第354話 消火器
9月に入ろうかという頃に、日本で重要な技術が開発された。その新しい技術で開発された物は消火器で、液状の消火剤を撒く事が出来るタイプの消火器だ。ロシアのバクー油田で大規模な火災が発生したと聞いた時に、火災に対する技術開発の遅れを感じ、必死になって作らせていた物だな。
大型の消火器を積んだ車、消防車も開発され、その鎮火能力はかなり高いものだった。一応、人体には無害らしい。最近では、牢獄にぶち込まれるような外国人が多いお陰で人体実験が捗ってしまっている模様。拷問の一種だと主張しているけど、どう見ても人体実験です。
人に向けて消火剤を発射し続けると、窒息死する恐れもあるので人に向けて使用するなとは大きく書かれている。注意事項は、それなりに多いな。とりあえず言えることとして、消火器の開発は戦争への影響も非常に大きい。
「全ての艦船に、消火器を積むことを義務付けるよ。将来的には一家に1本の消火器を配備させたいけど、まずは軍艦が優先だ。民衆へ大体的に売り出すのは、値段が下がってからかな」
「1本1万円という価格は、それなりに高いですからね。ただ、火災を防ぐという意味で生産は急がせたいです」
「うん。公共的な全ての建物には配備させるし、建物に置くならまずは学校からかな。教育機関には、過剰に消火器を配備しても良いかもね」
今まで、船の上で起きた火災に対しては水をぶっかけるのが最善の策だった。それが消火器に代われば、確実に沈没の危険は減るし、消火作業に割り当てる人員を減らすことも出来る。戦車とかにも、配備した方が良いのかな。戦車のゲームとかでよく、消火器1本の差が勝負を分けるとか聞くし。
「えい」
「おおー。意外と、飛距離もあるね」
「あまりに飛距離が短いと、火元まで届かないという欠点があったようなので、それは解消しておいたとのことです」
仁美さんがレバーを引き、消火剤を噴射すると、かなりの勢いで液体が噴出し、最大で6メートルほどの飛距離だった。その液体を触ってみると、ざらざらする粉が、溶け切っていない白濁液だ。触っても特に影響は出ないみたいで、口に含んで問題はないとのこと。飲み続けたら流石にヤバいみたいだけど、死にはしないとか。
消火器が開発されたことで、油田への放火に対する対応策は出来たと思っても良いかな。消火器用の工場は日本全国に幾つか建てて、大量生産を行なう予定だ。それと同時に、さらに鎮火しやすい消火器や女子供でも手軽に使える軽い消火器の開発もさせている。
改変前の消火器は完全に粉末だけだったような気もするし、まだ発展途上ではあるだろう。あとは、防火服を作って消防隊の規模も大きくするか。四国での巨大地震では、津波が襲う前に大規模な火災も発生していたそうだし、それで津波から逃げ遅れた人も多いはず。
「何気に、火事の発生件数は多いよね」
「そうですね。特に昨年は、中油ストーブが倒れて火災に発展したケースが多いです」
「……転倒したら火事になるようなストーブを売り始めたのは完全に俺のせいだし、対応はしないとな」
「いえ、流石にあの造形では転倒させる方が悪いと思いますよ。それに暖房器具として、素晴らしいものだと思います」
満州の方やマレー半島、旧中国領では油田が湧いているお陰で、日本は石油を使った暖房機具なんかが売れ始めている。自動車もだけど、暖房器具として改変前の灯油ストーブに近い中油ストーブなんかも売れているな。そのせいで冬場の火事は多くなった気はするけど、元々冬は空気が乾燥しているから火事の多い季節だ。
「アバダン油田や、北アメリカ大陸の油田は規模が桁違いだろうし、これから石油はどんどん消費していく社会になりそうかな」
「しかし石油に限りがあるのであれば、その先の技術は必須です。自動車などはバイオ燃料を織り交ぜつつ、ガソリンの割合を減らしている最中です」
「バイオ燃料と言っても、2%ぐらいしかガソリンの比率が減らないなら意味は少ない気もするけどね」
「ですが、しないよりはマシだと思いますよ。将来的に、もっと比率は上がるでしょう」
仁美さんに、バイオ燃料の研究の進捗を教えて貰うとそれなりに頑張っていた。ガソリンの比率を下げつつ、コストパフォーマンスは上げようとしているのだから頭が下がる。
ただ、現状はまだ精製にコストがかかるというか、ぶっちゃけるとバイオ燃料にする過程で燃料を使うので環境には全然優しくない。むしろ、環境は悪化する気がする。経済面でも環境面でも、赤字状態だからわりとどうしようもない。
でも、続けていけばいつかは黒字に転換できるはず。日本の研究者は年々増加しているし、こういう分野に回す人の数も増えて来た。2024年度は、3%まで混ぜても大丈夫なようにすると意気込んでいる。目標としては、2025年度終了時までに5%かな?
そんなトントン拍子で進むとは限らないけど、注力しているのは事実だし、頑張って欲しい分野ではある。これからはバイクとかも普及していくだろうし、大気汚染は既に始まっている状態だ。改変前の地球と比べると、温暖化は進んでいないような気もするし、他の再生可能エネルギーにも着手はしたいかな。
……となると、ダムを造って水力発電所は建設したいけど、土木作業員が圧倒的に不足中だから着手は再来年以降になる。土木作業員の雇用枠は、来年までにもっと増やしておくか。




