第39話 三段撃ち
北京を攻撃中の共産党軍は数が増えて、現在は8万人という規模になっている。これを効率良く殺すために14万人の日本軍を3つに分けた。
「夜通し砲撃を加える部隊と、朝から昼までの間の戦闘を受け持つ部隊、昼から夜までの間の戦闘を受け持つ部隊の3つに分けたい」
「敵軍を休ませず、日本軍の疲労は減らす考えですか。今夜から、夜通しの砲撃を実行しますか?」
「うん。敵を眠れなくすることを目標に、とにかく日本軍の被害を減らしたい。このままだと、完全に兵の消耗戦に入ってしまうからね」
「闇夜の中での砲撃となるので敵軍の位置を推測して撃つしかないですが……向こうは火を使ってくれている所もあるので、目印はありますね」
そして6月14日の夜から6月15日の明朝まで砲撃を実行する部隊が夜襲を仕掛け、共産党軍の眠りを妨げた。ついでに日本軍の眠りも妨げた。思い付きで実行ってするべきじゃないな。それでも共産党軍の方が眠れなかっただろうし、共産党軍側に少なからず被害はあったようなので意味のある行動だっただろう。そのうち、日本軍は眠れるようになるだろうし。
「これは、共産党軍が真似をしてきたら厄介ですね」
「共産党軍はもう砲弾が少ないと思うよ?初日は撃ちまくっていたけど、2日目や3日目は初日と比べると減っていたし、今日は更に砲撃が少なくなりそうだから、そんな状況でめくら撃ちをしてくれるなら大歓迎だ」
夜の8時から撃ち続けていた砲兵達は疲れてそうなので休むように言って、早朝から昼までの戦闘を担当する部隊に攻撃命令を出す。
「用意は出来てるようだし、4時から攻撃を開始するよ」
「秀則様、そろそろお眠りになられては……」
「俺が出した命令のせいで昨晩は兵が眠れなかったのに、俺が1人で勝手に寝るのは流石に自分勝手過ぎるだろう」
この早朝からの奇襲は大いに戦果を挙げ、敵軍の捕虜を3千人ほど獲得することが出来た。とりあえず敵指揮官は侵略者だの野蛮人だの言っているそうなので牢に入れる。共産党軍、国民党軍に関わらず指揮官は懐柔されない人間が多い。原因は中国軍人としての誇りか、日本人への憎悪か、どちらだろうか。
6月14日の夜から始まった夜間砲撃は5日間続き、6月19日の朝を迎えた。日本軍は16日の夜には適応し、休み時間には眠れるようになったが、向こうは砲弾が降ってくるからそうはいかないはずだ。実際、極度の疲労が溜まり、一向に打開できない不利な戦況に士気も上がってないのは目に見えている。食糧も日本軍より少なく、立っているのも不思議なぐらいだ。
しかし、それでも日本軍の攻撃に合わせて倒れていた共産党軍は立ち上がり、銃を手に取り応戦する。既に共産党軍は気力だけで動く死を恐れない戦場の奴隷と化していた。
「……あれは異常か?それとも正常なのか?」
「軍としては正常かと。共産党軍も、新兵を隙間に入れて精鋭を後ろに回し始めました。そろそろ限界でしょう」
「この5日間、攻撃を続けてようやく数が減ったように見えるからな。新兵を戦線に投入し続けても数を減らしているってことは、確実に共産党軍は痩せ細り続けている。……今日の夜間砲撃は、気をつけた方が良いな」
愛華さんによると、新兵を次々に投入しているようで、それでも全体の数が減っているとのこと。もうすぐ限界だろうから、その前に仕掛けて来るはずだ。共産党軍が仕掛けるとするなら、砲兵が前面に出る夜戦の時かな。
「夜間の戦闘は確実に被害が増えるし、同士討ちの危険性も高まる。
……今日の夜の砲撃は砲兵の数を半分にして、護衛として砲兵の傍に砲兵の2倍の歩兵を配置するように言ってくれ」
「砲兵を半分に、ですか。明日が山場ですか?」
「うん。今日の共産党軍の夜襲を失敗させた後に、総攻撃を行いたい。あと彩花さんの先読み能力は夜間戦闘で生きると思うから、夜間砲撃を行う指揮官の所へ派遣して。確か、秀二郎さんでしょ?」
「かしこまりました。秀二郎様の元へ彩花さんを派遣します」
砲兵達の指揮をしているのは秀二郎さんだったので、秀二郎さんの元に彩花さんを送り込む。夜襲組の砲兵は第16、17、68歩兵師団に付随していた砲兵旅団から編成して纏めただけだから、指揮官候補としては各師団の師団長の3人が候補だったけど、秀二郎さんが1番優秀そうだったから秀二郎さんにした。
「そう言えば、今の第16歩兵師団の指揮をしてる人って誰?」
「秀二郎様が兼任されていますが、実際に指揮を執っているのは秀二郎様の副官の方々でしょう」
「新しい師団長を送ったりはしないのか。まあ師団長を変えたら現場が混乱するだけだし、砲兵旅団が付随していない歩兵師団は市街地の見回りとか、兵糧庫の警備しかしていないから大丈夫か」
そうして迎えた6月19日の夜間攻撃の時間。共産党軍は予想通り突っ込んで来た。月明りも少ないから、完全に暗闇の中での夜戦だ。夜戦で重要なことは、同士討ちを避けることと、敵の行動を読み切ることだ。同士討ちを避けるには味方の動き、というものも読み切らないといけない。
秀二郎さんが上手く彩花さんの考えを汲み取れば、この夜戦と次の日の朝の攻撃で共産党軍に壊滅的な被害を与えられるだろう。共産党軍に関しては壊滅的な被害を与えたところですぐに兵は補充されるのだけど、補充される兵の数も限度があるし、補充される度に共産党軍は弱体化する。
……こういう時、祈ることしか出来ないのは辛いな。夜間戦闘時は特に危ないから、部屋からも出てはいけないと言われている。危険なことを俺がしようとしたら、強引に止めるよう仁美さんに言われているようだし、凛香さんの監視の眼からは逃げられないだろうから、大人しく勝報を待つか。