第66話 銀行制度
昼過ぎから始まった話し合いは既に夕刻を迎え、そろそろ夕食の時間になるので休憩を挟む。思っていた以上に改変前の世界の昔話と教員の制度で時間がかかった感じだ。第一次世界大戦と第二次世界大戦は全ての戦いを詳細に覚えているわけでは無いが、ニヴェル攻勢やソンムの戦い、ミッドウェー海戦や沖縄戦など、有名な戦いは覚えている。
……今の日本、通信技術が無いのに歩兵の攻撃と砲兵の砲撃を同時に行っているけど、可能な理由は単に砲の飛距離が短くて弾道予測がしやすいから、かな?結構誤爆していた気もするけど、効果が大きすぎて止められない状態になっている。
今より砲の飛距離が伸びてくると危険な戦術だから戦術の切り替えは視野に入れさせよう。そこまで考えたところで、夕食が到着する。相変わらず肉も魚も美味しいけど、魚は養殖とか始めたのかな?
「魚の養殖って、もうしているの?」
「はい。今日の鮪も鰤も養殖物ですね。天然物は過去、乱獲していたせいで数が減っているため、現在は漁獲量を調整しています」
「……完全養殖?受精卵から鮪を作れるの?」
「200年以上前から、魚の養殖と品種改良は行っています。
と言っても、鮪に関しては最近になってようやく大きさが一回り大きくなった程度ですが」
仁美さんに聞くと、どうやら遥か昔に天然物の漁獲量が年々減っていくという現象が起きたため、漁獲量の規制を設けたり、養殖技術の研究を進めていたらしい。日本の人口が増えた弊害だろう。今日のマグロもブリも養殖物で、一から生育をしているようだ。
……生物分野に関しては改変前の日本に迫る分野もありそうだな。まあ理論が分かって無いのに実践していることが多いから、根っからの工学者が生物分野には多くいる感じか。
養殖物のマグロと天然物のマグロ、それなりに味の違いは分かっているつもりだったけど、全然分からなかった。ちなみにマグロの養殖は難しいらしく、卵から成魚まで育つ確率は5%前後とのこと。それなら流石に改変前の日本の方が技術は進んでいそうだな。
食事を終え、再度小部屋に集まって今度は銀行制度の見直しに入る。現在、日本の銀行は国が運営している赤字垂れ流し事業の1つとなっている。安定して赤字とかさっさと止めたら良かったのに。でも雇用対策にもなっているから止められない現実。切ったその後の対応までしないと失業者で溢れかえることになるから、国有企業の解体を実行する気にはなれない。民営化とかリストラの嵐だろう。
「手数料が引き出し金額の1%って、1万円なら100円取るのか」
「1万円以内の引き出しでも、100円を手数料として頂いていますね。それでも利用者は多いですし、国営企業の給料はここに入ります」
「……銀行を何社か建てさせるよりも、国が保障する方が良いのか?
お金の貸出については、金利を何%にするかも問題だな」
「出来る限り破綻者を出したくないのであれば、金利というものは下げた方が良いかと」
経営を見直した結果、引き出し時の1%だけで運営していけるはずも無いので貸出は実施させる。赤字は、あまり問題視されていなかったらしい。一応収益があるから雇用対策にはなっているし、他にも赤字の企業がいっぱいだから目立たなかったのかな。
問題は金利をどうするかだけど、これはこの場にいる人間に任せよう。俺より確実に地頭の良い人間が9人もいるんだから、きっちりと計算をして答えを出してくれるはず。
そして全員、式も教えてないのに仮定から計算を始めてどの程度の金利が良いのか算出を始めた。やっぱり予算編成の決定権を持つ人間達なだけあって、計算が早い。特に対面に座る男の人は電卓より計算が早そうな気がする。
「……年利は3%程度にしておきましょうか」
「その程度で、赤字にならないの?」
「ギリギリ赤字にならない計算ですね。もっとも、銀行内の5割の金額を貸し出した状態での話ですが」
「借りてくれるかもわからないから、難しいな。預金残高から5割を貸出なら……まぁ良いか」
すぐに出た答えを纏めて仁美さんが報告してくれるけど、3%か。年利3%と聞けば安い感じだけど、企業としての成長を目指さないならこれで良いのかな。預金残高以上のお金を貸し出すと良くないことは知っているので、預金残高の5割という制限を設けることにした。
「……これって引き出し時の手数料がある前提での金利設定?」
「はい。引き出し時の手数料を無料にするのであれば、金利を5%から6%程度にしないと赤字解消にはなりません」
「そういう2択になるのか。まあ貸出が一般的になれば手数料を引き下げる方針で良いと思う。
……借金をさせることになるから、借りる人間の調査はしっかりして欲しいし、融資上限も決めて欲しい」
手数料は高い気もするけど、当分は下げられなさそう。いきなり5割全てを貸し出すことができる訳じゃないし、様子見が必要だな。……国民がお金を借りて事業を始める、という発想を持つかどうかも微妙だし、かなり安定していた社会だから、変化を嫌う人間は多そうだ。
「そもそも民間企業が存続していること自体、異様か。なるべく潰さないようにはしているんだよね?」
「はい。独占事業は見逃していませんが、大半の分野では競争しないようにしています」
昔、何処かで聞いた夢のような話を、この国は実現出来てしまっている。小麦を作る人の賃金を上げて、パン職人の賃金を上げて、パンの値段自体は下げる。間に国が入るなら、この話は実現可能な話になってくる。というか国有企業の大半が税金で赤字を補填しているから、経済全体が歪んでいるのだろう。正常な状態に戻すには、それなりの年月をかけて経済を回しながら戻すか、経済を一旦壊すかのどちらかしかない。
……じっくりと時間をかけながら、正常な状態にまで戻そう。とりあえずは給与形態の見直しをするとして、後はこの場にいる人に任せる。俺よりもこの場にいる人間の方が、経済については分かっているだろう。




