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第34.5話 敗北者

今回は国民党側の視点です。

「また戦線を突破されました!もはや北部地域で、共産党軍と日本軍を止めることは不可能です!」

「深圳奪還作戦は失敗です。また南方戦線より、南寧市が陥落したとのことです」

「……消耗した軍は要衝の砦や城に収容しろ。消耗の少ない軍からは志願兵を募り、突撃隊を編成して足止めするんだ」


中華民国の第一党、中国国民党の李金士将軍は北京に攻撃中の日本軍を見て、ようやく理解した。日本軍は、中国全土を占領するつもりで攻勢に出ていることを。そして、絶対に勝てない相手だということを。


「くそ、まさかこれほどまでに砲や銃で差があるとは……」


李金士将軍は元々、日本に対して弱腰だった大統領の(コン) 梓豪(ズーハオ)が気に入らなかった。中国は日本より上だと信じていたし、そのことを疑っていなかったからだ。孔一族に批判的だった人間も日本に対して強気な姿勢を見せる李金士を持ち上げ始めたため、次第に権力が集中し始めた。


だから日本に支払う予定だった金を勝手に使って軍備拡張を行い、日本に対して先制攻撃を行った。結果は、侵攻した軍の半数が戦死するという悲惨な結果となった。


本来ならここで、戦争を止めるべきだったのだろう。しかし日本に攻め入ったのと同時に国内で共産党が各地で蜂起した。このことから、李金士将軍は共産党との内通を疑われることとなった。疑いを晴らすため、保身のために動いている間に、日本は各地で侵攻を始める。結果として、共産党軍もまとめて日本軍に轢き殺されているために疑いは晴れたが、今度は責任を追及されることになった。


「将軍!ここもすぐに戦地となります。急ぎ撤退を」

「……撤退の際に、食糧庫から兵糧は出来る限り運び出せ。持ち運べない分には毒を混ぜろ」

「かしこまりました!」


北京市から撤退を始めると同時に、李金士将軍は共産党軍との共闘を申し出る。一時的ではあるが、北京を奪還するために敵と手を組もうと李金士将軍は考えていた。


「意地でも北京は奪還するぞ!そのために、日本軍の兵糧を狙う」


そして国民党軍は条件付きで共産党軍と共闘することとなり、北京から撤退した僅か2日後に、北京周辺に集結した日本軍を相手に明け方から砲撃を開始した。この砲は共産党から高値で買い取った砲であり、性能は日本軍の砲より劣るものの、今までの砲と比べると十分な破壊力と射程があった。


「良いか、日本軍が来たら軍としての行動を止めて、隊ごとに四散しろ。目標はただ一つ。日本軍の兵糧庫だ」


砲撃を開始してからしばらくすると、日本軍からの狙撃により砲の周りにいる人間から死んでいくが、日本軍が慌てていることを感じ取れた李金士将軍は自身も一般兵に紛れ込み、指揮を執った。


「日本軍とはまともに撃ち合うな!下がりながらでも良いから我武者羅に撃て!突撃隊は四散しながら北京市内に侵入だ!」


日本軍が本格的な攻撃を始めると、国民党軍は蜘蛛の子を散らすように撤退を始める。しかし李金士将軍を始め、戦う意思が残っていた国民党の人間は、幾つかの隊に分かれて北京市内に侵入する。もちろん無策で入ったわけでは無く、あらかじめ捕虜になっていた軍人から日本軍の兵糧庫の位置を伝えられており、そこに向かって全速力で進軍していた。


『何だ、貴様等は?中国軍か!?』

「あった、ここ、だ……」


しかし順調に侵攻していた部隊には、日本軍の守備隊が兵糧庫の前に立ちはだかる。腹を撃ち抜かれた李金士将軍は、地べたに這いつくばることとなった。他の部隊が辿り着けていない時点で兵糧の強奪作戦が失敗したことを悟った李金士将軍は、掠れた声を出す。


「っく、火を、放て!」

『見回りの奴らは何をしているんだ!くそったれが!』


兵糧庫に近づく国民党軍の人間を1人ずつ射殺していく日本軍の兵士だったが、数が多すぎて対処しきれず、とうとう火炎瓶が投げ込まれて、兵糧庫には火が付く。慌てる日本軍だったが、すぐさま冷静になって残りの国民党軍を始末してから火消しに奔走する。


その光景を息も絶え絶えな李金士将軍は眺めつつ、達成感に酔いしれた。


『あーあ。ここって小麦の貯蔵庫だっけ?下手すりゃ今晩は飯抜きだな』

『いや、ここの小麦は捕虜用だから、捕虜のパンが減るだけだ。

……兵糧を奪いに来るなら、もっとマシな部隊を送るんだったな』


李金士将軍は襲撃した兵糧庫が捕虜用のもの、という事を知らなかった。また、日本軍の兵糧は襲撃された兵糧庫を含め、30箇所以上に分散されていることも知らなかった。知らなかったが故に満足げな表情で死んでいったが、完全な無駄死にであることに変わりはない。




李金士将軍の後任として、国民党軍の指揮は戦争をほとんど経験したことが無い李金蒙が引き継ぐこととなる。日本からの使者が盗賊によって寝込みを襲われ、死亡していたことを知った李金蒙は、日本との外交に可能性を見出し、日本に対してなるべく有利な条件で降伏しようと企む。


「黄河の堤防を決壊させろ!日本軍に対して、これ以上進軍するには多大な犠牲を払う必要があると思わせるんだ」


国民党が支配する地域ではこの後、全成人男性を対象に徴兵を行ったため、武器が足りなくなる、男手が街から消えるといった弊害が発生するようになった。何より、士気が上がる気配は無かった。


動員する数を増やしてもなお、国民党軍の戦況は悪化していく。


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