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第64話 政治体制

今後の方針で世界統一を伝えたところで、反対者は出なかった。しかし政治体制を変えようとするような発言をしたところで、反対者が出る。


「今から政治体制を見直そうと思っているけど、反対者はいる?」

「……秀則様は、民主主義を掲げるのですよね?」

「いや?違うよ?」

「えっ」


口を挟んだのは仁美さんと仲の良さそうな女性だったけど、民主主義に反対らしい。……確かに俺は民主制の日本で生まれ育って、如何に民主主義が素晴らしい政治かということを擦り込まれた世代だけど、別に俺自身は本当に民主政治が素晴らしい物だとは思っていない。


「そもそも、未来に悲観して1日に100人を超える人間が自殺していることも珍しくない改変前の日本が、本当に素晴らしい世界だったとは思っていない。……この国では自殺者が年に数人もいないと聞いて、その点では改変前の日本が負けているとも思ったよ」

「1日に100人もですか!?それは、大丈夫なのですか?」

「誰も大丈夫だとは思っていないけど、誰も真面目に防ごうとしないから、きっと年に2万人以上の自殺者が出る日本は当分変わらなかっただろうね」


この日本では、1年に10人も自殺者が出たら大事件だ。自殺者が出るとしばらくその話題で持ち切りになるぐらい、珍しいという認識だ。単に飛び降り自殺をしただけじゃニュースにもならない日本とは大違いだな。この点だけなら、改変前の日本が大敗している。


第一、かなり上手くいっている部類に入る管理社会だ。これを壊すのは惜しいし、将来的には管理社会を内包した政治体制にしようと思っている。


「政治体制は当分の間、このままで。投票という制度だけは導入しようと思っている」

「投票ですか」

「ああ、仁美さんが嫌なら導入しなくても良いよ。このままの体制で固定しても良い。でも出来れば沢山の案を出して、そこから多数決という形にしたい」


予算や法律に関して、豊森家内部での多数決を採用する。今までは完全に独裁体制だったから、それを少しずつ切り崩すつもりだったけど、色々と見て回った結果、無理だという判断に至った。既に、国として完成されているのだ。だけど将来的に民主化を求める声が大きくなった時に向けて、引き継げる体制にはしておきたい。


それに国民が十分な教養を積み、それでもなお独裁制の方が良いというなら、国民全体の考えとして独裁政治の方が良いと結論を出すなら、独裁政治でも良いと俺は思った。


「国民の判断を仰いで政治形態を決めるのは無理そうだしね」

「……最終的な判断が国民であれば、それは民主政治なのでは?」

「別に、最終的な判断をする国民の数や人種は指定しないつもりだったよ。それこそ豊森家の人間内だけで決めて良かった。

これまで日本の事を真剣に考えて発展させてきた豊森家の人間に、その決断は任せたかった」


政治形態を決めるのに投票を行うのなら民主政治じゃないのか、という突っ込みが仁美さんから入ったけど、その投票の投票権を持つ人間の選別については豊森家に一任する予定だった。しかし国民の教養が追い付いていない上に、国が機能しなくなる恐れがあるなら民主化はしてはいけない。


国が機能しなくなった途端に、紙幣がただの紙切れになる。そうなれば待っているのはジンバブエより悲惨な結末だ。……自給率が高いから、そこまで酷い状態にはならないかな?


国として機能させるために豊森家の多くを国の中枢に残すなら、完全な一党独裁体制にもなる。それならまだ、独裁体制のままで良い。


国民性や、教育度合いによって、適切な政治体制は変わる。元々、戦争中や戦争の危機が迫っている状況で完全な民主制まで試すつもりは無かったけど。それでも何かしようと考えた時に、投票だけは行わせたいと思った。


「とりあえずはあの豊森家の予算会議にいた人物だけでの投票、という形になるけど、今までは仁美さんを含めた8人が話し合って、仁美さんが結論を出していたんでしょ?それを数百人規模で行うというだけだよ」

「それは、我々が間違っていたからですか?」

「んん……?

8人だと間違える、という意味で言ってるんじゃないよ。数百人規模の意見を纏めた方が良い、という考えだ」

「……秀則さんは、国を導く人数は多い方が良いという考えなのですね」

「まあ、一応そんな考えを持っていることは否定しないよ。でもこの国の国民の教養や感性が向上したとして、なお独裁制が良いなら独裁制でも良い。民主化に切り替えて失敗した国は沢山あるからな」


仁美さんが突っかかるのは、当然だろう。というかもっと反発があるものかと思ったら、全員思案顔。


……実は、民主化を行って失敗した国家は数多く存在している。特にアフリカの国々はその代表例だろう。国民が、政治家が、意図を理解しないまま民主制にしたところで、今はまだ失敗するだろうと思った。今まで発生していなかった汚職の発生が怖かったのもある。いや、汚職が発生していない現状が異常なのだけど。


戦争中に民主化とか負けフラグしか立たないから、民主制に路線変更するにしても、もう少し待って欲しい。だけど国家方針が世界統一で、そのためには戦争もためらわない、国有企業が沢山ある民主政治の国家って何だろう?実現出来たら面白国家ってレベルじゃないな。そんな国家でも、秀則様の指示であれば遂行してしまいそうなのが今の日本である。


この場合、何主義になるのかな?一応権威主義?別に、政治形態について深い理解がある訳でも無いし、名前はどうでも良いけど。




その後、この場での話し合いで豊森家の重鎮達に投票権を持たせることが決まった。独裁制に変更は無し。俺の投票権は無い、というか自分から辞退した。俺が投票権を持っちゃうとその通りに改竄されそうだし、この国の未来はこの国の人間が決めるべきことだろう。投票後の具体的な政策についてはそもそも関われるほどの頭を持ち合わせていない。


とりあえず提案する権利だけは残すけど、それ以外の権利は極力剥奪するように言う。危険な言い方であることは承知の上だけど、俺がいつまでもいるのかわからないし、こういうことは早い方が良いだろう。今後は俺が主導で物事を解決する、ということは出来ないようにしたいけど……。


それもまだ難しいそうだし、後で気になった時に気になった事を伝えられなかったら残念だから、ある程度の発言権は残しておこうか。


……数日後に投票のことは公布するようだけど、施行は先になりそう。公布と施行までの期間は特に設けられていないとか、色々と言い訳できそうな国家だな。

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