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第85話 山賊団

「お前があの織田信長か。意外と平凡な顔だな」

「随分な物言いだな。……要件は、何だ?」

「単に会話をしてみたかっただけだから、警戒はしなくても良い。ここら一帯の山賊達はみんな平伏したし」

「貴様が、美濃の悪鬼か。若いとは聞いていたが、まさか俺より若いやつだとは思わなかった」


1550年6月20日に、森田秀則と織田信長は初めて会話を交わす。2人が出会ったのは尾張国にある小さな山の中で、信長側から秀則に会いに行っている。信長が会おうとしていることを察した秀則は、手下に信長の案内をするように言ったが、信長側は半ば拉致されるような形で秀則の前まで運ばれ来た。


秀則は織田信長を見て、近所のコンビニによくいる不良っぽい人に似ていると思った。一方で信長は、中肉中背で顔は温厚そうな森田秀則を見て、案外若いと評価した。そして秀則は空想の信長像と現実の信長との差異に落胆すると同時に、変な異名が尾張にまで広がっていることに驚く。秀則本人としては単に山賊を成敗して回ったという認識だけだったので、悪い方向性の異名を付けられることも、それが有名になることも想定外だった。


「まだ織田信秀は存命だよな?」

「貴様、もう少し口調は改められないのか。あと、親父はまだ存命中だ」

「すまないがこの時代の言葉遣いがイマイチわからんのだ。そうか、織田信秀が存命中で……信長は何歳だ?」

「16歳だ。貴様は何歳なんだ?」

「一応、まだ16のはずだ」


秀則はまだこの時代の言葉遣いを把握しておらず、信長はぶっきらぼうな口調だと感じる。対して秀則も、信長は偉そうな奴だと認識した。秀則の手下に囲まれて萎縮している信長の家臣達とは違い、信長自身は堂々としていたために偉そうだと思ったのかもしれない。


織田信秀の生存を確認したのは、秀則自身が西暦何年なのかを特定するためだった。既に様々な情報を集めており、1550年代だということは推測していたが、確信が欲しかった。そして織田信長が16歳だと聞き、ようやく1550年だと確信を持つ。


秀則と信長は、互いに同い年だったことに奇妙な繋がりを感じた。静寂な空気が流れる中、唐突に秀則が口を開く。


「お前の親父は2年後に死ぬぞ」

「はぁ!?いや、まだ……おい!騒ぐな!ここにいる者達なら親父が病中だということぐらい知っているだろう!

……貴様は、親父の死を俺に伝えて、どうしたいんだ?」

「織田信秀が死んでから数年後に、織田信勝が織田信長に対して謀反を起こす。その時に俺らを使ってくれ」

「……?はぁ?お前はどういうことを言っているのか、わかっているのか?」


秀則は織田家へ自身の売り込みを始めた。不確定なはずの未来の話を断言して話す秀則に気味の悪さを感じながらも、信長は迷った末に了承をしてしまう。この時から、信長と秀則の交流が始まった。


「今、お前の手下は何人居るんだ?」

「200人は超えたな。兄弟戦争までにはもっと増やすぞ」

「その言い方は止めろ。

……もしもお前の筋書き通りに事が運んだとしたら、お前達を500人まで雇ってやる」

「そりゃ、ありがたい話だな。なら1つ、良いものをあげよう」


信長は秀則の山賊団の規模に驚きながらも、500人までなら雇えると秀則に伝える。異例の厚遇に秀則は感謝の意を示すと共に、信長へ千歯扱きを渡す。既に何個か販売しており、手下を養えるレベルで稼いでいた秀則は、それを信長へと譲渡した。


「お頭、良いんですかい?」

「もう各地の商家に売り払った後だから、1年後には価格競争が起きるレベルで値下がりするぞ」

「……まさか、千歯扱きを作ったのはお前なのか?」

「そういうことになるな。まさか千歯扱きを作っただけで、これほど儲かるとは思ってなかった」


秀則は手下の中でも要領が良い人間を各地の商家に派遣し、千歯扱きを高値で買い取らせた。工夫を施した5人組で向かわせたために、持ち逃げなどは起こらなかった。各地の商家は独占販売を夢見て買い取ったが、他の商家でも生産、販売している姿を見て激怒し、多くの問題が発生している。


しかし千歯扱きを売りに来た人物像が一致せず、商家にとっては痛手とは言えない程度の損失だったために大きな問題とはならなかった。信長もいわく付きだということは知っていたが、千歯扱き自体が便利なものだとは認識していた。


「これから、発明品とかはなるべく織田家に持っていくわ」

「は?」

「だから高値で買ってくれ」

「……そんなことせずとも、将来的に雇うのだから、金なら渡すぞ。

持ってくると言うのなら、相応の金は払うが」


そんな発明品を、これからは織田家に売ると秀則は言う。信長は何故秀則が織田家に肩入れをするのか疑問を感じるが、相応の金は払うことを約束する。これ以降、秀則が開発した物や再現した物は、信長が真っ先に見ることとなった。




「信長様は最初、何故山の中に入っていったのですか?」

「美濃の悪鬼が悪逆非道だという噂が広まっていて、そんな悪鬼が尾張に来ていると聞いたから肝試しのために入って来た感じだったよ」

「……信長様が、尾張の大うつけと呼ばれた所以が分かった気がします」


信長は最初、美濃の悪鬼がどういう存在か見たくて山に入ったそうだ。それを俺の手下が発見して、織田信長だと知っていたから急いで俺に報告をしている。もしも俺らがただの山賊団なら信長は死んでいたか、捉えられて身代金の要求をされていたな。


たぶん信長のことだからある程度の下調べはしていて、歯向かわない人間は殺さないとか、そういう情報は手に入れていたと思うけど。

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