第34話 防衛戦
北京が陥落した6月10日の2日後の6月12日の朝。早朝から鳴り響く砲撃の音で目を覚ました。
「彩花さん、起きて」
「うぅん、にゃ?」
「……早く俺の上から降りないと、その無駄にデカい乳を揉みしだくぞ」
「ふぇ?手を出してくれるんですか?さぁ、どうぞ!」
朝から発情している茶髪の子は放っておく。彩花さんは朝だけ意味不明な言動が多い。昨日は服を脱ぎ、裸で体操を始めたかと思えば、立ったまま二度寝をしてたし。今も大きなお胸をぷるんと放り出した直後に意識を取り戻したのか慌てて放り投げた服を回収してるし。
懐まで潜り込んでいざという時に恥ずかしがるぐらいなら、最初からしなければ良いのに。こっちも赤面してしまうから、そろそろ凛香さんに部屋のドアを死守するよう命令しよう。
「で、この砲撃音はこっちの音じゃないけど、中国軍の砲撃か?」
「わ、わからないです!」
脱いだ上の服を胸に押し付けている半裸な彩花さんに砲撃音のことを聞いたらわかりません、と正直に答えられる。そりゃ、今まで寝ていたら知る由も無いなと思っていたら、愛華さんが唐突に部屋の中に入って来た。
「秀則様、失礼します。現在、国民党軍と共産党軍が同時に北京市内へ攻撃を仕掛けています。共産党軍の中には大砲の姿を確認できたため、秀則様は急いで市内からの撤退を」
「うわ、とうとう共闘してきたか。今まで共産党軍が大砲を使ってなかった理由とかわかる?」
「……共産党軍の砲は、凄く重そうでした」
「ああ。運ぶのに時間がかかっていただけか?」
どうやら共産党軍が大砲を持っていたらしく、無差別砲撃をしているとのこと。国民党軍も今までとは違う、良さげな砲を使用しているそうだから、本当に共闘しているようだし、全力なのだろう。すでに砲兵のみを狙撃して射殺する、という意味不明な対応を行っているとのことで、しばらくすると砲撃の音は日本軍側のみ鳴り響くようになった。
「北京を攻撃しようとしている敵軍は、どれぐらいいる?」
「共産党軍が7万、国民党軍が5万だと思われます」
「……既に各戦線で計30万人以上が死んでいるのに、まだそれだけの戦力で突っ込んでくるのか。
でも今攻撃している軍を殲滅すれば、もう北京周辺に敵残存兵力は無くなるかな」
発展が遅れている中国でも北京は結構栄えていたし、奪還のために出来る限りの戦力を集めただろうから、これを殲滅すれば中国は継戦能力を一気に失うことになる。
装備が充実してて一部練度が高すぎる日本軍10万と、餓死しそうで練度も装備も十分でない中国軍12万の戦いだ。特に直接指揮をしなくても勝てるはず。ここで重要なのは、どのように敵兵力を削ぐかだ。現状、共産党軍の方が人は多く、国民党軍と共産党軍の戦いは共産党軍が優位に進めていることがわかっている。北京奪還のために一時的に共闘しているようにしか見えないから、この奪還作戦が失敗したら今まで通り潰し合いをする可能性もある。
ということは、ここで国民党軍を壊滅させて共産党軍を逃がすようなことをすれば共産党の下、早々に一本化する恐れがある。なので共産党軍を殲滅しつつ、国民党軍をある程度逃がす感じが良いのかな。
「北京の西、北側に共産党軍がいて、南側に国民党軍か。共産党軍は逃さないように包囲するよ」
「今まで包囲をしていなかったのには、何か理由があったのですか?」
共産党軍を包囲するように指示を出すと、愛華さんから質問をされる。今まで包囲はせずに、必ず一箇所以上の穴を空けるように指示していたから、今回の指示に疑問が湧いたのだろう。
「包囲の一箇所に穴を空けた方が、自軍の被害は少なくなるんだよ。多少逃げられても、日本軍への恐怖は共有されていくから敵軍の士気が下がるでしょ。
……共産党軍の士気は下げても意味が無さそうだし、今回の軍は多少被害が出ても殲滅するべきだと思ったから包囲するよ」
包囲で穴をあえて空ける理由は、完全包囲だと一箇所に突撃をしてきて被害が増えることもあるからだ。基本的に後方に一箇所だけ穴を空けておけば、そこへ向かって撤退してくれる。包囲殲滅を行うよりも、自軍の被害は格段に少なくなる上に、さらに撤退に成功した兵が士気を下げる役回りをしてくれる。
特に一方的な戦争だと、逃げ帰った兵が軍から脱走して真実を話してしまえば一気に噂は広がり、士気が下がる。共産党軍は逃げ帰った兵を処罰しているみたいだから、効果は薄いけど、国民党軍には効果があった。明らかに士気は落ちているし、兵は何処へ向かう軍に従軍しているのかもわからないような状態に陥っている。厭戦ムードが広がっているから、戦列が崩壊するのも早い。何より、投降する兵や民間人の数は増えた。
「騎兵は共産党軍の後ろに回り込ませて、国民党軍は無視して歩兵は両翼から包み込むように移動。
砲兵はその間、共産党軍の端を集中的に砲撃して、少しずつ中央へ誘導を行って」
「陣の端を集中的に砲撃して中央に密集させるのであれば、中央に砲弾を落とせば多くの兵を殺せますよね?」
「一斉砲撃だと、7万の軍は流石に削り切れないでしょ。それに誤射しないよう陣地の端を狙うとなると、小回りの良い小型の砲しか使えないし。1回中央を砲撃して、散開されたら面倒だし……ああでも包囲が完成してからなら良いか。包囲が完成したら、敵陣中央への一斉砲撃の許可を出して。
……誤射だけはしないようにね」
日本軍が展開していくのを眺めるが、可能な限り指示の量を減らしたせいか上手く包囲出来そうだ。というか俺が出したのは方針だけだったし、今回は大丈夫かな。もしもこれで○○師団は右翼に突撃とか○○師団はここから襲撃とか、具体的な指示を出していたら、負けはしないだろうけど損害は増えていただろう。
……あれ、騎兵師団が囲まれそうになってる?やっぱり10万規模の軍で俺が指示を出すと、後手に回るのか。騎兵の練度がおかしいお陰で、包囲しようとしている共産党軍をみんな撃ち抜いてそうだけど。というか包囲しようとしている軍の動きがどんどん鈍くなっているから、本当に第1騎兵師団が無双しているっぽいな。
国民党軍の方は、日本軍と数十分の撃ち合いをしただけで早々に撤退しようとしていた。騎乗している人はまだ戦えって指示を出しているようだけど、兵が勝手に逃げている。しかも指揮官の数自体も減っているようなので、おそらく指揮能力を上回る兵を預けられているのだろう。……もうそろそろ、国民党軍は本格的に潰れそうだな。