに収穫無かったし。挙句こちらの存在まで気取られてご丁寧に伝言まで渡されるし!」
棒読みの青に紅茶を眺めながら相づちついでに愚痴る紫。
その会話を黙って聞いていた黒に白が語り掛ける。
「まあ本人であることは私が保証しますよ。あなたは自分の目的に専念してください」
やはり黒は黙ったまま頷く。
総括するように白がコホンと咳払した。
「まあ私たち四人の目的は異なりますし、今回限りの関係ですが利益は一致しています。仕込みを今晩中に終えて明日は無事に成功させましょう」
初々しく一礼する演者に三人の淡白な拍手が聞える。
その拍手はいずれも未来の自分に対するものだった。
再度ログインして適当に街を見て回った後、待ち合わせ場所に指定された転移ポータルの前で呆けていると見覚えのある金と銀の少女がやってきた。
ルナが手を振ってきたのでこちらも軽く手を挙げて返す。
「お待たせ。待った?」
「いや、そうでもないな」
「ならよかった」
事実だ。睨むんじゃない、ミツキよ……。
「で、何か手がかりはあったか?」
別れ際にミツキとルナが何か新しい手がかりがないか調べてくると言ってくれたのでそれに甘えさせてもらったのだ。
そしてその結果次第で午後の行動を決めると。
「はい。一つ興味深いお話があります」
そう言うミツキに影を感じたのは俺の疑い過ぎだろうか。
まあ利用されようと利用しようと聖稜館へ行ければそれでいい。
「先月のことなのですが、アカウント作成した月にしか参加できない新人戦の決勝戦で全駒をしたという事件が起きまして……。その後に全駒をしたプレイヤーに『猟犬』、されたプレイヤーに『不屈の兎』という限定称号が送られたそうです。ただ、残念ながら能力は不明です」
全駒というのは要するに将棋の勝敗を決定する玉以外の駒を全て取ることだ。かなり棋力差のある者同士の対局で非人道的な差し回しであるが普通は負けを悟った時点で全駒される側が投了する。
おそらくその投了をしなかったのを不快に感じた対局相手が憂さ晴らしに全駒をしたんだろう。確かに対局マナーが悪い奴もいるからな。
で、俺にどうしろと?
「ボクとミツキで話したんだけど、できればマサにも新人戦に出て欲しい」
「そうなるだろうな。断らせてもらうが」
驚くミツキと苦笑いするルナ。
そう言えばミツキには俺が将棋嫌いなことを伝えていなかったな。
「そう言うと思ったよ。でも限定称号が集まれば聖稜館への手がかりになるかもよ?」
「それは否定しないが将棋と関係ないと仮説を立てたのはルナだろう?」
「それはそうだけど……」
無事に押し切れそうだ。そう安堵した瞬間ミツキが乱入してくる。
「お姉さまを困らせないでください!私たちは新人戦には出られないんです!」
アカウントを作った月しか出られないというなら当然だ。
ルナも一転して畳みかけに来る。
「マサお願い!どうかボクたちに力を貸して!」
元々聖稜館へ行くのは俺の目的でもある。それをお願いする形式にするとはルナも人が悪い。もっとも本人に自覚があるかは疑問だが。
こうして瞬く間に俺の投了が決まった。
「……分かった。ただし、絶対優勝できるとは限らないぞ」
「できないとは言わないんですね」
「ブランクを埋められればな」
呆れるミツキと嬉しそうに感謝を述べてくるルナ。
といってもこれから新人戦まで対局三昧とかは嫌だな。
そこまで考えてミツキに問う。
「それで、その新人戦はいつあるんだ?」
「毎月第二日曜日。要するに明日ですね」
「すまないが前言撤回させてもらう。無理だ」
「男に二言は無いっていうじゃないですか~」
煽ってくるミツキに素直に腹立つ。それは自分から言うことであり強要されるものではない。
おそらく、その辺りも踏まえて発破をかける意図だろうが。
俺が睨むとミツキが微笑みながら見つめ返してくる。
「冗談ですよ。でもお願いですから決勝戦くらいまでは行ってください」
受付嬢のように丁寧な口調で述べるミツキ。
やはり何か企んでいるな。
本心は分からないが乗ってやるか。
「最善は尽くす。これでいいだろ?」
俺の言葉に満足そうな二人の少女。
将棋が嫌いという事実は変わらない。ただ、ちょっと目的のために純粋に将棋を楽しむ人たちを踏み台にさせてもらうとしよう。
「ということでここがダンジョンです!」
洞窟の前で両手を広げるミツキ。
ここは先ほどまで話していた場所から転移して森の中を三十分くらい歩いたところである。引きこもり気質の俺には現実世界なら決してたどり着けないであろう距離も楽々と移動できるのはこの世界の利点だろう。
マップがあるので迷子ではないが帰りも同じ道のりを歩くと考えれば既に絶望が溢れかえっている。
……それにしても、
リハビリ→詰将棋→ダンジョン!
という理解に苦しむな流れでここまで来てしまった。「そもそもダンジョンとは何か」と聞いて「行けば分かる」という実に明瞭な回答をいただいたため黙って付いてきたが何も分からない。
そんな俺を放置してミツキもルナも乗り気だった。
「それじゃあ行くよ!」
「はい!未踏破ダンジョンスタートです」
「おー」
そう掛け声を入れてルナが楽しそうに洞窟へ向かう。
楽しそうで何よりだ。
俺は残されたミツキに問いかける。
「で、俺は帰っていいですか?」
「なんでですか。ここまで来たら行きましょう。この片道の移動が無駄になりますよ?」
……確かにそれは抵抗がある。
「マサさんのリハビリに来ているんですし」
……ご迷惑をおかけしております。
ここまでのやり取りであと一歩と踏んだのか、ミツキが謎の結晶のようなアイテムを取り出して言った。
「帰りはこの転移結晶を使っていいですから。町まで一瞬ですよ?」
「……ならなぜここに来る時に使わなかった?」
「これは街の外から街の中へ移動する時にしか使えないアイテムなんです。町の中で転移できるアイテムはありません!」
さいですか。
とはいえ、そんな便利なものを使わせていただけるなら例え火の中森の中お供させていただきます。
何となくミツキにいい様にされている気がするが、コイツは何故ここまで必死に俺を引き留めるのか。
ただの気分か、性格か。または引き留めることにそれだけの価値を見出しているのか。
俺が諦めて歩き始めると先に向かっていたルナが少し恥ずかしそうに小さく手を振っていた。
さて、ダンジョンとはどのようなものか拝見させていただきますか。
少しでも将棋と縁のない空間であることを祈りながら。
いかがだったでしょうか。
始めの四人を如何に描くか悩ましかったのですが……。雰囲気が伝われば幸いです。
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