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第73話 彼らの視点

今年の5月頃にアフリカ大陸の角の部分に住む自由フランスの人達は、南からイギリス軍、北からイタリア軍に攻め込まれたようだ。自由フランスに流れ着き、助けられた日本人も軍人だったので、自由フランスのために戦い、多くの戦果を挙げたらしい。今の日本の軍人は基礎スペックが高いから、装備がまともならヤバいのだろう。特に海軍は、彩花さんから聞いた話だけど異常なほどの訓練量だったし。


「しかし奮戦も虚しく自由フランスはほぼ全ての地域を失陥したため、最後に青年や少年少女を集めて新天地を目指した、ということか」

「新天地というよりは保護を求めて彷徨っていたようです。香港にフランス人街を作るという案がありましたが、そこまでの配慮は要らないと思います」

「……知識がある人間は各研究所に割り振りたいけど、日本語を取得している人は何人いるんだ」

「オーレリーさんを含めて、十数人しかいません」

「それなら、最初は日本語を覚えてもらうことから始めないと難しいな」


夕食の時間となり、お酒や料理が持ち運ばれ、会談の場は少し賑やかになっている。仁美さんは確認や審査を済ませたみたいなので、2人で会合の場から少し離れた場所で雑談をしていた。


「……非常に、温厚な方でした。また、会談には慣れているようで苦労の跡が見えます」

「小国の大統領補佐官だったんでしょ?苦労しかしていないと思うよ」


自由フランスは小さいながらも国だった。占領する価値も無いような土地で、交渉を続けて何とか存在を保てていた国だ。しかし欧州でも品種改良が進んだのか、化学肥料のお陰か、農耕に向いていない土地の生産量も上がり、南紅海戦のせいでソマリアの戦略的価値が高まってしまったために追い出されたのだろう。たぶん今頃は、イギリスとイタリアがソマリアで死体の山を築いていると思う。どっちも譲りたくないだろうし。


イタリアが戦争に強いのには違和感しか無いけど、共産主義的な思想に半分染まっているからかな?督戦隊が後ろにいても働かなさそうな軍のイメージだけど、この世界では上位に食い込める陸軍力があるらしい。


「まあ、欧州から見た日本も知れたし、有意義な時間だったよ」

「日本がフランスに陸軍力で劣っているとは、思いたくないのですが」

「もう自動車が開発されている欧州諸国と、陸軍力で張り合ったら本当は最下位だぞ。人口の規模が違うから、何とも言えないけど」


ちなみに、オーレリーさん達が欧州の陸軍力の順位を決めるとしたら


1位フランス・コミューン

2位プロイセン王国

3位スペイン帝国

4位ロシア帝国

5位イタリア王国

6位スカンディナヴィア連邦

7位大英帝国

8位オスマン帝国

9位オーストリア=ハンガリー帝国

10位ペルシア帝国


だと言っていた。ペルシアって欧州に入るのか、と思っていたら単に欧州という言葉の意味の認識が豊森家内で曖昧だった模様。俺もヨーロッパが何処から何処までなのかきっちりとわからないし、後で定義付けをしよう。


……意味を推定して俺の使っている言葉を使うのは止めて欲しいので、後でそういった言葉の見直しもしておく。日本は別格というか、日本に襲われたら負けというイメージは根強いらしいから、順位付けするなら2位か3位とのこと。じゃあフランスも、別格扱いされているのか。


まあ、改変前の世界でも対仏大同盟とかあったし、第二次世界大戦前までならフランスの陸軍は強いというイメージがあるな。第二次世界大戦時、ドイツに轢き殺されたせいでどうしてもマイナスイメージはあるけど。


そう言えば、ナポレオンは何処に行ったのだろう?世界史の中で最も歴史に影響を与えた人物の1人に、俺はナポレオンの名前を挙げる。他にも沢山いるのは認めるけど、ナポレオンは影響度がトップクラスに大きい。


しかし未だに存在の確認も出来ていなかったので、自由フランスの人達にナポレオンについてのことを聞いて貰ったところ、良い返答は皆無だったそうだ。出世しなかったら、200年前の人間のことなんて誰も知らないものなのか。……共産主義が広まり始めたのは、改変前では確か19世紀前半だった。この世界では、もっと前から共産主義が広がっていたのだろう。


「外国人に対して、否定的な態度じゃなくて良かったと思うよ。もしも最初、日本で暮らしていく際の説明で外国人同士の結婚は如何なる場合も認めないとか言っていたら、ここまで多くの情報は得られなかっただろうし」

「……はい。もう少し、受容の精神は持たないといけません。心の奥底では未だに彼らを受け入れられない気持ちもありますが……ようやく折り合いがつきました」

「まあ、無条件で外国人を嫌う気持ちもわかるけど。人間は異物を受け入れる時に、必ず心の準備が必要になる。その準備が一瞬で済むか、時間がかかるかの違いでしかない」


仁美さんも心の整理が終わったそうなので、受け入れる体制が整ったと思って良い。鞭で叩いて出る情報は、偽情報である可能性も高い。オーレリーさん達の希望は子供達の保護なので、思う存分保護しよう。しばらくは自由フランスの人達に日本語を教え込むと同時に、オーレリーさんにはガソリンエンジンの開発を手伝わせる予定だ。日本語の先生役なら他に数人いそうだし、オーレリーさんは開発に集中して貰う。


これでガソリンエンジンの仕組みさえ理解出来れば、後は改良と小型化だけだ。改良と小型化なら人員を多く割けば何とかなるので、飛行機や自動車への道が明瞭に見えて来た。と言っても、ほとんどのフランス人達は日本語の教育から始めないといけないし、オーレリーさんはガソリンエンジンについて大まかな構造の知識しかないのは不安だ。


……小国の大統領補佐官が何でガソリンエンジンの仕組みについて知っているんだ、とも思ったけど、元々車には興味があったらしく、独学で勉強していたとのこと。車は飛行機よりも先に開発されているだろうし、小国にも存在していたのだろう。


オーレリーさんが研究チームに加わるなら、予想よりも早くに飛行機の開発は済みそうだ。オーレリーさん以外にも内燃機関について知識がある人は多くいるし。それでも他国では10年前に飛行機の大会が開かれていることを考えると、わりと絶望的な技術格差である。

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