第378話 過去
「なあ。俺が持ってた白い手紙がどこに行ったのか分かるか?」
「白い手紙?」
「宛先も、送り主の名前も書いていない真っ白な手紙だよ。友花里も不思議がって見ていただろ」
「……見て無いんだけど、お父さんボケちゃったの?」
白い手紙が消失したので周りの人間に確認するものの、誰もその存在を認識していなかった。持ち運んで来た友花里でさえ忘れているんだから、未来の技術というのは凄いな。単純に、改変前の世界が消え去ったから手紙の件が無くなったということも考えられるけど、じゃあ俺は何だと言う話になる。
森田秀則の記憶を持った、クローンであり、ついでに森田秀則が主導となって開発していたAIみたいなことは言っていたな。森田秀則の死後の世界のことも夢で見ると思ったら、そういうことなのか。
ロボットに、森田秀則の記憶を埋め込んだと考えて良いかもしれない。再生するのは、機械の身体だからか?もしそうなら、この自己修復技術がとても欲しい技術になるんだけど。
十数年前に俺は、この世界に来てから腕を切って研究所に渡している。俺の健康状態を調べて貰うと共に、俺が何で出来ているのかを、確認するためでもあった。結果は、完全に人間の腕だと判断された。ということは、人間の細胞で修復される何かが頭の中に入っているということだろう。
流石に頭を切り開いて脳を抉り出すことまではしたくないけど、頭と胴体が戦国時代でサヨナラした時、頭から身体が再生されたのはそういうことなんだろうな。レントゲン技術も開発が完了しているから、一度頭の中を撮って貰おうか?
「俺、森田秀則じゃないらしいよ。森田秀則を再現した、クローンでロボットでAIだって」
「……何があったのか分かりませんが、詳しくお話は聞かせて下さい。あと、例え未来で作られた超高性能機械知性体であったとしても、私は覚悟が出来てますよ」
仁美さんや彩花さん達に、さっきまでの出来事は伝える。特に友花里や久仁彦、息子や娘達にとっては、ショッキングなことかもしれないけど、俺自身が一番ショックを受けているし、信じ切れない部分はある。
若干言葉は変えるし、都合の悪い部分は隠していくけど、もしかしたら全部表情とかに出ているのかもな。とにかく、現時点で世界を相手に回しても勝てるということは保証されたし、改変前の世界は何かしらの原因があって滅びかけていたことも伝える。
……何が原因かは分からないけど、あの言い方だと地球が限界だった、みたいな言い方だったな。日本だけでは無く、世界規模で滅亡の危機が差し迫るほど不味い状況だったのか?そして改変が止められなかったから俺の過去改変は正義みたいなことを言っていたけど、改変前の未来の世界では俺による改変が認められていたということか?
色々と分かったことはあるけど、謎が残っている部分もある。移動先が限定的でもタイムマシンが完成したとか、俺には信じられないしな。というかそれなら、何で移動先が戦国時代なんだと思うし。まあ、1番不審者が活躍しやすい時代だとは思うけど。
わざわざ、天下統一後に俺を2020年に移動させた理由も謎だしな。そのまま俺が日本に居座り続ければ……それは、管理社会にはならないのか?というか未来では、管理社会っぽい喋り方だったな。改変前の世界で、いつかはそうなると考えていたけど……。
改変前の2376年がどういう世界だったのかは、情報が少ない。ただ俺が近現代の礎となった人物なら、行き着いた先は管理社会なのだろう。2376年から見れば、2020年や2050年は近現代という位置付けだろうしな。
「記憶は少しずつ戻っていたように思えますが、結局のところ、待つしか無さそうですね」
「……仁美は、俺を結局何だと思っていたの?」
「人間ですよ。成長しないところがあっても、変わる部分はありました。少なくとも、ロボットだとは思えません。こういう場合は、アンドロイドでしたっけ?」
「アンドロイドかな?AIに森田秀則の記憶を再現させたのか、どうなのかは分からないけど、自身を森田秀則だと思い込んでいるアンドロイドだよ」
改めて、身体を触るもどこも人間だし、機械っぽさは無い。機械っぽい外的要因があったら仁美さんや彩花さんが気付くだろうし、内面もアンドロイドだとは思えないんだよね。
森田秀則の駄目なところまで完全再現と言っていたから、俺の意識が無くなることは無いのかな?そして俺の寿命が無いことと、改変前の世界が消えても俺は消えないということは、俺はこの世界でずっと生き続けることになるかもしれない。
……例え嫁達や子供達が死んでも、俺は生き続けたいと願うだろう。強欲で、保守的で、世界一自己中心的な森田秀則だ。きっと地球が滅んでも生きたいと望むし、改変前の世界のように消える覚悟で過去改変を行なうことも出来ない。
世界の統一は、結局改変前の世界で出来たのだろうか。そこら辺は、いつか分かる日が来るのかな。とりあえず今は世界統一後の世界を思い描きつつ、戦争の準備を進めようか。自由管理監視社会。それがどういう社会なのか具体的には分からないけど、きっと今の社会の行き着く先にあるはずだ。




