出会いはいつだって突然で。
「止まない雨はないんだよ」
よくそんなフレーズを耳にする。何かに困っているときなんかに使われる言葉だ。きっといつか悩みも解決するよなんて意味がこめられて。しかし、雨がやんだらどうなるのだろう。悩みが解決した先にいったい何が待っているのだろうか。必ずしも空が晴れているとは限らないのではないか。明るい未来があるとは限らないのではないか。
何もない、そんな未来にたどり着いたとき、私は雨なんてやまなければ良かったと思ってしまうかもしれない。
これは、そんな風に思っていた私が雨の日に体験したひと夏の不思議で奇妙な物語である。
20× × 年、4月10日
今日もジメジメとした嫌な雨がぶりそそぐ。
「はぁ…ったく、やんなっちゃうよねー」
誰にいうでもなく呟いた言葉に、もちろん返事なんてない。
春から高校生と、浮き足立っていた中三の私を猛烈にぶん殴りたい衝動にかられている。
今は下校中である。
しかし、なぜ1人なのか。
答えはひとつしかない。
つまり友達が居ないのである。俗に言う、ぼっち。
「いったい何を間違えたんだか…」
別に特別目立った訳でもないし、友達が出来ないタイプでも無い。
ただ、合わなかっただけなのだ。クラスのノリに。
皆何となく自分を取り繕って上辺だけで接している。
それが悪い事とは思わないよ?だってそうしないと世の中上手く渡り歩けない時だってあるし。
ただただ、私が苦手だっただけの話だ。
「なんか異常に疲れるんだもんなーアレ」
今までも、そうしなかったわけではないがもう疲れたのである。
「なんか、ぱーっと楽しいことないかなー」
何気につぶやいてみる。どうせ独り言も雨の音できこえないし。
「僕が、楽しくしてあげよっか。」
ん?
今なんか、独り言に返事が聞こえたような…
「んなわけないか。」
「そんなことあるよ、無視しないでよ。」
「うわ?!」
やっぱり返事がした。おそるおそる声がした方に目を向けると、そこには2本足でちょこんと立っている犬とも猫とも言えないなんとも不思議な生き物がいたのである。
「やっば…どうしよ、幻覚が。何?私そんなに友達欲しかったの?ウケるんですけど。」
「幻覚じゃないよ。」
その生き物はムスッとした顔で訂正してきた。
「喋る、喋ってるよー、実は寂しかったの?私、結構メンタルやられてた感「幻覚じゃないって言ってるでしょー!」
叩かれました。痛いです。こんなちっちゃい体のどこにそんな力があるんだか…てか、ほんとに痛いです。
「ねぇ、信じなられないのは分かるけど、自虐的すぎない?!どんだけ自分に自信ないのさ」
こ、こいつ!痛いところをついてきやがる。
「あ、あんたに関係ないでしょ」
あ、思わず幻覚に返事をしてしまったではないか。
さすがに、そろそろ周りの視線がいたいんですけど。
よし、帰ろう。そう急に。
「あ、雨めひどくなってきたなー早く帰らないとー」
「棒読み感、半端ないよ?!誤魔化しきれてないからね?!」
う、うるさいなーわかってるわ!
ほんとに視線が痛い。突き刺さってるよ。心に。
とりあえず、その正体不明のチビ動物を片手で引っ掴んで家まで早歩きで帰った。
え?なんで走んなかったのかって?そりゃ、雨の日に走ったら水跳ねて足濡れるじゃん。やだもん。
そしてこれが、私とチビ動物の出会いだったのである。
「ただいまー」
まだ、誰も帰って来ていないようで家の中はシーンと静まり返っていた。とりあえず、チビ動物をベッドの上に放り投げて手を洗いに下に降りる。
改めて考えて見ると
「結構やばくね?幻覚って」
そんなに疲れていたのか。いや、部屋にもどったら消えてましたとかあるかもしれない。きっとそうだ。
期待を胸に部屋の扉を開けると
「おかえり、遅かったね」
うん、もちろん無言で扉をしめたよね。
「ちょ、なんで閉めるのさ。さすがに悲しいんだけど。」
まじで泣きそうな顔で反論してくる。ちょっと可愛い…じゃなくて。
「いや、まじでなんの?幻覚なら、さっさときえてくんない?こっちが悲しくなるから」
幻覚なんて見える私が惨めになってくるから、辞めて欲しい。
「だーカーラー、幻覚じゃないって言ってるでしょ。何でそんなに信じないのさ。」
いやいやいや、そんなあっさり未知の生物しんじられるか!
「もう、しょうがないなーじゃあ、幻覚じゃないって証明してあげるよ」
「……どうやって。」
「んーたとえば、君が毎日こっそり反省日記つけてることとか、中学のとき友達と好きな人がかぶってどうしていいかわかんなくなった事とか、あ、体重が「もういいです、それ以上言わんでよろしい!」
あ、あぶなかった…ったく体重言うとかデリカシー無いのかよこいつ。
「信じてくれた?」
くっそーにっこにこだぞこいつ。
「ま、まぁ幻覚じゃないのはわかった。でも、何であんたみたいな変なやつが私の目の前にいるのさ?」
そのセリフを待ってましたと言わんばかりに顔を輝かせた目の前のチビ動物。
「君、名前は?」
「ん?名前?楓だけど…」
そしてチビ動物は口を開いた。
「楓、僕たちと一緒に魔法で世界を救ってよ!」
ん?ごめん。理解出来なかった。
ワンモアタイムプリーズ