第54話 給与
思っていた以上に彩花さんの全国大会5連覇は凄く無いのではないか、という考えが頭を過ぎったけど、地区大会が大きい所で500人規模の大会。地方大会が地区大会を勝ち抜いた200人規模の大会。全国大会が地方大会で勝ち上がった64人での大会と聞き、彩花さんが大会に出る全国のべ500万人の頂点に立っていることを愛華さんから説明された。
……将棋人口が多いな、とは思ったけど日本国民5億人の中の500万人だから1%か。割合的には少ないのかな?予選だと使われる砂時計は1人10分とのことだから、超早指しになりそう。
「将棋の場合は地区大会優勝で2万円、地方大会優勝で10万円ですね。参加費は500円になります」
「あれ、参加費は安いのか?ああ、でも500円あれば2食は食べられると思えば、高い方か?500万人が参加するとして、集まる金額は25億円?」
参加費の500円に関して最初は高いと思ったけど、人件費で5億、設備費で10億、賞金は全国大会出場者に合計で6000万円ぐらい出していて、地方大会や地区大会での優勝賞金を足すと億は余裕で超える。わりと妥当な値段設定だった。
500円もあれば美味しい昼食が2食分買える程度のお金だから、低所得者層だと高く感じそうな参加費だ。しかしこういった大会1つでも、総額で25億円程度のお金が動いている。
……定食屋で、日替わり定食がどこでも200円程の物価と聞くと、違和感がある。お金の単位で貫を使ってくれたら、価値観は合致するのに。慣れている円の単位で価格を言われるから、未だに価値観が合わない時もある。
「……愛華さん達ってお金はいくら出てるの?」
「親衛隊員の基本給は月12万円です」
「うん?思っていたより、安いのかな?」
「私であれば、副隊長なのでもう少し多いですが、それほど変わりません。
秀則様が定められた1日8時間の労働時間は重視されています」
お金の事を考えていたら気になったので愛華さんに給料を聞いてみたら意外と安かった。1日8時間労働も守っているようで……守ってる?
「愛華さん、親衛隊の時間外労働手当は?」
「……私の場合、1時間当たり1000円です。5月は200時間ほどでしたので、時間外労働で20万円ほど追加で出ています」
「休日とか、無かったように思えたけどお金の使い道とかあるの?」
「正月とお盆で休みは頂く予定です」
良く考えたらずっと傍にいるので気付かなかったけど、愛華さんや凛香さん、彩花さんには休日が無かった。普通の隊員なら交互で休んでいる感じだったけど。護衛役とかずっと立っている仕事だから、嫌にならないのだろうか?子供に使い走らされる訳だし。お金は結構出ているみたいだけど。
愛華さんだと基本給が月12万に追加で50万円ほど貰っているらしい。愛華さん自身が散財している光景は見ないので、そこそこ貯えてそうだ。
……天下統一目前ぐらいに、定められた労働時間以上を働かせると、時間外労働として別途お金を払わないといけないシステムを導入した。別に、時間外労働手当を払えば幾らでも働かせることができる、という意図があったわけでは無い。というか豊森家の人間と豊森家に仕える人を中心に、俺が休めるようにするため導入した制度だから、一般に向けて導入した訳では無い。
戦国時代だとそもそも労働時間という概念が無かったから、無理やり豊森家で雇っていた女中や兵士達を中心に取り組んだだけだ。門番は門の前で8時間、女中は料理洗濯掃除で8時間、というように労働時間を定めて、賃金も月単位で固定する。文句が出なかったのは、俺が価値観を破壊し回っていたからだろう。
「一次産業の国有企業に従事する人は平均年収が50万ぐらいだから、月に4万円前後か。……昔の日本って、大卒でも月収1万円とかだっけ」
「今も昔も、それほど価格や貨幣価値は変わりませんよ?」
「いや、ごめん。こっちの話だ。
早めに、貨幣価値については慣れることにするよ。……インフレもデフレもしないのは、良い事なのかな」
貨幣価値は今も昔も変わってないと言うことで、日本の成長の無さが伺える。というか紙幣の価値がずっと変わって無いのは安定した政治のお陰だろう。出生率すらコントロールして人が増えすぎないように管理している。管理し過ぎていて成長に割ける余力が今までほとんど無かったみたいだ。最近は少しずつ余裕が出始めたみたいだけど、それでも社会全体の成長は遅かった。
長年かけて作り上げた管理社会を、今さらぶっ壊すのは勿体無い気もする。今は1番上手くいってない、技術開発を手伝っている訳だけど、工業への注力も始めたいから国有企業の比率は下げたい。でも民間企業中心に移行して、弾薬の値段や銃の値段を戦時中に上げられたら、国を動かす立場からだと鬱陶しいな。
民間企業と国有企業の比率で1番良いバランスとか知らないから、とりあえず一次産業だけでも国民に任せたい。任せたいけど、食料品の値段を一定に保つにはある程度の国営農場は欲しい。あと、単純に雇用対策としても有効だったから、集団農場の解体は新たな雇用問題を生み出すことにもなる。
……公共事業を国有企業でやっている感じだから、これを切り離す、か?もう少し、社会の仕組みについての勉強をするべきだった。というか集団農場が成功している現状がおかしい気もするけど、一回視察に行って現地の人の言葉でも聞いてみようかな。