第356話 ペルシアとの講和
スカンディナヴィアとの講和会議とは違い、ペルシアとの講和会議はあっさりと、スムーズに進行した。これはスカンディナヴィアとは違ってペルシアの国力がある程度残るということと、ペルシアという国が生存本能を爆発させたお陰だろう。
2024年9月6日。テヘラン会談にて日本とロシア、ペルシアの外交官が講和条約を締結した。日本は初期の主張通りの領土と、賠償金として、現在の40億ディナール分の日本円が入って来る。1ディナールが200円ぐらいの換算だから、約8000億円ぐらいかな。
ペルシアは結局、日本とロシア、プロイセンに対して合計で100億ディナールの支払いをしないといけない感じだけど、今までのペルシアの国家予算半年分なので払える範囲だろう。そしてそのまま、テヘランはロシアの委任統治領となった。20年後には返還されるようだけど、本当に返還されるのかは謎。
意外とペルシアの経済というのは発展をしており、政府への信用が高いのか不換紙幣も発行していた。だから今回の賠償金でインフレが起こる可能性もあるけど、インフレの制御は可能な範囲だろう。政府がちゃんと財政再建をすると言えば、収束する範囲じゃないかな。
日本は無事にアバダン油田とペルシア湾の沿岸地域を確保出来たし、細長い国土にはなったけど問題は無い。旧アフガニスタン領も丸々確保出来たのは、わりと大きいんじゃないかな。
旧アフガニスタン領は山が多いから防衛はしやすいし、肥沃な土地もあるからアフガニスタン領だけでも自給自足は可能なほどだ。小麦や果物がよく育つし、これだけでもペルシアへ侵攻しただけのリターンはあった。
ペルシアへの影響力が途絶え、軍事クーデターが起きたパキスタンもその内回収出来るだろう。日本側がパキスタンからの難民を受け入れ始めると、パキスタン側は出て行こうとする難民を銃殺するようになったし、治安は悪化し始めている。内戦が起こる可能性も、それなりにあるだろう。
インドとして纏まって独立しなかったせいで、イスラム教徒だけを優遇する方針にしたせいで、国民の生活水準が下がり続けている。幾らイスラム教徒が集まって独立した国とは言っても、国民の全員がイスラム教徒ではない。それでイスラム教至上主義な憲法を作製すれば、反発も大きい。
「で、ペルシア領内にはオスマン軍が再侵攻してるのか。これを助ける義理は無いけど、完全に潰れたら不味いな」
「はい。現在日本軍は秀則様の言っていたオスマン帝国の方のペルシア湾沿岸地域へ侵攻をしていますが、こちらはオスマン軍の数が少ないために侵攻が容易い状態ですね」
「防備が少ないなら、ペルシア湾沿岸地域の油田はまだ発見されてないのか?そろそろヒジャーズ王国と接触するはずだけど、もうヒジャーズ王国軍とは接敵している?」
「いえ、報告ではまだですね。ヒジャーズ王国は、オスマン帝国の内側にある国なので交流するのも難しいです」
参謀本部に足を運んで、中央アジア方面軍の管理をしている毛利さんに話を聞くと、オスマン軍はペルシア領内から逃げ帰った後、再編成してペルシアへ侵攻を始めたらしい。日本とロシアがペルシアの国力をある程度残したことから、ペルシアから宣戦されるのは目に見えている。
だから、先手を打って潰しに来たのだろう。それに対してペルシア軍とロシア軍が迎え撃っている状態だけど、位置的にはオスマン軍、ペルシア軍、ロシア軍で一直線になっている模様。完全にペルシア軍は使い潰される運命だし、もう一度裏切ることは出来無さそう。
そしてアラビア半島には、ヒジャーズ王国という国が存在している。サウジアラビアのような国かと思っていたけど、ヒジャーズは内陸国でオスマンに包み込まれている状態らしい。だから接触は難しいし、実質的にはオスマンの傀儡国家なので対話は無駄だろう。
もしかしたら、オスマンの支配から解放することを条件に味方に引き摺り込める可能性もあったかもしれない。だけどここまで来たら、纏めて相手にするだけだな。ヒジャーズ王国の領内で石油は湧いているだろうし、その油田地帯を一時的にでも確保はしたい。
オスマン軍とロシア軍が激しい戦闘をしているコーカサス地方の方では、オスマン軍が山脈を越えた後、明らかに進軍速度が遅くなった。ロシアの縦深のせいで、補給が追い付いて無さそう。それに加えてペルシア方面の戦線が崩壊したことで、一部の部隊は転進をしたっぽい。
エジプト方面はまだ詳しい情報が入って無いけど、イタリア王国軍残党が押している状態ではあるらしい。ただ、まだエジプトにある最大の都市、カイロへは迫ってないから時間はかかりそうだ。
「イタリア王国軍と言えば、フラコミュの南側に上陸した1個師団の軍隊が、フラコミュ、イタリア国境地帯まで逃げ、散開してイタリアへ侵入したようです」
「……イタリア王国の上陸した軍は、どこまで仕事をするんだろうね?何か、7千人まで減ったみたいなことは聞いたけど」
「その7千人が、イタリアへ逃げて共産主義に反感を持つ人々を束ねるかもしれません。そうなれば、特にイタリアの北部でまた独立騒動が起きるのではないかと」
現状、イタリアは余裕のある状態だろう。本土が戦場になっていないし、オーストリアへ援軍を送っているだけの状態だ。海軍が日本にちょっかいを出しているだけで、後は大した動きをしていない。
それを参謀本部では、大きく動くことが出来ないと睨んでいるとのこと。共産主義に切り替わったのがまだ4年前だし、基盤はしっかりしていない。逃げ延びたイタリア王国軍の働き次第では、イタリアが世界大戦から脱落する可能性も少なからずありそうだ。




