第47話 刑罰
彩花さんの貪欲さに負けて意識を失うように眠ったが、翌朝になれば体力も気力も全快するから自分の身体が怖い。事中に聞いた話だけど、女性は国から好意を持っていない男性と子を作るように言われた時、断ることができるそうだ。逆に言えば、男性側は断れないとのこと。
これは女性が好意の無い男性の子をお腹に宿すと、母体や子に悪影響が出やすいからと説明された。一方で男性側に好意が無くても、女性側に好意があれば子供に関しては問題無い、ということだな。凄まじい価値観の相違を感じたけど、力説されると事実っぽく聞こえてくるし何とも言えない。
……つまり愛華さんや凛香さん、彩花さんは少なからず俺に好意がある、ということにはなる。そもそも、上からの命令で子供を作れと言われる今の日本社会がおかしいけど。
「男性が一優Aだと女性があてがわれることも多いです」
「いちゆうえー?」
「最初の一は頭の良さが日本国内で上位何割以内か、真ん中の優は身体能力の5段階評価で最上位、最後のAは身長が190センチ以上、を示しています」
「……パソコンも無いのに、そんな風に管理してるから社会資本のリソースが無くなるんだよ」
結婚相手まで国が用意してくれるとか、思っていた以上に管理社会をしている。実際には国有企業で働く人間に対して、職場では同じような体格の人間を集めている程度らしいけど。それでも身体能力が凄かったり、身長が高ければ豊森家の人間が派遣されるとか、完全に馬の種牡馬制度を人間に当てはめている。これは確実に、俺のせいだ。
だから必然的に結ばれる相手が同身長ぐらいで、身長の二極化が進むのだろう。なんか色々と冒涜している気がするから、とりあえずパートナーの施錠や強制は止めさせよう。
「農作業は、同じ身長の人を集めた方が道具も揃えやすいので効率的ですよ?」
「まあ身長140センチの人が使う鍬と、身長190センチの人が使う鍬を同じには出来ないわな」
一応、農作業や漁業、林業とかの肉体労働で低身長の人が使う道具と高身長の人が使う道具を区別することは出来るから、これはこれで都合が良い面もあるのかな。身長は12段階で評価されているようで、140センチから190センチまでを5センチ刻みで区切っていた。
190センチ以上がAだから、140センチ未満でLかな?アルファベットが身長に使われているのは、馬の能力をアルファベットで示していたからか?1000メートルが何秒から何秒までならスピードはCとか、何秒以下ならAとか、基準決めは楽しかったなぁ……。
「165センチの俺は……170センチ未満165センチ以上のFか」
「私もFです。お互いに一優Fですから、お似合いですね」
「いや、俺の運動能力で優や秀になるとは思えないし。頭も二か三はあり得るだろ」
職場でこの人間としての価値が一致している異性と出会えば、確かに意識はさせられるだろう。集団としても、同じような人間が集まる訳だから管理はしやすい。頭の良さに関しては正確な割合で割り振ってはいないようだけど、試験の点で区切っているからかなり正確らしい。普通の一般国民が最後に受ける試験は、たぶん小学校の卒業試験だな。
……驚くことに、この日本では学力による小学校での留年があり得るという。4月生まれが有利になるなと思っていたら、小学校が入学者を誕生月で3カ月ごとに区分していることを聞く。ある小学校は4月生まれから6月生まれしか入れない、という状態なのかな?完全にお金の無駄遣いだ。
と言っても、1つの都市に小学校が4つぐらいは必要だから、誕生月で3カ月ごとに区分してもそこまで大きな問題は起きないのか。1年の差は大きいけど、3カ月ならそこまで大きく無いし、3カ月ごとに卒業生が生まれるのも大きな問題にはならないのだろう。
兄弟なのに、同じ小学校に通えなくなるのは問題かな?この世界だと出産月の調整は夫婦間でしてそうだけど。日本国民全員が出産の時期まで合わせないのは、それをやると助産師の人手が足りなくなるからだろう。
しばらく彩花さんと会話していると、凛香さんと愛華さんが鞭を持って部屋に入って来た。今日は不破野さんの鞭打ちが執行される日だ。鞭は無事に出来たそうなので、彩花さんに持たせてみる。元々の彩花さんにはSな雰囲気が微塵もないけど、鞭を持たせてみるだけでそれっぽく見えるから不思議だ。
「試しに一回、人を打ってみたいけど、痛みに強い人とかいる?捕虜から都合の良い人とか……」
「私は、痛いの大丈夫」
「えっと、じゃあ凛香さんは1発だけ受けてみてくれる?彩花さんは凛香さんの背中かお尻をお願い」
「……えっ、私が凛香さんを叩くんですか!?」
試しに彩花さんが凛香さんを鞭で叩いてみると、凛香さんの肌は赤くなることも無かった。……いや、筋肉達磨に鞭は効かないだろう。痛いのは大丈夫と言うが、そもそも痛みを感じないのではなかろうか?
「凛香さん、大丈夫?」
「……凄い。全然痛くない」
凛香さんに鞭の感想を聞くと、全然痛くないとの返答が。見ればわかる。次は愛華さんに持たせて彩花さんに打たせてみると、彩花さんは叩かれた瞬間に甲高い声が出たけど、赤くなっただけで跡は残らなかった。やっぱり一般人には痛いのかな。
「痛いけど、癖になりそうです」
「私も、この鞭で叩くと高い音が鳴るので気持ち良いですね」
「……彩花さんに鞭を持たせることにして、正解だったな」
愛華さんが鞭を振るった時にはパァンと派手な音が鳴って、鞭の扱いが上手いなと思ったけど、よく考えたら陸軍出身なら乗馬経験はあるはずだ。愛華さんや凛香さんに刑の執行を任せなくて良かったかもしれない。鞭を振るう経験の無い人の方が、痛くないんじゃないかな?
真昼間に、不破野さんの鞭打ち刑は始まった。彩花さんの持つ鞭は通常の鞭より短く、先が10本になっている。跡が残らないように設計された鞭は不破野さんの背中に何度も打ち付けられて、白い肌を赤く染め上げていく。しかしそれは昔見た残酷で惨忍な光景では無く、血が噴き出て肉が削がれるような鞭打ちでは無かった。
というか不破野さんの前に鞭打ち刑が執行された人は12打だけだったけど、刺々しい鞭のせいで背中側の肉が1打ごとに剥がれ落ちていたから、残虐な光景だった。最終的には意識を失っていたし。不破野さんも俺と関わって無かったら、そうなっていたのかもしれない。露骨な贔屓だけど、これ贔屓してなかったら不破野さんは死んでいたな。
20回の鞭打ちが終わった後、その場で倒れ込む不破野さん。深雪のような綺麗な髪は地面に散乱し、胸を突き出すような格好で痙攣はしているものの、背中が真っ赤になっただけで刑は終わった。この程度ならすぐに治るはずだから、明日には元気になっているだろう。
……音だけは凄いから、刑の執行中は大丈夫だとわかっていても不安だったけど、無事に終わって良かった。問題はこの後で不破野さんをどう扱うかだけど、ハンググライダーの時に加藤さん達を雇った感じで雇えないだろうか?見た目だけじゃなくて、どうしても確保したい人材だ。ただの勘だけど、不破野さんが必要な時がきっと来るだろう。