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第88話 稲生の戦い

1555年7月22日、織田信勝による謀反が起きる。史実では1556年の8月に起きているが、斎藤道三の死が早まったことと、秀則の存在の影響により、史実より早い信勝の擁立が始まった。


「信勝への説得は無駄だったな。何回話しても信長の悪口しか言わなかったし、俺のことも嫌いなようだし」

「お前はそんなことまでしていたのか。まあ良い、そろそろ決着を付けないといけない時期だ」


信長と秀則は信勝謀反という知らせを受けて、出陣の用意を開始する。信勝側に着いた人間の中で、重要な人物は信長の家老の林秀貞とその弟、林通具である。秀則の歴史知識は林秀貞の名前に見覚えがある、という程度でしか無かったが、実際に秀貞と会うと教養ある大人だと秀則は感じている。


秀貞は織田家の外交能力や政務能力でトップに位置する人物であり、林兄弟の影響力は織田家内でもかなり大きいものだった。この2人に加えて柴田勝家も信勝を擁立しており、こちらは秀則の知識の中でも猛将という認識があったため、苦しい戦いになることは秀則でも予想ができた。


「林秀貞が800人に、柴田勝家が1200人を引き連れて名塚砦に向かって進軍中とのことだけど。

……2000人かぁ」

「ほとんどの者が農作業への従事に戻ったとは言え、今でもお前が呼びかければ2000人ほどの兵は集まるのでは無いか?」

「実際に戦っていたのはいつも矢面に立つ500人程度だったから、その500人を軍として使っているだけだし、まともに戦える人で残っているのは1000人も居ないと思う」


信勝側は兵2000で庄内川の川沿いに建つ名塚砦を攻撃しようとしていた。そのことを確認した信長と秀則は、信長が兵900、秀則が兵600を率いて迎撃に向かうことを決める。7月23日、謀反が起きた翌日に信長と秀則は出陣し、名塚砦の一歩手前という所で林秀貞、柴田勝家の両軍と戦闘状態に入った。


「作戦と言えるほどの物では無いが、お前が柴田隊を抑えていろ。俺が主将の通具を討つ」

「うん?俺が柴田隊を抑えるのは良いけど、秀貞が主将じゃないのか?」

「秀貞を討てば、どちらが勝っても織田家が終わるわ」


秀則の役割は、信勝側の最大戦力である柴田勝家を抑えることだった。勝家の部隊が1200人なのに対して、秀則の部隊は600人と半分でしかないが、信長は秀則の不死性を知っているために五分にはなるだろうと予測していた。勝家と秀則が戦っている内に、主将の1人である通具を信長の手で討つというシナリオが、信長の思い描く筋書きである。


しかし事はそう上手く運ばず、信長と秀貞の軍は拮抗し、互いに多くの死者を出した上に、一度の会戦では通具の喉元まで刃が届かなかった。信長の部隊は秀貞の部隊より多く、そのことを知っていた林兄弟は無理をしなかったからだ。そして林兄弟は勝家の部隊と合流をするために、手勢を率いて転進を始めた。


一方で勝家と秀則の戦は凄惨な戦となった。互いに隊を率いる身分にありながら、先鋒を務めるような血の気の多い人間であり、つまりは開戦当初から2人で斬り合っていた。


「織田家に貴様のような人は、人ではないあやかしは、要らぬのだ!」

「うるせー!こっちはお前を殺さないように手加減して、ごふぅ」

「お頭ぁ!」


馬上での戦いに慣れておらず馬から蹴落とされた秀則は、馬に踏み潰されても勝家の槍で突かれても生きていた。


「げほっ、勝家は殺すな!捕縛しろ!」


両軍が戦闘状態に入り乱戦になってから、まだあまり時間は経って無かったが、勝家と殺し合いをした秀則の全身からは血が噴き出ており、その血の量は既に失血死していてもおかしくない量だった。そんなボロボロの状態にも拘らず、秀則は殺意の無い攻撃を勝家に繰り出す。


槍に対して馬鹿正直に刀で立ち向かう秀則は、腹部を勝家の槍に貫かれた直後、刀を勝家の兵に投げつけて左手で槍を抑え、勝家の首に右手をかける。しかしその手に力は入って無かった。力加減が分からず、勝家という重要人物を殺してしまうことを避けるためだ。死人の形相で睨みつける秀則に対して、一瞬怯んでしまった勝家は、秀則の部下による投網によって捕縛される。


勝家の捕縛に成功した秀則は、傷だらけの状態で勝家の兵に向かって切り込んでいく。勝家の捕縛によって士気が落ち込んだ柴田隊は、瞬く間に崩れて行った。そんな時に、林兄弟が手勢200を引き連れて柴田隊に合流を果たす。


結果、秀則は林兄弟の手勢や柴田隊の残党を削ることにひたすら注力し、信長の到着を待つことになる。この戦で、信長自身が功を挙げないと信長が認められないと理解していたためだ。必死に愚鈍を演じ、林兄弟を引き留め、信長の到達を待つ。


信長が通具を討ち取るのは、開戦してから半刻ほど後のことだった。




「信長様が槍で通具を討ち取ったという記述がありましたが、本当に信長様自身の手で討ち取ったのですか?」

「本当に信長自身の手で討ち取っているぞ。まあ、周りの人間がかなりサポートをしていたがな。俺自身も引き留め役に徹したし、信長は特に疲れて無かったけど通具は結構な疲労困憊状態だったぞ」


稲生の戦いで思い出すのは、勝家との殺し合いもそうだけど、信長に対する手厚い保護だ。愛華さんは懐疑的だったけど、信長の手で主将通具を討ち取ったことは紛れも無い事実だ。


……信長も結構な槍の腕前なんだけど、別に2対1で勝てるような人外レベルの強さじゃないから、信長の槍で敵将を討ち取れるようにするには周囲の手助けが必要だった。万が一、信長が討ち取られたら全てが終わるし、あの時は全力で裏方をやっていた気分。


ちなみに兄の林秀貞に対して弟の林通具は短絡的というか、考えが浅い人間なのに兄の威光で大きな顔をする人間だったから、信長は絶対に自分の手で通具を討ち取りたかったと語っていた。普段から通具の態度にはイラついていたらしい。


俺としては嫌みが多いと感じるだけで、能力自体は悪く無かったから殺すのは勿体無いように感じたけど、都合の良い生贄だったのだろうと今では思う。……史実では、兄の秀貞と一緒に許されているのかな?

※史実でも林通具は織田信長の槍によって討ち取られています。

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