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第69話 南京

食品加工業の更なる発展を目指そうと決めた日の翌日、7月14日の朝に朗報が届く。7月11日に今まで国民党軍が奮戦していた南京が、とうとう陥落したようだ。河川からの砲撃が効果的だったのだろう、と思っていたらどうやら違うようで、確かに河川からの砲撃の効果もあったけど、陥落の理由は別だった。


「黄河の堤防決壊は、あまり関係ないよね?」

「そうですね。陥落した理由は、これかと」


愛華さんが渡してくれた紙に、その理由が書いてある。南京に潜入していた人が届けてくれた情報だけど、農作物の収穫量が悲惨な状況になっているとか。


「昨年度の、5月6月の小麦の収穫量が1380万トンで、今年度は120万トン。

……元々、食糧の輸入は日本に頼っていたんだよね?」

「はい。今年度は輸入していない上、輸入している状態でも毎年のように食糧が足りていないので、食糧の余剰分はあまり無いはずです」

「餓死不可避だな。他の作物も軒並み下がっているし。これが分かったのは7月8日で、黄河の決壊のせいで河北の悲惨な状況が伝わって来たのは7月9日前後だとすると、この情報は中国軍に流されたのかな?」

「意図的に流したという報告は無いので、情報の漏えいが起きていると思われます」


前年比で小麦の生産量がマイナス90%超えとか笑えない状況だ。治安悪化も加速するだろうし、何より士気の向上が見込めない。南京が陥落したのは大きいので、もう国民党軍とは大きな戦闘が起こることも無さそうだ。


「日本の食糧の生産力は、どれぐらい下がりそう?」

「米と小麦は下がらないと思います。動員される予備役の兵は、各国営農場から生産に必要な労働力を残して集めているので」


日本は食糧の生産に問題無い程度の動員にとどめているとか。まあ人口が多いから、こんなに余裕なのだろう。150万人以上を動員しているけど、総人口で見たら0.3%とかむしろ少なく見える。


……被害は、日本の死傷者が13万人で中国軍の死者が120万人だ。中国側の被害が膨れ上がった原因は、南京の固持のせいだな。土地に拘ったせいで人が固まり、そこに慎重派な軍団長が砲撃を浴びせ続けた。結果、南京手前では中国人の死者が巨大な壁のように積み上がっているらしい。山にして片っ端から燃やしているのに火葬が間に合っていないとか、日本軍による虐殺みたいなものだな。


ちなみに、南京で虐殺は起きなかった。政府関係者は逃げ出していたし、反骨精神旺盛な人間は死体の山を形成する一部になっていたので、南京に残っていたのは逃げ遅れた女子供だけだった。日本としては都合が良いので、恭順の意を示せば食糧を分け与えている。


恭順の意を示す、は全裸土下座のことなので、そこまでプライドを捨てる中国人が南京にいるのだろうか、と思っていたら街中の9割以上の人間が従ったとのこと。残りの1割は自決したようだ。全裸土下座を止めさせようかとも思ったけど、便衣兵との見分けがつく一番の方法なので、代わりの案が思い浮かぶまではこのままだな。


……服を着たまま投降した人間に対しては、銃を突き付けて裸にさせているらしい。着る服すら用意する疑い深い日本軍である。服には番号が刷られていて管理しやすいので超効率的。最近では捕虜の服が足りなくなってきているから、日本の繊維工業は儲かっているようだ。


民間企業が国の発注で服を生産するのって、公共事業と言って良いのかな。というか民間企業もわりと公共事業で成り立っていそうだから、国への依存度が高い。誰も豊森家に逆らえない社会が確立されている。


「北から攻めている軍は続々と黄河付近まで到達しているそうだし、黄河の堤防決壊も修復作業に入ったみたいだし、もうそろそろ降伏しそうなものだけど、民意はまだ徹底抗戦?」

「民意は既に半数以上が抗戦の意思を失っているはずです。既に南方戦線や香港戦線の侵攻は止まらず、湖南や江西で占領地を広げています」

「南の方の軍団は元気だな。今まで大きな戦闘も無かったみたいだし、敵が戦意を失っているから進軍スピードが想定以上だ。こうなると、問題は共産党軍か」


既に投降する軍すら出てきているので、中国は末期感が漂っているけど、国民党の指示が生きている地域では必死の抵抗が見られるらしい。開戦から2ヵ月半、厭戦気分が蔓延している国民党軍が大規模な反撃を出来るとも思えないから、注視すべきは共産党軍か。


「その共産党軍からですが、中国共産党による陝西以西の統治権を認めてくれるのであれば講和する、という和平案が届いています」

「正当な政府でもないのに講和をするわけがないな。戦争中に勝手に独立宣言しただけだし、そもそも陝西以西じゃ中国共産党は何の痛みも負わないし」


共産党軍は勝手に独立宣言をして中国北部で暴れ回っているから、本当に厄介な存在だ。南京が陥落する前なら、講和もちょっとは考えたかもしれない。でももう国民党軍の柱がばきりと折れた音がしたので、南方戦線が重慶まで到達したらそのまま北上して延安まで進軍することも視野に入れる。


重慶から延安までも1000キロ以上はあるけど。やっぱり中国って広いな。これほど広くて人口も多いのに、技術の差と戦術の差で日本とは大きな溝がある。既に中国軍は300万人以上を動員しているようなので、そろそろ中国の全成人男性の10%ぐらいは動員しているか。これ以上中国側が動員して死者を増やせば、中国の人口ピラミッドは崩壊を始めるけど、日本的には戦後の統治が楽なので崩壊しても構わない、という思考だ。


……亡命して来たフランス人や投降した中国人のためにも、外国人の地位向上は考えておこうか。混血人はまだ条件が緩いけど、外国人の男性は結婚のハードルが超高い。その上、外国人同士の結婚が認められていないのは、流石に許容できない。


まあ、民族浄化を行うなら外国人の地位は低いままの方が手っ取り早いのかもしれないけど。それでも日本の発展に尽してくれるような人の人権を無視はしたくない。

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