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二人暮らしは大変だ

 苦労させられたよ全く。

 誤解を解きに街に出向けば豪勢な花道が用意され。

 ブーケを投げられるわお祝い酒シャワーはされるわ、散々な目に。


 お祭り騒ぎの後はゴーストタウン。

 子供でないとわかったら、絶望の表情で閉じこもる始末。買い物に来たはずが店まで閉まって回れ右。


「すると思った? 今回の件で私も激おこだよ。店を開けろ!」


 無理矢理店を開けさせた。気分が悪いなら無理強いはしないけど、理由が理由なら話は別。

 今日の分の食材が私一人分しかないのだ。買わなきゃ半分に。五百年の胃袋はそう易々と満たされない。


「マスコットちゃんが凶暴になった!」


 ミオと名前で呼ばれるのは稀。通り名は「マスコット」子供のままの姿で街に居着いているから、街の象徴的意味合いがあるのだと。


「五百年も経てば性格も変わるよ。おねーちゃんっ」


 店員の怯え様はスルーして野菜を漁る。

 今日は卵が安い。


「もうちょっと、なぁ?」


 モンスタークレーマーじゃない、まとめて仕入れるから安くしてくれてもいいんじゃない? と至極まともな交渉だ。


「二人で食費も大変だなぁ」


 天使がアポもなしに住み着くと言ってきたせいで、何かと物が不足している。嬉し……くはないが無理に追い返すのも人としてよろしくない。

 食べ物、衣類。最低でもこの二つは急いで確保する。


 できるだけ、安く。


 天使の服はお揃いになった。私も大概だが、同年以上の天使も天使でフリフリを選んだ。十歳辺りとはいえ中身はアレなのに。

 と思ったのも束の間。仲間意識は途絶えた。


「このオムレツ、玉ねぎ入ってますね?」

「何か問題でも」

「玉ねぎ苦手です」

「おい」


 子供かっ。

 まだまだある。


「一緒にいいですか。頭、洗ってもらったりできませんか」

 いい歳こいたアレが。

「一人じゃ怖いです!」

 ナカーマ。

「トイ……に、付き合ってください」

 夜起こすな。

「ゲームはないんですか? 漫画は、テレビは」

 駄々をこねるな。

「外食したいです! あのお姉さんのお店に」

 一回いくら掛かると思っている。


 天使は天使だ。猫の十歳を人間に訳すと老人になるように、同じ五百歳でもあちらはピチピチ小学生。

 精神だけ五百歳になった私とは違う。中身まで十歳だ。


「エルー!」

「ごめんなさいい!」

「嫌いだからって残すんじゃない!」

「嫌いな物は嫌いなので食べられません!」


 はぁ。

 あんなにも静かでのんびりなスローライフが、五百年の後、子育てへ。


 天使ことエンジェルことエル。

 ドア扉に新たに刻まれた、住人の名。


 *



 家の雰囲気が賑やかになってから数日。

 街の人たちにも紹介が終わり、晴れて住民の一人と登録されたエル。

 登録方法は冒険者ギルド隣の役所で行い、住民票に名前を加える。ニヤニヤした職員の顔は忘れない。

 手続きも複雑じゃないし、日本に比べれば楽ちん。文明が進化しすぎるのも考えもの。


 基本は二人で動いた。お留守番という言葉はないようで、所構わず付いてくる。


「ギネス最高記録更新中の友達も一緒か。よっ」


 無視していい人物(おっちゃん)だから返事を返さないのではなく、他とあまり喋らない人見知りだった。

 周りからのイメージはこうである。

 お姉ちゃんと妹。

 実際の関係は大人と子供だが。


 おっちゃんに会いたいでも現在進行中の受付嬢に撫でられたい思いで酒臭い冒険者ギルドに来たんでもない。


 クエスト、をやろうと思う。


 もちろん命は関わらない、安全(クリーン)平和(ピース)依頼(クエスト)を。

 貯金があるとは言え、お手伝い感覚だけで二人分の食費を維持するには限界がある。

 多少体を張ってでも、食べる分は稼がなくては。


 にしても何ができるんだ。


 掲示板に釘付けされた紙。モンスターの討伐だとか薬草の採取だとか、荷物運搬だとか多種多様。


「モンスターを倒しに行きましょう」

「危ないし嫌」


 モンスター討伐が危険度と手間の関係で金額が大きいものが多い。人も動物も殺したことのない私には到底無理なので別を探す。そも、そういう環境で生きると決めている。


「異世界なんだから無双しましょーよー」

「薬草とか見てわかるかな」

「無視ですか」

「無視です。五百年前言ったよね。のんびり暮らすって」

「気が変わるのを五百年待ってました」


 天国からずっと気が変わるのを待って五百年も一人にしていた。さすがに考えすぎか。


 結果、安全度百パーセント誰でもできる簡単なお仕事で十分な報酬が得られるのは、


 ありませんっ!


 世の中甘いと思うなよ。みんな命張って頑張ってんだみたいな常識を押し付けられた。

 簡単なクエストを二人で別々にこなす手段もなくはない。一人なら満足。割るニだと不足。


「困ったな」


 声に出したら助けが来ないかな。願いは虚しく、酔っ払いと受付嬢なのに受付離れてエルを撫でまくる変態しかいなかった。

 固まって助けを求めるエルは、大変素晴らしく可愛かった。


 やる気がみなぎった!


「エル、しょうがないからモンスター討伐に行くでござる」


 平和な街のクエストだ。五百年も生きていながら異世界プレイを怠っていた私でも、穏やかなモンスターなら倒せるはず。

 エルを奪い取ってから、五百年ぶりに地図を開いて目的地を示してもらう。


 クエスト:Dの討伐


「Dって?」

「イニシャルですよイニシャル。五百年も生きているマスコットちゃんなら余裕かと」


 そか。亀の甲より年の功。生きているだけでレベル的なのが上がっているんだろう。

 あれ? 五百年も生きている私、自然と強くなってるんじゃ。

 殺し合い反対な私だが、生きるために拳を振るおう。




「大丈夫、五百歳なら倒せます!」

「年齢の問題かこれ。てか私より長生きしてるよなこういうの」


 鉱石が青白い光を放つ洞窟の奥で初めて戦う相手は、イニシャルがDのあいつでした。


 ミオ VS ドラゴン


 鋼の翼に艶めく鱗。血肉を喰らいし鋭利な牙。


「貴様、我に挑む気か」

「そな、そんなめっそうな」

「ミオさんは五百年も生きているんですよ! たかがドラゴンに負けるわけがありません!」

「ほう。人間の割に長生きだな。よかろう」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 ゴロ、ガ、ゴンゴン!


「五千年生きたドラゴンが相手をしてやろうではないか」

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