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のんびり暮らせればいいんで

 冒険だ!

 ファンタジーだ!

 魔法だスキルだワクワクだー!




「というのに憧れはありませんか?」

「ごめんなさい」


 異世界で無双するのも世界を殲滅するのも、あまりに非現実的で実感がない。

 むしろ活発し過ぎて、働き疲れならぬ冒険疲れするだろう。



 精神年齢三十五歳。大でもなく小よりの中に勤める会社員。

 職場環境は恵まれていた方だと思う。上司の嫌がらせとかなかったし、割と健全なホワイト企業で満足していた。



 天国的な場所。意識がふわっとしていて、何が何だか。視点は動かせず、女の子の顔が目に入る。

 女の子は言っていた。「天国より異世界に行ってくれないと私の実績がゼロなんです!」と。天国にまで実績格差があるのか。だからまぁ、この子の出世のため行くことにした。



 せっかく新たな一歩を踏み出すなら、働いて一生を終えるより楽しんで暮らしていきたい。陰口が蔓延る会社で働くのは御免だ。

 仕事のために命を懸けるのも御免だ。


「冒険とか怖いじゃん。モンスターと戦ったりして、命晒さなきゃいけないんでしょ? 殺されたくないし、せっかちに生きるよりのんびり生きたい」


 異世界だって、建築業の人、農家の人……平和な暮らしをしている人たちは大勢いるはず。全員が全員軍人国家だと、衣食住が成立しないもの。


「そうですか……。では、何か欲しいものとか能力とか、ありませんか? 何でもどうぞ」


 女の子は付け加えた。「平和ですが危なくなる可能性もありますし、力、とか少しくらい持っておいた方が安心できると思いますが」と。護身用にスタンガンを入れておくようなものか。

 でもなぁ。

 女の子が言うスタンガンと私の思うスタンガンは強さが桁違いなんだろう。軽はずみな行動で街一つ壊す可能性も。


「ねえ、力ってどれくらいになるの?」

「ハルマゲドン知ってます? あれが起こせます」


 そうか、私を核兵器にでもするつもりか。

 首を振って全力で拒否する。平和な暮らしどころか命を狙われて世界中を逃げ回る人生しか見えてこない。


「ラグナロクでも」

「結構です」


 そんな物騒なものいらない。

 となると、私の願いは「命を懸けない」「平和」を重視したものとなり、


「何でもいいから受け取ってください! 何も渡さないで異世界に放り出したとなれば、クビどころか切腹です」


 かつ何か「貰う」を兼ね備える必要がある。

 ならこうしよう。


「じゃあ、環境をください。広大な大地の中でログハウス的な家でのんびり暮らせて、時々買い物がしたいので街から遠すぎない場所を」

「欲張っても、怒りませんよ?」

「犯罪者とか危険思考な人がいない場所だと尚良いです」

「他には?」


 口がエの字になっていた。

 物足りない様子。そういった類の願いじゃないけど、一番欲しいものを言ってみた。


「家族、が欲しいです」

「ごめんなさい」


 あっさり断られた。

 ま、それもそうだよね。人の感情を無理矢理曲げて家族にされても、誰も得しない。


「そっちは自力で頑張ろうと思います」

「は、はい」


 苦笑いの後、私は広大な大地に立っていた。

 今日から新生活。

 まずは異世界探索?

 いえ。

 まずやるべきは――


「引っ越ししないと」





 日本の時の手荷物はない。

 ある物は、


 精神年齢三十五歳が着るには少々恥ずかしいフリフリの服

 ポケットには地図とコンパス、※赤丸が街で青丸が家

 あと、スタンガン。これは話題から念のため渡してくれたのだろう。



「新築の我が家はどこでしょか」


 ボロボロだったら嫌だなぁ。呟きながら視界を一周させると、多種多様な色がアートを描く草花、木の色をした建物が見えた。足を踏む度に花びらが舞って、さくっふさっと鳴り響く。


『ミオのおうち』


 恥ずかしい! けどわかりやすい!

 建物のドア扉に書いてあった。持ち主というのを指しているのだろうけど、子供の部屋っぽく複雑な気持ちが溢れ出た。手彫り感も強く、消そうと思っても消せない。


 浮かれるのもこの辺にして、と。

 引っ越しというか、模様変えが必要だ。部屋の中で必要最低限の家具たちが、片隅に追いやられ行き場を失っている。


「この重い物を私一人で運ぶのか」


 女の子に力を貰っていない私は、当然のように苦労した。どちらかというと、精神的に。

 二人用のダブルベッド、家族団らん用の大テーブル。

 家族が欲しいとは言った。でも、家族用品だけ渡されても虚しいだけだった。



 家具を運ぶ最中に気付いたのだが、やけに腕や足が細い気がする。地面から目の距離も、日本にいた時より近い気が。

 そうだ、鏡を見よう。

 女の子の部屋として認識してくれていれば鏡くらいあるだろうと思い探したものの、見つからない。それでも、上から下まですっぽり埋まった窓でかろうじて確認はできた。


 肉体年齢は十歳辺り。熟女の良さという謎の言い訳でやり過ごしていた体と違い、ピチピチで柔らかて白くて可愛らしいものだった。


「誰だこれ」


 と言いつつ浮かれている。ポーズ取ったり、子供っぽく無邪気に笑ってみたり。


 ま、なんとかなるか。


 一つこの容姿で問題があるとすれば、働けるか否か。労働基準法的なものがあるのなら、働けないつまりお金を得られない状態となる。

 そうだ、お金。

 一文無し!


 無職一文無しでは生きていけないので、地図によると北にある街を目指すことにした。


「しゅ、うかっつだっ。しゅ、うかっつだ」


 異世界に転生しても、社畜思考は変わらなかった。

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