第372話 ベルリン講和会議
5月20日。ドイツの首都ベルリンで行われた講和会議で、フランス共和国の代表者として出て来た男はドイツ軍人に囲まれながら調印をしていた。バルヘルム元帥がこういう場でよく持ち出す、欠損部隊だ。フラコミュ軍の攻撃により腕や足を失い、大きな傷を負った軍人達。
その軍人達に囲まれながらも、冷や汗の1つも流さずに調印をしたフランス代表の人も凄い。聞けばフラコミュの支配体制に疑問を持って内々で暗躍していた人だそうで、名前はダヴィド・ディ・ルソーという名前らしい。ダヴィドさんはフランスの代表で来ているような偉い人だし、これから関わる機会も多そうだ。
また、国際連盟の本部はスペインのマドリードに置かれることとなり、色々と規約も決まり始めた。今年の8月ぐらいには、規約についての話し合いが纏まってそうだな。
「……ベルリンも、痩せている人は多いな」
「この戦争で、一定量の食事を食べることが出来ていたのは農家と軍人と一握りの富裕層だけですよ。これから徐々に回復していくとは思いますが、時間はかかるかと」
「美雪さんは、ベルリンにも来たことがあったんだっけ。色々と、良い街だよね」
「そうですね。今までに2回ほど、来ています。守りが固く、水運もあるので、首都の立地としても最適だと思える都市ですね」
今回のベルリン訪問は仁美さんが同行出来ず、彩花さんも出産直後ということで動けなかった。予定日より1週間遅れだったということは、単純に1週後の時の子供じゃないかと思うけど、どうなんだろう。
友花里の妹となる花菜美は、将来的にそこまで過度の期待もかからない位置で産まれた。後先考えずに子供が出来ている状態だけど、まあ何とかなるだろう。実際、何とかなるものだし。
「……乞食は、やっぱり居るか。戦災孤児も多そうだな」
「親が徴兵というのは、珍しく無いですからね。一家の大黒柱が居なくなり、生活に苦しむ家庭は多いです」
「日本とは違って、子育てに金はかかるからな。女性の社会進出は、確定事項か」
「その働き口すら、少ないのが現状ですけどね」
美雪さんと話し合いながら、ベルリンの街を探索する。ベルリンの街並みは綺麗だけど、戦争が終わった直後のせいか、治安は悪い。元軍人の姿もかなり多そうだし、社会全体の復興は上手く行ってない。
フラコミュに侵攻されていた地域は、マジで何も無いような状況らしいし、失業者も増えた。再開発事業で雇用の確保は出来そうだけど、その男手は足りないだろう。
男手が足りていないのなら、警察も数が足りてなさそうだな?身寄りのない子供も増えているのか、貧しそうな子供も見かける。インフラは整備されているし、それなりに高いビルのような建物もあるから、街と人のアンバランスさが凄い。
ドイツはオーストリア=ハンガリーのほぼ全域を併合したせいで、国内での不和も発生している。日本のように他民族の国家を併合したわけじゃ無いから、併合後の政策を決定していくのは難しそう。これで普通選挙をやるんだから、何か起こらないかと期待はしている。
……まあ、ドイツ人の教養はありそうだから内戦には発展しないか。元プロイセン国民とその他で格差はあるだろうけど、これも時間が解決するはず。しばらくは、ドイツの発展を手伝おうかな。上手い具合に、日本の交易相手国として利用していきたい。
結局戦争のきっかけだった政治犯の持ち逃げに関しては、謎のままだ。今となっては、オーストリア=ハンガリーの言いがかりになっている感じだし、戦争で負けた国はどんどん悪者にされて行っている。たぶんフラコミュとか、悪の共産主義の象徴として後世にまで語り継がれそう。
今回の講和は、20年も持たないかもしれない。バルヘルム元帥はわりと歳を食っているし、あの強硬派が寿命で死ねばフランスへの制裁は緩和されていく。その内、第二次世界大戦が勃発することは確定した。それまでに日本の国力を上げ、軍力を上げ、場合によっては侵攻する予定。
その第一目標は、メキシコだな。警告したのにも関わらず、国際的な場に話を持ち出して国境の件について文句を言って来たので戦争の準備は始めた。日本軍は北アメリカ大陸にある程度駐屯させておいたので、その軍をそのまま今回の対メキシコ戦に使うつもり。
日本人化したフラコミュ人の、利用もしておこうか。反乱の危険性が無い人から順に、軍への入隊も始めよう。メキシコ軍は大したことが無いのにメキシコが喧嘩腰なのは違和感しかないから慎重にはなるけど、例え背後にスペインと中米諸国連合と大コロンビア王国がいても勝てる戦争だな。
「メキシコって、フラコミュ相手にもこんな感じだったのか?もしかして、日本を舐めてる?」
「メキシコが勝てなかったフラコミュに勝った日本を弱く見るはずがないと思いますが、どうしようもない行動をする国があるので何とも言えません」
「……ペルシアとかも、凄いムーブはしていたか。まあ、向こうが喧嘩を売って来たら対応はするように伝えといて」
北アメリカ大陸に駐屯する軍を統括しているのは将伯元帥で、比較的温和な人だ。一応、日本軍も戦争で疲弊はしているから、北アメリカ大陸にいる軍は士気が最高潮では無い。それでもメキシコ軍ぐらいは、吹き飛ばせると思いたいな。一応、簡易的な壁の建設は終わったし、備えは万全だ。




