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第76話 選択

民主制だったフランスの崩壊理由を知り、共産主義になった流れを理解したので、オーレリーさんと会話しようとしたら止められる。普通の農業従事者と会話する時はここまで警戒していなかったのに、外国人と会話しようとしたら止められるぐらいに警戒していることが、今の日本人の外国人への悪感情を表している。


「最悪、殺されても大丈夫だから」

「私達の精神が大丈夫ではありません。親衛隊の副隊長として、秀則様の拘束を許可します」

「……捕まえた」

「うわっ!?」


自分から会いに行こうとしたら、凛香さんに羽交い締めされて持ち上げられる。一応、55キロはある俺の身体を楽々と抱き上げられる辺り、凛香さんの腕力はヤバい。抱き締められて、窮屈では無いけど、凛香さんの腕を動かすことすら出来ない。


「あの、私達が聞きたいことであれば聞いてきますから、秀則様はお部屋で待っていて下さい」

「……彩花さん、一字一句違わずにオーレリーさんの発言を覚えられる?」

「そのくらいなら、楽勝です」


昨日から質問続きだろうけど、まだまだオーレリーさんには聞きたいことがあるので、彩花さんを派遣する。記録係の人間も連れて行かせるべきだけど、記録係だと結構手短に纏められてしまうから、彩花さんだけで良いだろう。


「聞きたいことは、共産化したフラコミュが100年以上存在出来ている理由と、フラコミュの実施した政策、今の西欧諸国の軍艦の大きさや射程距離、あと内燃機関がいつ出来たのかも聞いて来て」

「わかりました!」


この状況はオーレリーさんが信用されないと解決しないと思うので、早めに成果を挙げて欲しいけど、質問責めすると動けなくなってしまうから難しい。とりあえず彩花さんに聞きたいことだけは聞いて貰うけど、この外国人への不信感の原因はなんだろう?


「何か、外国人が問題を起こしたことでもあるの?」

「彼らにとって、私達は野蛮な黄色い猿だそうです」

「は?」

「なので私達も、彼らを日本人になり損ねた哀れな猿だと思っています。そもそも当初は日本人を奴隷にしようとしていた白人共に、情け容赦など…………」

「……愛華さんから嫌悪感が、ひしひしと伝わって来るよ」


愛華さんに聞くと、お互いにお互いを見下していることが判明した。というか放っておくと、いつまでも白人の悪口を言い続けそう。ちなみに、この悪感情は教育を受けている者ほど大きいことも分かった。ハンググライダーの訓練から帰って来ていた加藤さんは外国人を特に何とも思ってないみたいだし、島津さんもそこまで嫌っていなかった。


一方で2人よりも少しだけ学歴が上の木下さんは、少し外国人に拒否感を示した。次いで彩花さんがそれなりに外国人を嫌っており、凛香さんや愛華さんは敵意が凄い。仁美さんは、凛香さんや愛華さん以上に嫌っていた感じだ。


嫌う理由は、論理的には説明できないのだろう。白人至上主義者にいくら黒人と白人が同じ人類だと説いても納得させることは出来ない。俺だって、いくら唾液が綺麗な物だと説明されても、他人の唾液塗れでベトベトになったパンを食べたいとは思えない。唾液が美男美女のものなら逆に一部で需要がありそうな気もするけど。少なくとも俺は、美女の唾液でも無理だ。嫁ならまあ……唾液塗れのパンかぁ。


この問題は、何世代もかかりそうだ。名誉日本人となった外国人が相当な努力を続けないと、溝は埋まらないだろう。


彩花さんにオーレリーさんへの聞き込みをさせて、大丈夫だったかな?流石に殺意を覚えるほど嫌っている訳じゃないだろうけど、不快な感情はあるだろう。一応、それらを抑え込んで笑顔になれるような娘だけど。




亡命者のフランス人達があまり歓迎されていない中、受け入れられている存在もある。8歳の山田アリスちゃんだ。日本人男性とフランス人女性のハーフな訳だけど、見た感じはお人形さんみたいで可愛い。こっちは普通に会えるのに、オーレリーさんは駄目なところに外国人と混血人の差を感じる。


「山田アリス、8歳です」

「おお、日本語を喋れるんだ」

『フランス語も話せますよ』

「……ぱーどぅん?」

『英語も、少しなら頑張れます』

「あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ」


どうやら日本語とフランス語を自在に扱えて、英語も少し喋れるようだ。スペイン語もある程度なら理解できるとのことで、かなり頭が良いことは伺える。まあ、勉強していたのは語学だけだったみたいだけど。


「あなたの父は、山田達成(やまだたつなり)ですか?」

「えっ、何で、分かったのですか?」


愛華さんが父親のことを聞くと、驚いたような顔をして肯定をするアリスちゃん。どうやら記録に残っていたようで、当時の日本海軍の大佐だったらしい。豊森家じゃないのに大佐まで出世している時点で、相当優秀だったことはわかる。たぶん、艦長クラスの人間だったのだろう。


「お父様はフランス語を喋ることが出来たので、生き残った日本人とフランス人の橋渡し役として10年以上奔走していました。……そして昨年の9月に、戦死しました」

「……随分としっかりとした8歳だな」

「お父様もお母様も、堂々として生きろと常日頃言っていましたので」


8歳児とは思えない程、しっかりとした思考を持って受け答えしてくれるけど、今の日本だとこれぐらいが普通なのだろうか?精神的に、早熟になったのか。それが悪いこととは思わないけど……そう言えば、桃園で会った少年は13歳だけど敬語を使えなかったな。あっちが平均だとしたら、単にこの娘が優秀なだけか。


「しばらくは子供達の日本語の先生役を任せたいけど、大丈夫?」

「もちろん、大丈夫です。既に船の中で仲の良い友人には、日本語を教えていました」

「船の中って……累計で一月以上はいたと思うけど、どのぐらい話せるようになった?」

「えっと、教えていたのは読み書きだけです。ひらがなの短文であれば、意味を理解することはできると思います」


日本語もフランス語も完璧というバイリンガルだし、子供達の教師役でも任せようかと思ったら、既に周りの子供達に読み書きを教えていたという有能っぷり。こいつ本当に8歳かと疑うレベルだけど、愛華さんや凛香さんは特に異常だと思っていないようなので、これでも日本だと「優秀」の枠組みに入ってしまう程度の人間だということだろう。


……まあ、都合の良い人材が手に入ったことには変わりない。日本語とフランス語を完璧に使いこなせて、スペイン語や英語もある程度話せるのなら、活用方法はいくらでもある。

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