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第41話 白髪の少女

お爺さんかおっさんか青年しかいなかった牢屋の中に、白髪の少女がいた。身長は低く、150センチぐらいだろう。今の日本人は低身長と高身長で二極化しているから、低身長な人達の中では普通なのかな。囚人服のはずの白い服が似合っていて、身体のラインは隠れているけどスタイルは良さそうだ。


「……あの子、何でここにいるの?」

「何かしら問題を起こしたために牢へ入れられたのだと思いますが……今すぐ確認を行います」


全身が真っ白という特異的な少女に目を奪われたため、何で牢屋の中に入っているのか確認する。足枷だけだから、そこまで大きな問題を起こしたようには見えないが、牢の中にいる時点でいくら可愛くても犯罪者だということには間違いない。


「所長に確認しましたところ、昨日の夕方頃、上官へ誤射をして殺してしまったために牢へ入れられたようです」

「誤射って、重い罪なのか。牢に入れられること自体は妥当だな。重めの謹慎ってところか?」

「それが……撃ち殺したのが上官であり、豊森家の人間でしたので、後に軍法会議が開かれるようです」


戦場で犯罪者、だから脱走したり、金目の物を盗んだりしたのかと思ったら、誤射だった。少女の言い分は撃とうとしたらたまたま射線上に上官が入った、とのこと。これが真実なら上官が悪いことになるけど、わざわざ銃を構えている兵士の射線上に入る軍人は流石にいないだろう。


「誤射して殺してしまったのが格下で豊森家の人間じゃなかったら、裁量はどうなっていた?」

「……初回であれば厳重注意と減給、で終わりますね。あまりに重い罪だと、兵士が引き金を引けなくなるので。

2回目以降ならば最低でも数日間の謹慎と降格処分に罰金です。悪質であれば牢に入れられ、罰金に加えて軍から除籍ですね。この場合は多額の借金を抱えて人殺しの汚名が着せられるため、その後の人生はまともに過ごせないでしょう」

「え?この子、初犯じゃないの?」

「いえ、初犯です」


少女を見る限り、ぽけーっとしていて極悪非道って感じはしない。反省している様子が無いのは現実逃避のためか、諦めてしまっているからか。


……とりあえず殺してしまった人間の地位や立場によって裁量を変えるのは止めて欲しいけど、止めるように言うべきかな?豊森家の人間の特権みたいなものの上に、今の俺の立場があるから、どうにも言い辛い。


「あの娘が気に入りましたか?」

「見た感じ、凄い美人に思えたけど……ちょっと話をしてみたい」

「そうですか。鍵は貰って来ているので、扉を開けますね」


鉄格子で出来た扉を開くと、中は思っていたよりも狭い。そんな部屋の中で足枷を付けた薄着な少女は、入って来た俺の方に振り向き、感情の籠ってない目で俺を見つめる。


「名前は?」

「……不破野(ふわの) 紗矢佳(さやか)

「所属と階級」

「第16歩兵師団第1歩兵連隊第6中隊、不破野二等伍長」


見つめて来るのに、目線が合わない少女との会話は淡々と進む。二等伍長って何だよ、と思って愛華さんに聞いたら伍長だけど普通の隊員と同じ扱いを受ける伍長、との説明があった。人数が多いから伍長でも一等伍長、二等伍長と存在するようだ。


軍に入隊したての兵士は三等兵で、1年が過ぎると自動的に二等兵になれる。一等兵になるには1年以上、二等兵として訓練を積んだ上で、試験の合格が必要となる。この一等兵が戦場では主役だ。戦場に出ることができる兵士は、この国だと大体一等兵だと思っても良い。兵役期間も長いし、一等兵が1番多いのかな?


さらに一等兵の中で1年以上、訓練や実戦で優秀な成績をキープしていると上等兵になるための訓練を受けることが出来て、そこで1年間の訓練に耐えれば上等兵になれる。


その上等兵の中で下士官を目指す優秀な人だけが最短で1年の教育を受けて、試験に合格すると、伍長になることができる。この時、伍長の数が多いと初年度は確定で二等伍長のようだ。単純計算で伍長まで最短5、6年はかかるな。ということは、不破野さんは順調に軍の中で出世していたのだろう。


伍長は分隊の副隊長だから、例えるなら親衛隊の副隊長の愛華さんと同じ立ち位置かな?愛華さんは元陸軍中尉だったそうだけど。ちなみに凛香さんは元陸軍大佐で秘書が愛華さん、という関係だったようだ。彩花さんが元海軍大尉ということを知って騒いでいた時に教えて貰った。凛香さんの出世スピードの方が明らかにおかしかったけど、制度上は妥当な昇進だったという。


これらの階級は親衛隊には適用されないとかなんとか。適用されていたら元の階級が親衛隊員の中では低い方の愛華さんが副隊長なのはおかしいし、完全に能力重視だな。とりあえず二等伍長なら、分隊長の補佐とかも出来ず、普通の上等兵と変わらない扱いだそうだ。


「撃ち抜いた人の階級、言える?」

「……っ!

第16歩兵師団第1歩兵連隊第6中隊の中隊長です」


そんな彼女が撃ち抜いたのは中隊長という格上の人間だった。中隊の隊長だから大尉かな?豊森家の人間だったそうだし、彩花さんぐらいの人材が撃ち抜かれたのか。


……そりゃ牢に入れられるのも納得なんだけど、どういう状況だったのかは聞こうか。


「何で誤射してしまったの?」

「向こうが射線上にいきなり入って来て、撃とうと引き金に置いていた指が勝手に動いて、それで……」

「本当の事を言って?」

「えっ……ぅ……覚えて、無いです」


誤射した状況は上官が射線上に入って来たとのことだったけど、改めて聞いてみると記憶に御座いません、という返答だった。記憶は無いって言葉には嘘の雰囲気を感じないから、殺したくて撃った訳じゃ無さそうだ。本当に記憶が無いなら、二重人格とか、ヤバい薬でもしていたとか?そんな風にも見えないけど。


「何か、考え事でもしながら戦っていたの?」

「……はい。どうでもいい事を考えながら、引き金を引いていました」


何か考え事でもしていたのかと聞くと、素直に頷く。それから彼女は少しずつ語り出し、どういう状況だったのかを教えてくれた。彼女は5月6日の開戦時からずっと狙撃を繰り返し、昨日の6月19日までの44日間で200人を超える敵兵を撃ち殺したそうだ。勲章が貰えることは確定で、昇進することもほぼ確定だったとのこと。


「要するに、何で自分は中国人兵士を殺し続けているのかわからなくなったとか?」

「……たぶん、そうだと思います」


そんな優秀な軍人だったけど、人殺しの重荷を貯め込んだせいで戦闘中に頭が真っ白になり、様子を見に来た上官を撃ってしまっていたとか。寝不足や疲労が蓄積していたことも、原因の一端だろう。昼間から戦闘を行う部隊に所属している人は、昼の12時から夜の8時までの間の戦闘を担当していたけど、この8時間以外の時間も休めるって訳じゃないしな。どっかの馬鹿が夜中には大砲を撃つよう指示を出していたし。


……危険そうな子じゃないけど、軍人として精神面が不安定な子なのかな。一先ず、軍法会議の結果を待つか。口出ししなくても処刑にはならないだろうし、こうして話してしまっている時点で何らかの考慮はされるだろう。

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