第360話 新聞社
9月21日。彩花さんから2人目を妊娠したという報告を受け、友花里にも弟か妹が出来ることが確定した。出産の予定日は、恐らく4月5日。色々と狙い過ぎだけど、お目出度いことには違いない。友花里の2日後という誕生日は、わりと覚え易いな。
……たぶん俺ほど、欲求に素直になって生きている人間はいないだろう。まあ、欲求を認める必要もあったし、現状には満足している。子供が増えるのは、悪い事ではない。跡取り問題も、たぶん起きないだろうしな。
そして各新聞社の新聞は、このことを大々的に報じる。側室とは言え妊娠は目出度いことだから、どこも俺と彩花さんを持ち上げている記事になっていた。流石に懐妊を貶すような新聞社は存在しないし、記者は真面目な人を多く採用しているから、早々に腐敗することは無いはず。
結局、民間の新聞社が設立されなかったから国が複数の新聞社を用意することになった。わりと意味不明な状態だけど、各新聞社の特色は出始めているし、書いてある内容は少しずつ違う気もする。
「……新聞社を、複数設立する意味あったと思いたいな」
「別の捉え方が出来る新聞を発刊すれば、罰金が科せられる以上、面白おかしく改変することは出来ないでしょう。しかし、人気の出る新聞社があるということは、ニーズに沿った文章であれば売れるようですね。それと、新聞は想像以上のチェック機能を持つことになりそうです」
「今までは豊森家が揉み消したり、過剰に反応したりと流す情報の取捨選択を出来ていたからな。複数の新聞を読むことは出来るだろうし、人気の出る新聞社も今後は増えるはずだ」
一応、各新聞社の手綱は持っている状態ではある。悪意ある情報操作が為されようとしていた場合は、発刊を中止させるし、罰金も科す。だけど、別に豊森家へ擦り寄る必要は無いと明言しているから、新聞社は本当にただ正しい情報を流しているだけだ。
だから怜可さんの言うように、チェック機能としてかなり優秀な存在になりそうではある。将来的に、マスコミに民意を誘導される世の中にはならないだろう。それでも不用意な発言で、国民の敵になったりしそうだから新聞というのは怖い。俺でも数回の失言を重ねれば、地位が危ぶまれる可能性もある。
一応、民主主義寄りの考えを持った人間だけで固めた新聞社や、戦争屋だけで固めた新聞社もあるので、民衆は情報の取捨選択を出来るようにもなった。最終的に、背後には国家がある以上、大々的な国家の批判とかは出来ないだろうけど、海軍の元帥の発言のように事実をそのまま報じることは出来る。
「海軍の元帥の発言は、フラコミュやイタリアよりも豊森家の中枢人物が敵だと言ったから問題になったんだよね?」
「そうなりますね。少なくとも、フラコミュやイタリアと戦争をしている最中に発言するべき内容ではありません。……今回の失言は、海軍にとって良い機会だったと思います」
「まあ、きっかけにはなったからな。むしろ今まで、放置し過ぎていた気もする」
このまま新聞社がチェック機能を果たすようになるなら、新聞社のチェック機能を果たす機関も必要だろう。ということで元々豊森家が発刊していた新聞には、新聞社番付も載せる。今のところ、その新聞番付の人気トップに戦争屋達が発刊する新聞が来ているのは、面白いな。
その新聞社がどういう思想を主軸にしているか、最近ではどういうミスがあったのかも纏めているけど、結局豊森家の発刊する新聞紙を買うことになるなら、新聞社を複数用意する必要があったのか本当に悩ましいところだ。読み物として人気が出て来た新聞社も存在するし、現状としては微妙としか言い様がない。
とりあえず、広告文化が根付きそうなのは良いことだと思うけど。民間企業が広告を打てるようになったから、より広く国民に認知して貰えるようにはなった。ラジオの広告料は既にかなりの高額になっているけど、まだ人気のない新聞とかの広告料は比較的安い。その内、広告だけの新聞も作られそうだな。
民間の企業が、どんどん知れ渡るのは民間企業の業績アップにも繋がる。国有企業は広告を打てないようにしたので、国有企業と民間企業の数の差も埋まり始めている。上手くこの比率を、1対1程度にしたい。その内、民間の新聞社も設立されると思うから、そうなれば民間への雇用は増えることになるな。
人口は増加中だから、民間企業が増えるのも民間への雇用が拡大するのも歓迎するべきことだ。民間の方が大きくなれば、最低賃金は法で決めておいた方が良いか。既に国有企業のお陰で最低賃金は決まっているようなものだけど、国有企業に勤めていると、大きくは稼げない。
「『戦争屋の日報』って、明らかに新聞の名前では無い気もするけど、これが1番売れている新聞だから面白いな」
「予想外ではありますが、失敗して元々という新聞社がお金を稼いでいるのは事実ですし、世論は基本的に好戦的です。戦争への協力度の高さなら、世界一の国家かもしれません」
「世界一、戦争に協力的な国民か」
思っていた以上に、民衆は扇動されやすいし、好戦的だ。民間の新聞社が設立された時に、どうなるのかはまだ分からない。だけど民間の新聞社が設立されるのも時間の問題だろうし、対応策はある。悪いようにはならないと思いたい。




