第90話 乳製品
「牛の乳を飲むと牛になる、ですか。間違いでは無いのかもしれませんね」
「牛乳を飲むと胸が大きくなるとか、背が伸びやすくなるとか、当時は結局確証を得られなかったけど、今の日本なら確証を持てる結果も出ているのか?」
「双子の女性の片方には牛乳を毎日与えるようにして、他は同一に揃えた状態で育てると、牛乳を飲む女性の方が胸は大きくなる可能性が高いです。背も多少は影響があると言えますね」
「……それ、単に牛乳を飲んでいる方が太りやすいだけじゃない?」
小さい頃の珠は牛乳を好み、毎食コップ一杯分の牛乳を飲み干していた。その結果かどうかはわからないが、結構なサイズのお胸に成長している。しかし珠と同じように牛乳を毎日のように飲んでいた娘が絶壁のまま、ということもあったので結局のところ、人それぞれだという結論を出していた気がする。
……やっぱり、人体実験をやっていたのは少なからず俺の影響もあるのだろう。スタイルの良い女性に成長してくれたらという邪な思いもあったことは認めるし、やっていることは人体実験と同じなのだ。
「胸の大きさは自慰の回数に起因している説と、恋心を抱いている時に大きくなる説が現在は主流です」
「大真面目にこの日本は何を研究していたんだ。
……自慰行為が胸の大きさに関係するって本当なの?」
「長年の調査によって、自慰行為の頻度と胸の大きさは一定の関連性を見出しました。また、初恋の年齢が低いほど、胸が大きくなりやすいと言われており、こちらは現在調査中です」
「そうなのか。まあ、女性なら誰でも気にすることだし、研究すること自体は悪い事じゃないから別に良いか」
どうやら日本では長年に渡り胸を大きくする研究が行われていたようで、色んな説が登場している。特に女性の研究者、という存在が早期から日本に生まれたことも、大きいのだろう。
「話を戻すけど、孤児達に美味しくて栄養のあるものを食べさせるため、孤児達を使って乳製品の開発を行ったな。特にチーズ」
「それは珠様の日記にも書いてありましたね。子牛の第4胃袋を使用してチーズを作ったことは有名ですよ」
「うん、インパクトのある話だから覚えていたんだよね。微生物の酵素を使うようになるまで子牛の第4胃袋からしかチーズを作れなかったって」
乳製品の開発には孤児達も協力させ、特にチーズには力を入れた。個人的にチーズを使った料理が好きだったという理由もあるけど、珍しく作り方が明確にわかるという理由もあった。
改変前の世界で、微生物を使ったチーズの大量生産が行われるまではチーズのために子牛を殺しまくっていた、という歴史がある。これはチーズを作るためのレンネットとかいう酵素が子牛の第4胃袋からしか採取できなかった、という理由だったはずだ。微生物には詳しくないが、要するに、子牛の第4胃袋を使えばチーズが作れるのである。
食肉文化が無かった日本の戦国時代に、牛の牧畜を俺が推進しないと現代風の食事は食べられないという理由もあった。必死に牛の良さをみんなに伝えようとしていた時期だな。結果的にチーズ作りは大成功し、青カビを使ったチーズや白カビを使ったチーズの再現もした。確か、白カビを使ったチーズはモッツァレラだっけ?それともカマンベール?
……チーズの名前は知らないけど、試行錯誤の結果、白カビを使った美味しいチーズを作ることには成功している。青カビチーズの方は味も見た目もえぐいから人気は出なかったが、白カビチーズの方はかなりの人気だった。
「今の日本のチーズ作りも、秀則さんの作り方を継承している地域がありますよ」
「俺の作り方って、ヨーグルトから取って来る乳酸菌と子牛の第4胃袋を磨り潰して作った抽出液を混ぜるだけなんだけど。微生物に関しては、あまり研究が進んでないのか?」
「菌を単一にするという作業が難しく……おそらく秀則さんの言う改変前の世界よりかは遅れているはずです」
微生物の分野は俺自身も詳しくないから、知っている菌を書き記して幾つかの菌を培養しようとして、全部失敗したな。青カビからペニシリンは作ってみたかったけど、菌を単一にするということが課題になって失敗に終わっている。今では単一の菌の集団を作れるらしいし、そこからある程度の発見はあったようだけど、俺に知見が無いから照らし合わせることが出来ない。
「酵素に関して戦国時代の時点で一定の理解を得ることが出来たのは大きいと思うし、珠も大人になってからはお酒造りの改良に心血を注いでいたから……その頃の時点では大きく時代を先取りしていたと思うけど、未来でどうなっているのか伝えられなかったのは大きいか」
「珠様のお酒造りは秀則さんのためだと言われていますが、本当なのですか?」
「いや、単に珠がお酒好きだっただけだね。酔うと抱き着いてくるし、酔って無くても酔ったフリをして抱き着いてくる」
珠はチーズとお酒の研究に深く関わっていたので、微生物の存在について理解を示してくれた人の1人だ。ちなみに信長は微生物の存在をすぐに信じた。ついでにウイルスの存在もすぐに信じて、風邪の予防やアルコール除菌などを積極的に行うようになる。
織田家の当主がそうなってしまったからには部下も真似を始めるけど、全体的に効果は出ていたような気がするから良かったとは思う。それでも風邪が流行る時はあったし、お腹を壊す人はいたけど。




