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第57話 桃園

今回と次回の話はブラックな要素が含まれています。

昼食代わりに美味しい桃を堪能した後、本来の目的である労働者達への聞き込みを開始する。とりあえず、1番若そうな13歳の少年に話を聞いた。


「収穫期は、1日何時間ぐらい働いている?」

「朝の6時ぐらいから、夕方の6時ぐらいまでは働いているから、休憩を抜くと10時間ぐらいだ」

「ずっと木に登って収穫してるの?」

「いや、午後は目標数に達したら大きさで分けて、出荷準備をするぞ」


彼は働き始めて3年目で、収穫期は毎日のように10時間労働を繰り返しているようだ。収穫期以外も剪定作業や袋掛作業が大変らしく、あまり休めてはいないとのこと。収穫期以外は8時間労働や週一ペースの休日が厳守されているから、稼ぎは良く無いらしい。


「まあ収穫期に桃は1日3個まで自由に食って良いし、結構稼ぎは良いぜ」

「お、どのぐらい稼げるんだ?」

「収穫期は、ボーナスや時間外労働手当が出て月に10万円を越えることもあるな。去年の7月は、11万円ぐらいだったぞ」


桃農園の給料はそこそこ出ているらしく、年収にすると国営農場の給与としては一般的な50万円ほど。まだ3年目だから50万円なだけで、勤続年数が10年を超えるともう少し出るみたいだ。それでも収穫期以外の月収は平均を下回っている感じだな。7月と8月だけ10万円で、他の月は3万円って感じか。国有企業で10代だから無料の寮があって、朝と晩の食事は出ているからそれなりに良い生活、か?


「寮の飯は美味いか?」

「苦手な料理が出ることもあるけど、不味いと思うことは無いぜ。昨日の夜はカサゴの煮付けと味噌汁。今日の朝はパンとジャムだ。ご飯とパン、サラダは食べ放題だな」


食事は纏めて作るそうだから、大雑把な料理も多そうだ。料理人もずっと料理してそうだし、大変そうだな。パンを作る機械とか作り方がわかれば導入したい。まあ、不満が無さそうなら良いか。


「そろそろ仕事に戻って良いか?」

「うん。あ、最後に聞きたかったんだけど、仕事を怠ける人はいないのか?」

「……たまにいるけど、どんどん給料が差し引かれていって最終的には食事が出なくなるぜ。そうなったら寮からも追い出されるし、野垂れ死ぬしかない」


少年が仕事に戻りたがっていたから、最後に仕事を怠ける人がいるのか確認を行うと、最終的に追い出されるとのこと。今日も収穫した桃が目標数に達しなかったら、給料からある程度の天引きが行われるらしい。目標数は天候や時期によって毎日変わり、当日の朝に園長から伝えられるそうだ。


園長も目標数達成率や土地面積に対する収穫量の比で評価され、周りと比べて生産性が著しく低ければ首が飛ぶし、高ければ報奨金が出る。災害時はどうするんだと聞いたら、災害時は流石に考慮されるそうで生産量は度外視されるようだ。


一通り見て回ったけど、思っていたよりもマシな管理社会だった。園長がデータを改ざんしていたら気付けそうにないけど、そういう時は下の人間が告発できる仕組みらしい。というか告発推奨だから下の人間が常に監視している状態だな。上の人間が下の人間を管理して、下の人間が上の人間を監視している。


告発が成功すれば不正の規模に応じて国から報奨金、告発が失敗しても罰金で済むなら、でっち上げでの告発もありそうだけど、その場合は捕まるリスクがあるし、そこまでする人間は今の所いないとのこと。


……たぶん、ここまで行き着くのに色々な試行錯誤をしたのだろう。きっとこの形態も問題点が浮き出れば、改正されて別の仕組みに変わるはず。今の所は問題無く継続しているようだし、従事している人も死んだ目で延々と農作業をしている、って感じじゃ無さそうだ。イメージだと農園の主が鞭で叩きながら強制労働をさせていたけど、悪い予想をし過ぎていたか。


「仕事を行える能力が無い場合、どうなるんだ?」

「どんどんと簡単な仕事へ移行し続けていきます。運搬系が多いですね」

「……重度の精神障害者の場合で、それすらも行えない時は?」

「女性であれば、子供に養ってもらえる可能性もあるかと」


複雑な仕事を遂行できる能力が無い場合を愛華さんに聞くと、単純作業の多い仕事を任せるという返答だった。そしてそれすらも行えない時、女性の場合はパートナーや子供に養って貰うしかないとのこと。この言い方だと、男性で重度の精神障害者の場合は切り捨てているのかな?


「男性で重度の精神障害者は、何か任せられないのか?」

「人口を増やす目的で確保しても障害は遺伝する可能性が高いため、放置します。何か事件を起こさせてから、逮捕、収容の流れですね」

「あれ?生かすんだ?」

「……何かを食べて行かないと死ぬ点では、普通の人間と変わりませんから」


男性で重度の精神障害者の場合、全ての単純作業で何もできないと判断されれば仕事を任されなくなるらしい。その後は食料品と日用品の配給が形式的に行われるけど、半月も経たない内に問題を起こすから逮捕して拘束する、と。何でそんな面倒なプロセスを踏んでいるのか疑問だけど、刑務所での強制労働から逃げ出したり、反抗的な態度の犯罪者は人体実験の被験体になるという説明をされる。


……愛華さんから詳しく説明されるけど、強制労働自体はイメージ通り管理者が鞭を振って劣悪な環境下で無理やり仕事をさせている感じ。当然、重度の精神障害者はその労働をこなせないので、反抗的と判断されて行き着く先は人体実験の被験体だ。最近では手足を拘束され、特定の食事のみ摂取させ続けるとどうなるのか、アルコール中毒となる量の酒はどのぐらいかを真面目に研究している模様。頭おかしい。


なんか中国で反抗的な捕虜の手足を拘束して、延々と食事を流し込む光景を見た気がするけど、あれは特定の食事のみをとらされていたのか。極度に偏った栄養の食事を続けさせるとか、身体が1週間も持たなさそう。今は何の意味があるのかわからないけど、将来的には何かに使えそうなデータではある。使える時代になった頃には、非人道的過ぎて非難轟々だろうけど。


スパッと殺すよりも、人体実験をする方が有益だから人体実験をするという発想が怖い。一応、同じ社会的弱者である老人に関しては60歳以上だと年金のようなものを貰えて快適な生活を送れるから、障害者でも配給の食料と日用品だけで生きて行けば、60歳を超えるとお金を貰えるので困窮することなく普通に生きていけるようだ。


そもそも、60歳まで問題を起こさずに生きていける障害者がほとんどいないみたいだが。親やパートナーが長年健康でかつ、熱心な介護を続けられるなら可能性はある、ってところだ。


……先天的な障害と後天的な障害で、場合分けもしているのかな?

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