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第51話 帰還

7月4日、豪雨により山火事がようやく鎮火した日に、北京から帰る準備を始める。レールの敷設は完了したようなので、帰りは汽車だ。徒歩や馬車での長距離移動も覚悟していたから、ゆったりしながら移動できるのは嬉しい。


「北京から旧国境地域までの400キロの区間を、よく2ヵ月で敷設できたよ」

「実際には直線距離で敷設はしていないので、500キロ近いでしょうか?高速での運行は安全とは言い切れないため、まだ徐行運転になります」

「……国境地帯まで、何時間汽車に乗っていれば良いの?」

「合計で15時間ぐらいですね。今日は途中の承徳市までの移動となります」

「それ、天津まで移動して船で帰った方が……いや、同じぐらいか」


行きは速度重視だったけど、帰りはかなりのんびりとしている。まだ突貫工事で作った路線だから速度を出せないみたいだ。実際、よく揺れるし怖い箇所もある。だけど2ヵ月で400キロは、1日に7キロ近い線路の敷設をしていることになる。……北京に着いたのはもう1ヵ月ぐらい前だから、分割すれば無理なく可能なのかな?


「戦場を体験して、足りない物や思いついたものは何個もあるけど、予算が足りなくなるな、これ」

「秀則様は、どのような優先順位を付けるべきだと思いますか?」

「注力するならガソリンエンジン、ダイナマイト、ハーバー・ボッシュ法の3つか。

他にも電報に電話、機関銃、ガトリング砲、自転車……要塞線の構築や教育、火砲や艦船への注力もするなら金が足りないってレベルじゃないな」

「……何か、簡単に大成果が出るものはありますか?」


最初、十数兆円分を好きに使って良いと言われたけど、研究開発を同時に複数推し進めると予算は湯水の如く溶ける。それでいて無事に成功したのがハンググライダーと電報ぐらいだからやってられない。電報、というか電信は針の揺れで文字を示すとか言っていたけど、成功して短文を3キロ先に送れる程度だから、まだまだお金はかかるだろう。


……電波式の無線通信は、思っていたより早く実現出来そうな気はする。まだ研究開発を推し進めてから3カ月ぐらいしか経ってないし、これからどんどん成果が出て来るのかな。


「簡単に大成果、か。気球とかはすぐに出来そうだけど、まだ無いのかな?」

「ききゅう、ですか?」

「熱した空気を集めて空を飛ぶ感じのやつ。無さそうなら、袋と焚き火で再現は簡単に出来そうだけど……」


愛華さんが簡単に大成果が出るものを求めて来たけど、そんなものがあるのならさっさと出している。というか、戦国時代にいた時に簡単な物は出し尽した気がする。……とりあえず、簡単に成果が出そうだけど個人的に信用がイマイチな気球の概念を伝えたけど、気球はすぐに落ちそうだし、気球を発展させた飛行船も爆発する印象しか無いんだよな。


パラシュートならすぐに出来そうだし、保険としてのパラシュートを開発出来た後なら気球や飛行船を作ってみたいけど。誰か1人ぐらい熱した空気を集めて空を飛んでみよう、と思った人はいなかったのかな。


「ハーバー・ボッシュ法は、詳しく覚えてないけど窒素と水素で簡単にアンモニア作る、って感じの方法だったと思う」

「アンモニアは、何に使えるのでしょうか?」

「……肥料とか?」


つい先日、化学式を頭に思い浮かべてハーバー・ボッシュ法の材料を思い出したので、再現しようか検討中だけど、その具体的な方法がわからないから辛い。窒素と水素も合っているのか怪しいし。触媒とか要るんだっけ?触媒が何かわからないけど、難しい物では無かった気がする。総当たりで実験をするしかないか。


……アンモニアは、何かに使えるのだろう。そうじゃないと有名にはならないからな。こういった面で、知識は有用な時もある。




朝方に北京を出発し、夕方になって承徳市に到着。一月前は瓦礫の山だったけど、すでに街づくりが行われているからか、整理整頓が行われていた。この承徳市は、アスファルトを中央の通りで使ってみるそうだ。


朝鮮半島の付け根の部分にある遼河油田の石油をここまで運んで、蒸留装置で精製をしているらしい。アスファルト以外の、軽油や重油が増えていくから保存場所が問題になっている。ガソリンエンジンの実験で使おうとしても、模型で大量に使うことは無いから少量で済む。思っていた以上に歯車が噛み合わない。


そもそもアスファルトの道を作った所で馬車の行き来がしやすくなる程度のメリットしか無いし、現状だと採算が取れない。一本だけアスファルトの道を作っても効果は実感しにくいだろう。……馬車や騎兵が現役だから、馬が重宝されるのだろう。馬が手軽な乗り物であることは否定しないけど、自転車を普及させるべきか。


自転車が普及すれば、アスファルトの道の効果が出るから我慢の時かな。今はまだほんの一部にしかアスファルトの道は作られてなかったけど、久しぶりにアスファルトの地面を蹴れて懐かしい思い出が蘇った。


……予想以上に沈み込むというか、柔らかい気がしたから、アスファルトの層は厚くするように言っておこう。


「現状、石油の精製後の利用先があまり無いので……何か大規模に使うことの出来る使い道はありませんか?」

「アルコールランプみたいなものを作るぐらいしか思い浮かばないけど、行灯の燃料として使うとか?」


とりあえず精製した石油は貯蔵するだけなのも勿体無いから行灯の燃料として使ってみるように愛華さんに提案する。長く燃焼しそうだし、灯りとしては十分なんじゃないかな?ちょっと勿体無い気もするし、どうせ電気を使うようになるまでの僅かな期間しか活躍しないだろうけど、死蔵するよりかはマシだ。


……灯油って、行灯の油って意味なのかな?

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