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第8話 銀の少女

ついに二人目のヒロインの登場です!

会話のテンポに力を入れたのでお楽しみいただけると幸いです。

 目を開けると知らない白い天井だった。


 ……といっても倒れたり搬送された訳でもなく、単にWSCでログアウトした場所である。ログアウトする場合はホテルや旅館のような宿で部屋を借り、そこでメインウィンドウに追加表記されるログアウトの項目を選択するという手順で行う。その後体が少しずつ無重力に溶け込み、気付けばログアウトしているのだ。


 つまりログアウトする際は天井を見ない。


 周囲を見回せばやはりログアウト前に確認した白いシーツの引かれた木製のベッドと小さな勉強机、そして化粧台があった。鏡に映った、寝起きにもかかわらずシワひとつない制服姿にこの世界には珍しく違和感を覚える。



 建物から出ると中世風のレンガ造りの家々の前に並ぶ無数の屋台が広がっている。しかしながら、早朝のためかそのどれもが開店前であった。


 俺はやや歩いたところにある四角い大理石の転移ポータルで白鳥街というエリアへ移動した。ちなみに転移ポータルは俺が今使っているようなゲームらしいものの他に畳、ドアに加えて駅の改札のようなものまであるらしい。ただ、いずれも共通して太陽の絵、言い換えるなら発電所の地図記号ようなWSCのロゴが入っているという点が共通している。


 一瞬視界が暗転した後、目に入る風景の違いに眩暈がした。


 木造建築物の並ぶ江戸時代のような街並みで、ちらほらと歩くNPCも着物に草履という徹底ぶり。初期の服装であるである洋風の制服姿で足を踏み出すことが躊躇われた。


 今の時代、リアルでは再現不可能な、タイムスリップしたようなこの光景にこのゲームの人気の一端を垣間見た気がした。


 そう言えば、と空中にメインウィンドウを開いて地図を検索する。


 昨日、ログアウト直前にルナから「明日は午前9時に白鳥街の天川亭に集合ね!」とチャットできたのだ。


 まだしばらく時間はある。店だけ確認したら暇つぶしに町でも見て回るか。


 そしてメインウィドウを閉じる前に再度、称号の欄を確認した。


『真を知る者 ダアト』


「真を知る者、ね」


 軽くタップするとミニポップに


[この称号をプロフィールに設定しますか?]


 と表示される。


 まあ、称号の利用方法と言えばそれ位だろう。


 俺は深く考えること無く『yes』を押した。


 するとその瞬間、肩にわずかな重みが生じる。


 慌てて服装を確認すると俺は制服の上から漆黒のローブを纏っていた。よく見ると背中にフードが付いていたり、所々に細かい金色の糸が織り込まれていたりと凝った衣装になっている……が、腕に包帯巻いていたり、健常者が眼帯しているのと大差ないではないか。


 これでは俗にいう。


 いや、この先を言語化しては立ち直れない気がした。


 俺は慌ててプロフィールを開き称号の変更を試みるも


[他の限定称号を選択してください]


 と無慈悲な表示がされるだけであり、昨日始めた俺は他の称号など持っていなかった。


 これは早急に何かしらの称号を得ねば、自分の尊厳を保つために。


 それにしても限定称号ということだが、取得条件はなんだろうか。時系列的に考えればレインに勝利したことだが、一プレイヤーに勝利しただけで限定称号など貰えるとは考えにくい。初回勝利の報酬という線が濃厚だが、それなら昨日のルナの反応は一体……。



「おっとそこのお兄さん?」


 唐突に背後から声を掛けられた。


 何だ?早速この装いを笑いに来た奴か?


 覚悟をして振り返ると見覚えのある白フードを目深にかぶったプレイヤーが立っていた。昨日宝箱を解いていた少年だ。

どこか不真面目な雰囲気で俺に話しかけてくる。


「同族のよしみで教えてあげるけど、君早くここを離れた方が良い。厄介な奴が待ち構えていましたからね」


「どういうことだ?」


 俺の二重の質問に答える素振りもなく、その白フードは手を振るとまるで散歩でもするように、のんびり歩き去って行った。


 それにしてもあの白フード、同族というのはもしかしてそういうことだろうか。


 俺は苛立ちを込めてローブを掴む。


 とはいえ折角の助言を無下にする必要もない。俺は速足でその場を後にした。




「……そう言うことか」


 俺はこの瞬間、同族という些細な一言によって動揺し、肝心な部分をミスリードしていたことに頭を押さえた。

目の前には屋敷と呼ぶにふさわしい木製の家がある。一見すると古民家のようだがこんな世界にそんなものがあるはずもなく、表札にはしっかりと天川亭と書いてあった。とはいえ、これは地図か何かで確認しなければ店とも気づけないだろう。


「待っていましたよ。あなたがマサさんですね」


 横に青みかかった銀髪の少女が立っていた。


 背まである長いストレートの髪に整った顔立ち。髪の色とコントラストを意識しているのか黒のブラウスとピンク色のスカートが合わさり、非現実じみた印象を受けた。羽根があれば妖精という感じか。


 今日は不意打ちの連発だな。もう少し頭を使った生活をしなければ。


 内心で勝手に反省会をした後、憮然とした態度で少女に対応する。


「その呼び方はルナから話を聞いたな。ここで待ち合わせているんだが……」


「黙ってください。お姉さまの虫は私が排除します!」


 そう言うが早いか、少女の手元から織鶴を模した対局申請が飛んで来た。


 これは一体なんの冗談だろうか。


 お姉さまということはルナの妹なのだろうが、初対面で敵意むき出しのご様子。


 そんなことよりも……。


「将棋で白黒つけるとか、いつの時代の将棋脳だ?」


「五月蠅いですね。あなたのような厨二病な人に言われたくありません!」


「……」


 先ほど言明を避けた単語を簡単に言い放ってきた。


 これは少し油断ならない相手かもしれない。


 俺が黙ったことで銀髪の少女はやや前のめりになりながら続ける。


「さあ、対局を。私が勝ったらもう二度とお姉さまに近づかないと約束してください!」


 正直、ここまで感情が高ぶっている相手に簡単に負けるとも思えないが対局は面倒だし、万が一負ければルナというせっかくの手がかりを失ってしまう。それよりなにより俺は駒も見たくないほどに将棋が嫌いなのだ。以上より導かれる結論は。


「断る。それに少しは話を聞け」


 俺はそう言って対局申請を受けますか?という表示に迷わずnoを押した。


「そんな⁉この世界で対局申請を拒否する人がいるなんて……」


 呆然としているが、そんな将棋脳で溢れた残念な世界だったのか。

ますます早く立ち去りたい。


 そんな俺の心中を察することなど微塵も考えていないのだろう。


「分かりました!」


「ようやく話を聞く気に」


「タップミスですね?もう、そうなら言ってくださいよ。すぐに申請しますから」


 謎に満面の笑みで二度目の対局申請を送ってくる少女。


 どういう思考回路をしているのだろうか。丁寧に言ったら何でも許されるとか思ってないだろうな?


 とはいえ、二度目の対局申請によって


[ミツキから対局申請が届いています。対局を受けますか?]


 と先程見落とした少女の名前がミツキという情報は拾った。


 それだけ確認して素早く拒否を選択する。


「だから受けないと言っているだろう」


「そ、そんな……。まさかこの世界に」


「それはさっきも聞いたな。俺が受理するまでクリミスで押し通す気か?」


「もうバレましたか。あなたが折れるまで私はタイムトリップして何度でもやり直しますよ!」


「タイムトリップできていないし、そこだけ繰り返しても永遠に断られ続ける悪夢しか残らないぞ?」


「そんなぁ」


 最後にそう弱々しく吐いて銀髪の少女、ミツキはペタンと地面に座り込んでしまった。


 今にも泣きだしそうな少女とそれを見下す男。あまり褒められた絵面ではない。


 が、ミツキはすぐにスッと立ち上がると再び口を開いた。そうして、俺とミツキによる天川亭の店前での口論がはじまった。徐々に人が増えていることも含めて口論というよりはミツキがひたすらルナについて布教していたという表現の方が適切かもしれないが。


 例えば、


「それで、あなたはお姉さまとどのような関係なんですか?」


「……顔見知りか知り合い」


「そこはせめて友達ですよ!お姉さまは繊細で優しいお人なんです。そんなこと言ったら泣いちゃいますよ⁉」


「なら友達で」


「ならって何ですかならって。もう、あんな完璧な人が友達なんてこれ以上ないほど光栄なことじゃないですか!」


 と人のことを馬鹿にしつつひたすらルナのことを持ち上げたり、


「ともかく、あなたはお姉さまと関わるべきではないのです。お姉さまが不幸になる!」


「……どういう理屈だ?」


「それはまず、あなたがお姉さまに惚れますよね?」


「前提がおかしい。何故俺があいつに好意を抱くことが決定しているんだ?」


「あんなに可憐で優しく奥ゆかしい人に惹かれない方がおかしいですよ?ちゃんと感情持ってますか?」


「お前、洗脳でもされてるんじゃないか?」


「むしろ魅了されない方が無理です!」


 と言ったように人格を否定しつつルナを持ち上げる。ついでに気になったので


「それで、なんでルナが不幸になるんだ?」


 と訊いてみれば


「まず、告白して振られます」


「そこまでは決定事項なんだな」


「で、恨んでお姉さまのストーカーになる!QEDです!」


「仮定法か何かか?前提が矛盾しているからこの結論にはならないという意味だよな」


 そうな感じでひたすら言い返し続けた結果。


 ミツキが急に声を押さえてスカートを握りしめながら


「もう、ああいえばこういう人ですね。な、ならば、わ、わた……私があなたの、その……彼女になりますから!」


 と爆弾を投下した。


 無論俺は速攻で起爆させてミツキに反撃する。


「もう少し自分を大切にな。それと悪いが人の話しを聞かないようなヤツは好みじゃない。他を当たってくれ」


「⁉」


 そう言って爆弾を投げたつもりが手元で爆発してしまったミツキは顔を真っ赤にして本格的に瞳を潤ませてしまった。


 徐々に増えてきた通行人から「うわ」とか「サイテイ」とかひたすら否定的な声が聞こえてくる。


 いよいよどうしたものかと悩み始めた時だった。


「マサ、ミツキ、お待たせ!」


 女神かヒーローに思える絶妙なタイミング。うっかり心が揺らいだが、気のせいと振り払ってため息を付くに留まった。


 近寄ってきたルナがミツキを見て不思議そうに訊いてくる。


「何があったの?」


「お、お姉さま……。この虫けらが私のこと好みじゃないって」


 それを聞いて引きつったように頬を引きつらせるルナ。


「……マサ?」


「なんだ」


「変なコート着てるし、初対面の女の子にそんなこと言う不誠実な人だとは思わなかったよ!」


 背後でミツキがちらっとこっちを見た。にんまりとした顔に腹が立つがこれ以上ややこしくなる前に誤解を解くのが優先だ。



 ちなみに、完全に誤解を解くのに小一時間程度かかった。


いかがでしたでしょうか。個人的にはやっぱり服装の説明が難しいです……。

10回目ということでそろそろ初めの方の推敲をし直したいと思っています。

とはいえ週2投稿をしていきたいので様子を見ながらですね。

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