表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/425

第48話 狙撃兵

6月24日、北京から南西にある延安に向けて6個歩兵師団が進軍を開始した。総勢7万8千人の軍がこれから河北中央の都市、石家荘市に向けて侵攻するけど、その前に保定市という都市を攻撃するらしい。都市名だけだとピンと来ないけど、石家荘市への道中にある都市なのだろう。その石家荘市も河北中央の都市、程度の認識でしかないけど。


北京から離れる軍団の軍団長は秀二郎さんだ。星の数が足りないから隠居していたという老人を上に据えているけど、実質的な采配は秀二郎さんが行うと思う。秀二郎さんは優等生って感じだけど、まだ若いから少将からの昇進は無さそうだ。


……軍の規模に対して、思っていたより中将や少将の数が少ないなと思っていたら、俺が1個師団当たりの兵の数を減らしたせいだった。動員を開始して師団数自体は逆に増えたから、上級士官の数は足りなくなっている。保定市は北京から南西に150キロぐらいとのことなので、戦闘が無くても10日はかかる。保定市が陥落する頃には、追加の師団が到着するから俺は本土に帰還しているだろう。


第6軍は北京市の防衛を行う軍団と保定市を攻略する軍団の2つに分かれたので、軍司令部は北京で居残りとなった。元々、司令部が突出し過ぎていたらしい。これ以降は山間部も多くあるため、慎重に進軍を行うと言っている。なので俺がいくら急かしても無駄だろう。いや、俺が急かしたら進軍スピードは上がると思うけど、無理は良くない。


「ロシアの提供していた武器、量産できるようにしたいな」

「射程ならロシアの小銃の方が良いですから、これを参考にして大型で長射程の小銃も作製いたします。もちろん、複製も行うように通達はしています」

「……不破野さん、親衛隊に入れなくても良いから、スナイパーとして雇えない?」

「凛香さんよりも狙撃手として優秀であれば、親衛隊員として傍に置けますよ?

……そのような遠回りをしなくても、見た目が好みなのであれば告白するとよろしいかと」


不破野さんはこのまま軍に戻っても居心地が悪いだろうし、絶対に確保したい人材だと思っているので傍に置きたい。だけど愛華さんが狙撃手として雇うなら、凛香さんより狙撃手として優秀じゃないと意味が無いと言って来た。


……確かに今いる人の方が優秀なら、新しく人を雇う意味は無いな。凛香さん、アイアンサイトのみで屋外の600メートル先にある的に百発百中とのことだから、完全に化け物だろう。700メートル以上はライフルの威力が足りないみたいで、人を殺せる距離じゃ無くなってくるので、600メートル先の的への狙撃で正確性を競う競技があるとのこと。


「見た目が好みだから、声をかけたんじゃないよ?いや、見た目は好みではあるんだけどさ。

たぶん、不破野さんは先々で必要になるよ。だから、凛香さんと勝負させようか」

「秀則様がそう言うのであれば、狙撃手として勝負させましょうか」

「あ、2人にはロシア製の小銃を使わせて、距離は1000メートルにしてくれる?不破野さんは競技のための練習とかしていないだろうし、長距離の方が狙撃手としての勝負になるでしょ?」

「……凛香さんが構わないのであれば、その条件で勝負させましょう」


愛華さんは、不破野さんを親衛隊に入れさせたく無いのかな。でもここで手放して犬死にされても困る。せっかくなので、不破野さんと凛香さんの狙撃勝負でロシア製の小銃を試そうか。ロシア製の小銃なら、1000メートル先の的まで届きそうなので、ロシア製の小銃を使わせて距離1000メートルで2人を競わせてみる。


凛香さんと、解放されたばかりの不破野さんを並べる。まるで子供と大人みたいだ。子供側、銃の長さが身長に迫っているけど、大丈夫かな。120センチを超えるロシア製の小銃での勝負より、普通の軍が使っている小銃での勝負の方が良かったかも。直感に逆らったことは無いけど、不信感は拭えないから困る。


「2人とも、真剣勝負でお願いね。ロシア製の小銃だけど、凛香さんは大丈夫?」

「……私は構わない。お互いに1時間、練習してから勝負したい」


ロシア製の小銃を使うことに、凛香さんは賛成してくれた。一方で、困惑気味の不破野さんが喋りかけてくる。


「私に、何を期待されているのですか?」

「世界最強のすないぱー」

「……えっ?わ、私も狙撃には自信がありますが、世界最強などとは、スコア45の凛香様の前ではとても……」

「不破野さんが自身のことをどう思っていようが関係ないよ。俺が凄腕の狙撃手だと感じたから、試しているだけだし。この勝負に負けたら、たぶん居場所は無いよ」


そんな不破野さんには発破をかけてさっさと練習を開始させる。実際問題、この勝負に勝たないと不破野さんに居場所は何処にも無いからな。軍に戻らないなら、猟師として生活するのかな?


不破野さんを見た時、真っ白な外見に目を惹かれたのは事実だ。しかし、それ以上にこの娘には何かあると感じた。その後、短期間で200人以上を狙撃して射殺したと聞いて、確信に変わった。精神面では不安定な部分もあるのだろうけど、それは後々矯正するとして、今は不破野さんの狙撃手としての能力が見たい。


「距離は1000メートルでも撃ち抜けそうだし、1000メートルでの勝負で良いよね?」

「そうですね。お互いに撃ち慣れていない小銃ですし、公平な勝負だと思います」


的は半径30センチの木の的の、中央にある半径10センチの円を3分間で何発撃ち抜けるかの勝負になる。後は、命中した数に命中率をかけるだけ。25発撃って20発が中央に当たったなら命中率が80%で、スコアは16ってことかな?今の日本の狙撃大会のルールらしいけど、この距離で3分間の間に何発も的の中央を撃ち抜くのは人間技じゃない気がする。


……いや、騎馬鉄砲隊の人達はこれより近かったとは言え、馬に乗ったままヘッドショットを決めまくっていたか。凛香さんのスコア45って、命中率100%な上に1分間当たり15発も撃ったのかよ。


ストップウォッチのような便利なものは無いため、時間を測るために砂時計が使用される。砂時計は俺が作ったものの中で、有用な方の開発物だったと言って良いだろう。ガラスができるまでは木の箱を2つ使って、引っくり返さずに下に落ちて溜まった砂を上へ移動させて使っていた。


誤差はあったもののかなり正確で、ガラスを作れるようになると俺の見慣れた引っくり返せるタイプの砂時計を開発。3分をきっちりと測れる砂時計を作った。砂時計は利用方法を考えずに開発に着手したけど、使い道は思っていた以上に多かったようで、それなりに売れた記憶がある。


愛華さんが持ち出したのは、小型化した砂時計で3分をしっかりと測れるそうだ。普通の時計もあるにはあるけど、競技中は砂時計を使う決まりでもあるのだろうか?


たぶん、不破野さんにとっては人生を左右する3分間だろう。不破野さんが勝つとは思っているけど、これで不破野さんが負けたら、不破野さんを推していた俺が凄まじく恥ずかしい思いをすることになるから勝って欲しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ