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第50話 太行山脈

6月29日の昼過ぎに、7月上旬までに各戦線に配置すると言っていた師団が北京に到着した。新しく動員した50個師団の内、12個師団が北方戦線に配属され、その内の6個師団が北京方面に配置されたのかな。数が多く感じるけど、1個師団1万人だからそれほど多くは……ないこともない。普通に多い。


この6個師団は西へ戦線を押し上げて貰うけど、その前に共産党軍が北京市から見て西にある山に布陣し直したので、北京居残り軍団の4個師団と合わせて10個師団で攻撃を開始する。この山は中国を東西に分ける太行山脈を形成する山で、標高は1000メートルを余裕で超える。


……とうとう中国奥地で本格的な山登りを開始することになったのだけど、こちらの士気は高い。いっそのこと、山を燃やしてしまおうかとも思ったけど、そんなことをしたら戦後の復興が大変だから止めておく。こちらも被害を被るかもしれないし。


「戦後の復興が大変になるだろうから、燃やさないように言ったのになぁ……!」

「斥候が無事に下山したので、こちらに被害は無さそうですが……山火事が何日で収まるのか、見当がつきません」


と思っていたら、共産党軍が放火した。油も使用したらしく、大規模な山火事になっている。北京は今月に入ってからあまり雨が降らなかったため、よく燃えるのだろう。狙撃兵達、特に不破野さんが山の下腹部にいる共産党軍の兵士を狙撃してくれたお陰で、共産党軍は早いタイミングでの放火を始めたのだと思う。それでも一部の兵は山に入ってしまっていたから、火傷を負った人もいるようだけど。


……山で伏せている兵士が見えて狙撃出来る不破野さんは色々とヤバい。撃てそうなので撃ちに行っても良いですか?と聞いて来たので許可を出したら、僅かな時間で15人以上は射殺しているようだし、ロシア製の小銃との相性が良すぎる。


というか、戦争の途中から記録を付け始めた上に、ちゃんと確認が取れた死体だけを数えて200人以上を狙撃しているのだから救えて良かったとしか思えない。誤射に関しては、豊森家の人間の影響力というか、悪い面が出た事件だった。誤射された人には申し訳ないけど、不破野さんには働かせて償わせよう。


凄い勢いで山が燃えているので直接的な消火活動はしないように言って、軍を総動員して野営地までにある可燃物の排除を行う。野営地まで熱波が来たら日本軍が丸焼けになりそうだから、完全に火を食い止めるよう短い草でも除去して土塁を作る。土塁なら燃えないし、その裏には簡易的な塹壕があるから距離のある野営地まで燃えることは無いだろうけど、念のために除草しておいて損は無いだろう。


「完全に、出鼻を挫かれましたね……」

「天候によっては、1週間以上燃えるだろうな。雨乞いでもするか?」


ずっと煙が昇っているので、鎮火までに何日もかかりそうだ。雨が降ることを祈るしか無いけど、中国って7月に雨は降るのだろうか?気温も上がってきているし、最悪のタイミングだな。愛華さんが悔しがっている表情、初めて見た気がする。


「自国領でこういう手段を取るってことは、完全に後が無いことを理解した上で実行しているだろうし質が悪い」

「完全に、嫌がらせでしか無いですよね」

「うん。日本軍を削るための火計では無くて、足止めのための火計だからね」


共産党軍は日本軍が山に足を踏み入れてから放火するつもりだったようだけど、抵抗手段を持たない少数の兵は狙撃兵の的でしかない。……山に潜む兵士を狙撃できる人が多い日本軍はおかしい。


こちらの兵の数が多かったから、伏兵を警戒しながら進軍出来ていたことも大きいと思う。報告では斥候役の偵察隊が敵軍と山中で接触した時、敵が火炎瓶を投げつけてきたとのこと。それが木に燃え移って、山火事に発展したのだろう。この時点で火計で日本軍を焼き殺す企みは失敗しているから、油を撒きながら逃げたのは彩花さんの言う通り嫌がらせでしかない。むしろ、共産党軍の方が被害は大きいだろう。


……北京市内で兵糧庫を焼かれた時もそうだけど、火炎瓶があることは意外だ。構造的には簡単なんだけど、登場は遅かったはずだし。油でも入れて投げてるのだろうか?それとも、まさかとは思うけど石油があるのかな?


火炎瓶を投げつけられたことで、手榴弾の存在を思い出したので愛華さんに手榴弾の開発を頼もうとしたけど、先にダイナマイトを開発した方が良い事に気付いた。手榴弾っぽいやつは既にあるし、後回しにしよう。ダイナマイトに関しては、ニトログリセリンを土か何かに染み込ませれば、ダイナマイトになることは知っている。ニトログリセリンをどうすれば作る事ができるのかは知らないけど。


ニトロ、グリセリンでグリセリンは何となくわかる。脂肪なのかアルコールなのか詳しく理解していないあやふやな知識だけど、たぶん何とかなる。問題はニトロの方で、何かが3個、という意味があったこと以外はさっぱりなので頭の良い人に任せよう。ニトログリセリンが単体だと危険だということも知識としてあるので、実験を行うにしても慎重に行って欲しい。


「何か、ニトログリセリンについて他に思い当たる知識はありませんか?」

「ニトログリセリン自体も、油みたいな液状の物だと思う。グリセリンが油状のものだし。

グリセリンは、油脂を分解するのか?エタノールみたいに、発酵も出来るのかな?」

「1滴だけでも、爆発するような破壊力のある油状の、土に染み込ませると爆薬として使える物、ですね?」

「まとめると、何も分かって無い感じだな。そもそもグリセリン自体も具体的に分かって無いし、地道に再現していくしかないか」


愛華さんが俺の言葉を纏めて本国に送ってくれているけど、開発されるのは何年後だろうか。化学式とか可能な限り研究者達に渡して来たけど、化学分野の解明は進んでいるのだろうか?進んでいたら、毒ガスの開発とかも視野に入れるか。フリッツ・ハーバーの塩素ガスのような……。


……ハーバー・ボッシュ法の存在、完全に抜け落ちていたな。いや、具体的な事はほとんど覚えて無いけど、確かアンモニアの生産だっけ?材料は、窒素と水だったかな?本土に戻ったら、ハーバー・ボッシュ法の再現も始めようかな。

ハーバー・ボッシュ法は鉄を触媒として用い、窒素と水素を高温高圧下で超臨界流体状態にしてアンモニアを生成する方法です。


ニトログリセリンは通常トリニトログリセリンのことで、トリニトロの意味はニトロ基が3つという意味です。


ハーバー・ボッシュ法の知識があやふやなのに、第一次世界大戦中に世界で初めて毒ガスを大々的に使用した人物やその時に使用した毒ガスの種類は覚えている主人公。


次回か次々回から次の章に移ります。

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