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第5話 公然の秘密

夜になって凛香さんの持って来た寝間着に着替え、ベッドに入ろうとしたところであることに気付く。


「……ねえ、夜伽とかしなくても良いんだけど」

「いえ、夜伽に来たわけではありません。望まれるのであれば夜伽でも構いませんが……私のことは枕としてお使い下さい」

「はぁ……はあ?」


ベッドの中に親衛隊の副隊長である愛華さんが潜り込んでいるのだ。しかも枕としてお使い下さいと言われて、思わず硬直する。


「女を枕にする趣味は無いんだけど」

「そうなのですか。羽柴秀吉の日記には『秀則様は女の抱き枕、というものをして眠ることがある』ことを揶揄するような表現がありました」

「……それは確かに言ったかもしれない」

「それに、膝枕を好んだことや女性の胸に頭を預けて休むことが」

「わかった、それ以上言うな」


どうやら俺のプライバシー、というものは無いらしい。秀吉や息子達の日記や記録はかなり精細に残っているらしく、羽柴秀吉、前田利家、蜂須賀正勝といった面々と安土城の城下町で酒を飲みながら談笑していた時の言葉まで記録してやがる。


「……俺の性癖はどこまで記録されてる?」

「秀則様が好んだ女性は胸の大きな、長身で、聡明な方だと伝えられています」

「もしかして、親衛隊を決める時にその条件で選んだりしてる?」

「いえ、親衛隊は女性の士官から優れた身体能力を持つ者を選抜しております。数が少ないと言うのであれば増員を」

「いや、増員はしなくて良いから。部屋の中だけで6人、部屋の外に10人も護衛がいるとか戦国の世でも無かったから」


性癖というか、聞くことも恥ずかしくなるようなことすら愛華さんは知っており、一抹の恐怖を感じる。一体どこまで俺の事が記録されているのだろうか。


愛華さんはどうしても抱き枕になりたいらしく、欲に負けて俺が強く言えなかったせいでベッドから降りてくれなかった。根負けした俺はまだ肌寒い時期なのに妙に暖かい布団の中へ入り、愛華さんは放置して仰向けになる。すると、愛華さんは首に腕を回して来た。


「失礼します」


その言葉とともに愛華さんは脚でも抱き着いて、ギュッと抱き締められる。肩にふにょんとした柔らかな感触が当たり、思わず顔を赤面させてしまった。横を向くと、息が当たるほどの至近距離に愛華さんの綺麗な顔がある。190センチぐらいあるから今まで見上げないと顔を見れなかったけど、今は見上げなくても切れ目で知的そうな美人の愛華さんが俺に目線を合わせて抱き着いている。


おそらく、抱き枕という言葉は残ったけど意味が残って無かったのだろう。意味が変わった可能性もあるけど……そもそも抱き枕という言葉を使った記憶はあるけど抱き枕という言葉の意味を喋ったことは無い気がする。


戦国時代では子供が沢山できたけど、成長というものをしなかった俺は童貞力が未だ消えず、こうやって抱き着かれるだけで反応してしまう。


……初夜の頃はお互いに初々しい感じで夜を過ごせるけど、最終的には嫁の方が慣れてきて初々しい反応が可愛いらしい、とか言ってくるようになる。結局身体的、精神的な成長は全く出来なかった。記憶には残っているからせめて精神的な成長ぐらいはしたかったのだけど、未だに思考が大人になったとは思えないから成長してないんだろうな。


いつの間にか愛華さんはかなり力強く抱き締めており、かなりの圧迫感を感じながら夜を過ごす。他にも護衛の人が部屋の中にいるから手は出さなかった。初対面の女を相手にそこまでする勇気が俺には無い。




右から密着して来る女の柔らかな……胸以外は割と硬い筋肉のある身体に抱き締められながら、俺は一夜を明かした。当然熟睡は出来なかったけど、ここまで尽されると悪い気分にはならない。


「秀則様、お時間よろしいでしょうか」

「……お母さん、息子に敬語を使わないで」


翌朝、部屋を出ると豊森家の現当主である美雪さんが敬語で話しかけてきた。……思い返すと軟禁されていた記憶しか残ってないから良い思い出は無いんだけど、戸籍上は息子になっているし、今までお世話になっているので敬語は止めて欲しい。


「……ごめんなさい、私には無理です。

私は今日から愛知へと向かうので、数日の間は留守にします」

「京都から愛知までは汽車?」

「はい。

明日に愛知で弥生賞が行われるので……秀則様も見に行かれますか?」

「ああ、まだ残っているのか。そりゃそうだ……俺が始めたし」


美雪さんは今から愛知県で行われる弥生賞の開催場所まで行くらしい。三歳馬にとって初の大舞台だし、豊森家の大事な収入源なので行かないといけないのだろう。


……大日本帝国の歳入の1%が競馬での利益である。昨日この事に気付いた時、俺は背筋に嫌な汗をかいたことは覚えている。まだ織田家がそれほど大きく無い頃から、強い馬を作ろうと俺は競馬を始めた。


当初はお金を稼ぎながらスタミナのある馬やスピードのある馬を種牡馬として見極めたい、みたいな軽い気持ちで始めたけど、次第に競馬人気は高まっていってしまった。


「レースの名前も変わって無いのか?」

「ええ。三歳馬の三冠レースとなる弥生賞、皐月賞、菊花賞、それに豊森記念も変わっておりません」

「距離も?」

「もちろんです」


正直に言うと競馬自体はあまり詳しく無いのでレース名は適当につけたし、距離も適当に決めた。織田家が美濃を支配した辺りから不定期開催を止めて、定期開催するために1600メートルの弥生賞、2400メートルの皐月賞、3200メートルの菊花賞、4000メートルの豊森記念を作り、高額の賞金も用意するようになった。俺の身長が165センチ、という前提で作ったコースだったから距離には若干の誤差があったと思う。


最初は歳を考慮しなかったけど、途中で三歳馬だけだったと思い出し、最初期から行っているレースを三歳馬限定の三冠レースとしたら更に白熱。年末に行う豊森記念に関しては歳を考慮せず、過去の実績から豊森家が走る馬を選ぶようになった。次第に地方でも競馬が流行り出したと聞いた時、古馬のレース名や地方のレース名を決めてくれと次々に頼まれた覚えがある。


そして今、大日本帝国の競馬は飛躍的な成長を遂げ、2400mを平均2分25秒で走るとか聞いた。戦国時代は2分45秒ぐらいかかっていたので、本当に飛躍的な成長だろう。


ちなみに芝のレースは無い。というか芝を用意するのが面倒だったので芝とダート、みたいな概念すら無い。天下統一を果たしてからは用意しようか迷った時もあったけど、砂煙を上げながら走る馬が格好良かったからそのままだ。

歴史のジャンル別日間ランキング1位にランクインしていました(2018年9月9日)

沢山のブクマや評価、ありがとうございます。

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