第368話 講和条件
2025年2月18日。日本軍はオスマン帝国の大都市ダマスカスへ迫っていた。バグダードの攻略には時間がかかったものの、10日程で陥落。その後、オスマン軍は日本軍の勢いを削ぐことが出来なかった。
ペルシアからの逆侵攻も受けており、ロシアへの侵攻も止まった今、オスマン軍の士気は崩壊を始めた。各地で反戦派の暴動が起こり、議会に民衆が流れ込む異常事態も起きる。その民衆の暴動を、鎮圧するための軍も足りていない。
つい先日は、オスマンから休戦協定の提案があったのでオスマン軍人15万人と武器装備を25万人分を差し出すよう要求。すると戦闘が再開したので、次に休戦協定を持ってくる時は軍人25万人と武器装備50万人分を差し出せと言っておく。
「休戦協定に入る前に、装備を引き剥がすのは重要だな。講和条件を突き付けて、跳ね退けられたら面倒だし」
「休戦協定を持ちかけておいて、条件を伝えたら即戦闘を再開するのは完全に舐め腐った態度ですけどね。一度休戦と言う言葉を持ち出して反故にした以上、相手が白旗を挙げても徹底的に叩く予定です」
「……まあ、エルサレムが荒らされる前に音を上げそうだけどな。暴動が起きているのは、エルサレムが破壊されるのは嫌という人達が多いからだろうし」
「ダマスカスを占領すれば、後はエルサレムに向けて一直線です。ダマスカスという人口400万人規模の大都市が盾となっている間に、決断するとは思いたいですね」
ロシアに行って、オスマン相手の講和条件について話し合っていた美雪さんと情報交換をする。休戦協定に入る前の条件についてもそこで話し合っていたらしく、武器装備25万人分ぐらいで話し合いがすぐに打ち切られるとは思って無かったと言っている。
オスマンが呑めなかった理由は軍人15万人の方だと思うけど……それは、民兵でも大丈夫だから呑みやすい理由なのか?まあ休戦協定の条件の方はともかく、講和条件の方は色々と変化もしている。
中東方面の分割について、早期に講和を纏めるために、オスマンの中核であるトルコの部分だけは丸々残す予定だ。ペルシア湾沿岸部については日本に割譲するままだけど、ビジャーズ王国はロシアの傀儡国家として残す方針だとか。
ギリシア辺りはプロイセンの領土になるけど、たぶん傀儡国家が樹立するはず。イギリスの取り分は、恐らく無くなった。今回の話し合いに、スコットランドの姿は見えない。よっぽど本国が、危機に陥っているのだろう。
「スコットランドは、失業率4割だっけ。農家以外は食にすら困っているから、相対的に農家の立ち位置が上がるって面白いな」
「最近では、街の失業者達を味方に付け始めた豪農が成り上がっています。まるで戦国時代のようですね」
「政府の力が弱まったら、そうなるのは分かっていただろうに。もう誰も、スコットランド政府に期待をしていないんだろうな」
「硬貨の価値すら下がっているので、外から見る分には非常に面白い経済状態ではあるのですが……解決は難しいと思います」
美雪さんは豊森家の当主というよりも、外交官のトップという立ち位置の方が強くなって来た。ロシア、プロイセンとの同盟関係を築けたのは、美雪さんの活躍の影響も大きい。将来的には美雪さんの立ち位置を久仁彦が継ぐ予定だと思うけど、上手く外国語が喋れるようになるかは不明。
そろそろ久仁彦は4歳になるし、外国語自体は教えることになっている。そもそも世界の公用語は日本語になりそうな気がしているので、外国語を覚える必要性があるのかとも思ってしまうけど。まあ、習得させて損は無いはず。
最初に教える言語は、ロシア語になるのかな。英語圏が没落の一途をたどっているから、スペイン語の方が重要になりそうか?久仁彦の頭の出来は良さそうだけど、全ての言語を覚えるのは難しいだろうし、何語を選択させるのかは難しいな。
「……戦後世界で、影響力が大きい国はプロイセンとロシアとスペインか。それぞれ言語が違うから、取捨選択は難しそうだな」
「秀則さんは、英語を多少は喋ることが出来るのですよね?それなら英語も、良いと思いますよ?インドは広域に渡って英語を使用していますし、ブリテン島は英語しか喋らない人が多いでしょう」
「いや、俺は簡単な英文を読むのがやっとの程度だよ?英語を習っていたのは、改変前の世界で主流だったからだし、今の世界情勢でわざわざ久仁彦が英語を覚える必要は無いと思う」
「では、スペイン語かドイツ語ですね。教師役のアリスさんは、どちらも取得している言語ですし、都合は良いです」
仁美さんと久仁彦の教育方針について話し合っていると、アリスちゃんの話題が出る。アリスちゃんは日本語とフランス語に加えて、スペイン語、ドイツ語、英語、ロシア語をかなりの完成度で喋れるようになっている。日本の海軍士官の娘でもあるから、これも血筋かもしれないけど何とも言えないな。
元々アリスちゃんに久仁彦の外国語の教師を任せる予定だったけど、アリスちゃんは宙ぶらりんになっているのがわりと勿体無い人材でもある。余裕がある時には外国人へ日本語を教えたり、日本人に外国語を教えたりしているけど……。
外交官としての素養もありそうだし、アリスちゃんに外国語の教師役を任せつつ、外交官としての教育も本格的にしていこうか。まだ12歳だし、伸び盛りの時期だろう。




