第357話 潜水艦乗り
9月9日。潜水中だった潜水艦の窓が割れ、危うく自沈するところだったという報告が入って来た。深い水圧に窓ガラスが耐えきれず、割れたとのこと。一応、スペック上の限界まで深く潜水していたわけではないようだけど、窓ガラスが水圧に耐えきれなかったのはヤバいだろう。
「潜水艦でのトラブルは止めて欲しいけど、水圧に耐えられる窓の作製って難しいのか」
「難しいですが、不可能では無いとしてプロイセンの技術を出来る限り模倣しました。しかし、模倣した結果がこれならば、新しく耐圧ガラスを開発した方が良いかもしれません」
潜水艦に使われているという窓を愛華さんが持って来てくれたけど、非常に重そうで分厚いものだった。……俺に耐圧ガラスについての専門知識が無いことは知っているはずなのに、何で持って来たのかについては突っ込まない。何かしらの意見が出て来る可能性もあったからな。何も出て来なかったけど。
潜水艦は6隻が就航しており、現在追加で6隻を建造中だ。しかし窓に問題があるとなると、設計を見直さないといけないし、何より潜水艦の信頼性にヒビが入っている状態だ。建造自体、一旦は中止にするかもな。
不完全な潜水艦で任務に就かせるわけにもいかないので、現在紅海で警戒をしている潜水艦については帰港させて潜水艦の全体的な見直しをさせる。潜水中に問題が起きれば、貴重な潜水艦の乗組員も同時に失うのだから必死だ。
また、潜水艦の研究を行なっている研究所に何故水圧に耐えられなかったのかを調査するチームを作らせ、問題解決には全力で当たる。プロイセンの耐圧ガラスを完璧に模倣出来ていれば、壊れないはずだからな。
……あれ?そもそも潜水艦に、窓を作る必要性はあるのか?プロイセンの潜水艦に窓があるから窓付きで作っていたけど、ソナーがあれば要らないような気もする。
「窓を無くしたら、前方確認が辛いのか?」
「窓が無ければ完全な密室となるので、外で何が起こっているのか把握し辛いでしょう。ただ、窓が無いタイプの潜水艦も開発はしている段階です。ソナーで近くにある障害物程度は、分かるようになりますから」
「潜水中、限界まで深く潜ったら窓から外の景色とか見えなくない?そんなイメージがあるんだけど」
「……太陽光が届かないところでは、外の景色は真っ暗にはなります。しかし現状、そこまでの水深で長時間潜水していると発狂する者もいるため、基本的に深いところまで潜る時間は短いですね」
潜水艦の乗組員は、かなり過酷な環境下で任務に就いている。まず真水が貴重なせいで、体を洗ったり顔を洗ったりすることが出来ない。トイレは隔離された場所にあるけど、廃棄が難しいし、バイオトイレなのでえげつない臭いが充満しているとか。
使える電気が限られているから、本当に特殊な環境下だ。船内は熱気も凄いようで、長時間耐えられる人は多く無い。だからたまに浮上して汚物を捨てたり、外の空気を吸う必要もある。
技術が進むにつれて、長時間潜水出来る潜水艦も登場するだろうし、潜水艦の内部環境もどうにかしていかないといけない状態だ。同じ海軍でも、巡洋艦に乗っている人員はかなり快適な環境になってしまったから色々と調整が難しい。
長時間、臭くて蒸し暑い環境で密集して生活できる人材も発掘していかないと行けなさそうだな。思っていたよりもずっと、潜水艦乗りのハードルは高い状況だ。
とりあえず窓に関しては、必要か不必要かもう一度話し合おう。俺的には、潜水艦に窓はあるようなイメージだったけど、軍用の方なら無かった気もする。あと、発狂するほどの労働環境なのだから人員は慎重に選びたい。電気が限られているのが根本的な原因というなら……いや、まだこれは提案しなくても良いか。
「とにかく、窓を作るなら水圧に耐えられるかキチンと確認するよう徹底的に検査するしかないね。まだ工業的に作られていない状態だし、製品の均一化も進めないと駄目か」
「そもそも、窓ガラスが割れた時用のマニュアルがあるというのも見直さないといけないかもしれません。割れることを想定している時点で、駄目だと思います」
「そういうマニュアルまであるのか。だから今回の事件で人員が助かったというなら、残しても良いと思うけど、確かに割れることを想定しているのは……」
日本軍は、わりと緊急事態に強い。緊急時のマニュアルというのが頭に詰め込まれており、いざという時でも動ける人が多いから、今回のような事故でもパニックにならず対応出来る。愛華さんの言う、潜水艦の窓ガラスが割れた時用のマニュアルまであるのはどうなんだという話になるけど、それ自体はあっても良いような気がする。
……まだ本格的に潜水艦同士の戦いなんてしたことが無いし、ソナー技術が未熟だから窓はある方が良いってことになっているのかな?でも窓は明確な弱点にもなりそうだし、窓で見える範囲に何かあったところで基本的に間に合わなさそうでもある。
第一、ライトを付けるから電力不足になっているような気もするな。本当に窓がいるかどうか、海軍の連中にはしっかり考えるよう言っておこう。




