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第49話 死神

僅か3分間の死闘は、不破野さんの勝利で終わった。凛香さんは1000メートル先の的に40発を撃ち込み、32発が命中。32に命中率の0.8がかけられるから、25.6でスコア26かな。使い慣れない銃なのに、かなり良いスコア……えげつないスコアを出したと思う。


一方で、不破野さんは35発中、35発を命中させた。スコアは当然、35だ。


「白髪児は視力が悪いことも多いのですが、これは……」

「視力が良すぎるんじゃない?それ以上に、腕が良いんだろうけど」


アルビノは基本的に視力が悪いということを愛華さんから聞いたけど、そもそも軍に入っているので日常生活に差し支えは無いのだろう。凛香さんが大会新記録を出したのは去年の話だし、腕が衰えていたということも、手加減をしたというようなことも、無い。


「不破野さん、凄かったでしょ?撃った本人が1番驚いているけど」

「彼女、誤射をしているのですが、秀則様は大丈夫だと思われますか?」

「大丈夫じゃない?たぶん、寝不足と過労状態で夜間戦闘を行ったせいだろうし。そもそも、この軍の誤射率の高さがおかしくないか?」

「……今回の第6軍の誤射率が高かったのは仕方がないでしょう。今回の戦争では1番戦闘数が多いので、必然的に誤射の数も多くなります」


愛華さんが不破野さんの誤射の件に触れたが、誤射した状況は既に日が落ちた後、共産党軍が夜に総攻撃を仕掛けて来た時に起こっている。昼間の戦闘を受け持っていた不破野さんの部隊は、交代の際に共産党軍に攻められ、一時的に乱戦状態だった。既に暗くなっていた中で、中まで切り込んで来た敵部隊に発砲し、射線の奥にいた上官に当たるとか不運でしかない。


……戦場では、大体1割から2割の人間が味方からの銃弾により死亡する。この日中戦争で俺が従軍することになった第6軍の死因の17%は誤射によるものだ。日本軍全体ではおよそ11%ほどだから、第6軍は誤射率の高い軍だということがわかる。


原因は、間違いなく夜間も含めて常に攻撃をし続けていたせいだろう。むしろ夜間戦闘や市街地戦が1番多いのにも関わらず、2割を超えてないのは良い方だろう。戦国時代だと夜戦なら同士討ちは頻繁に起こったから、被害の5割が同士討ちによるもの、とかもよくあることだった。


「訓練なら誤射はしないよね?それなら良いと思うけど」

「訓練で誤射なんてすれば懲戒解雇ですよ。

不破野さんのことは認めますので、相応の礼を持って迎え入れたいと思います」


実質隊長な愛華さんも認めてくれたので、不破野さんは親衛隊員として迎え入れられるだろう。親衛隊員、不破野さん以外の全員が豊森家の人間だけど。


……やっぱり狙撃手として、狙撃用の銃のテスターとして雇おうかな。凛香さんがリベンジマッチで指定した600メートルの方でもかなり良いスコアを出したし。凛香さんとは違って小柄だから、新しく作る大型の狙撃銃を不破野さんが扱えれば、狙撃兵に配備しても良いだろう。


と言うか2人とも、使い慣れていない銃なのに600メートルの距離でも全弾命中はおかしい。スコアはお互いに37で同着。不破野さんは凄いし、凛香さんも流石としか言えない。


「私の負け。不破野さん、凄かった」

「いえ、私が、あそこまで撃てるとは思ってませんでしたし、運もあると思います」

「……運だけじゃ、10発も当たらない」


凛香さんと不破野さん、2人とも仲良く歩いて戻って来たので、打ち解けたのかな?愛華さんが頭を下げて不破野さんを出迎えているので、不破野さんが慌てていて面白い。


今回の件でわかったけど、親衛隊に関する実質的な権限を持っているのは愛華さんだ。仁美さんがいる時には仁美さんが権限を持っているのだろうけど、仁美さんのいない時には愛華さんが任されている、って感じなのかな。彩花さん達の新規加入組に関しては仁美さんの意向だろうけど、あの時に愛華さんは特に驚いてなかったし、愛華さんは先に知っていたのかな。


「ちなみに、一般の兵の600メートルでのスコアってどれぐらい?」

「基本的に1桁じゃないですか?私は最高で11でした」


彩花さんに普通の兵ならどれぐらいのスコアになるのか聞いたところ、基本1桁という返答が返って来た。次いで、愛華さんが補足する。


「600メートルのスコアが20を超える人はそれほどいません。前の大会の全選手の平均は14ですが、これは全日本大会に出た人だけですので普通の狙撃兵となると……平均は5から8程度だと思います」

「3分間に30発撃って、命中率50%だと15に0.5をかけるからそんな感じか。3分間に30発と言っても、6秒に1発だからなぁ」


大体の人は3分間に30発も撃てたら良い方らしい。命中率も50%だと上々だ。それでスコアが7.5の四捨五入で8だから、やっぱり凛香さんのスコア45はヤバい。大会新記録も納得だし、昇進の理由付けにもなるわな。そしてその凛香さんに勝てた不破野さんは、1000メートルなら日本一の狙撃手ということになるんじゃないかな?他にも不破野さんみたいに隠れている可能性はあるけど。


……これだけでは無い気がするけど、不破野さんが認められたみたいで良かった。しばらくはロシア製の銃を持たせて射撃訓練と、有効射程の調査もさせようか。大型なだけあって、火力は良いから模倣して日本の銃にも活かして欲しい。


小銃は精度と有効射程、連射性能や信頼性、軽さなど、全ての項目を兼ね備えようとしても難しいし、2種類ぐらい用意しても良い気がする。その分、補給を担当する人が大変な目に合うことは理解しているけど。もしも大規模な支援が共産党軍にあれば、戦闘可能な距離での優位性がひっくり返る恐れもあるから必要な犠牲だ。

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