第346話 スウェーデン
7月21日に、スウェーデンが欧州戦線へ援軍を送り始めた。賠償金の負担を軽くする代わりに、軍を出せとプロイセンから要請があったらしい。
旧スカンディナヴィア連邦の軍をある程度引き継いでいる状態のスウェーデンは、その要請に頷き、賠償金の減額の代わりに軍隊を派遣した。現地で裏切る気配も無いみたいだし、戦力は純粋に増えたことは喜ばしいけど、足元見られていたら終わってた気がする。
「……これで、動いてない国はスペインと南米の国々だけか。あ、スイスも中立だった」
「スイスは現状どちらの陣営に入るとも言っていませんし、どちらの陣営からも圧力は受けてないでしょうね。あの山岳地帯を占領する意味もありませんし、放置されるかと」
「あの位置は、恵まれていると言えるのかな?スイスがもし平地だったり、位置がずれていたらどちらかからか宣戦布告は受けていただろうね」
改変前の世界でも中立だったスイスは、この世界でも中立寄りだ。イタリア王国とは親交があったみたいだから、もしかしたらプロイセン陣営に入って参戦するという希望はあったけど、今のところ、動きはない。
山岳戦に世界一慣れているであろう軍隊を相手に、山岳戦を挑む馬鹿な国もいないだろうし、スイスの中立は保たれるだろうな。一方で中立だったはずのルーマニアやブルガリアは、結局参戦した。最終的には国の位置や国力が、立場も決定させるのだということがよく分かる。
スウェーデンだって、本来であれば参戦したく無かっただろう。既に首都への強襲上陸のせいで国力がボロボロなところに、追い打ちのように賠償金を請求されているのだ。そしてまだ、プロイセン陣営が勝つとは決まっていない。万が一にもプロイセンが負ければ、スウェーデンという国家は立場を完全に無くし、消滅するだろう。
……もう、万が一にもプロイセン陣営の敗北は無いと悟って参戦したなら、それはそれで賢いと思うけど。実際、北アメリカ大陸からフラコミュを追い落とした影響は大きく、プロイセンがフラコミュの攻勢を食い止めたので、もうプロイセン陣営の負けは無いような状況だ。
アバダンに日本軍が上陸してから、オスマン軍単独を相手にすることも増えたけど、オスマン軍はフラコミュ軍ほど強くは無い。フラコミュのように、狂ったような攻勢や徹底的な死守が無い分は、確実に戦いやすい相手だ。規模が大きいから、手古摺ってはいるけど、それでも時間をかければ確実に日本軍は突破出来る。
とりあえずスウェーデンが本格的にプロイセン陣営として参戦した影響で、鉄の確保が容易になったことは大きい。ロシアも鉄の産出量は多いけど、輸送には手間がかかる。というか、日本からの物資や軍が届かなくなるからプロイセンへの輸送が難しい状態だった。それがスウェーデン産の鉄で補えるようになったのは、存外に大きな影響だ。
輸送も、スウェーデンとプロイセンの間には海路があるので何とかなっている。潜水艦を並べて、フラコミュ艦隊がバルト海へ入って来れないようにするぐらいの事は、プロイセン海軍でも出来るからな。特にバルト海の入り口にあるフュン島と、シェラン島をプロイセンが確保したことは大きい。
陸から機雷を投げ入れて通れなくすることも出来るし、制海権の握り方は色々な方法があるということだ。だからフラコミュは海軍を、持て余しているような状態でもある。プロイセン艦隊は潜水艦が中心で逃げ回るから殲滅出来ないし、スコットランドは放置した方が良いような状況だし。
……フラコミュが南アフリカ王国を頼って、アフリカ大陸の南側からフラコミュ艦隊が姿を現すという可能性はあるだろうか?遠回りだけど、持て余しているなら可能性としてはあり得そうだから対策はさせておこう。俺が言わなくても、このぐらいなら可能性を追って、対応策は用意していると思うけど。
「スコットランドが、全海軍の総力を持ってフラコミュ海軍を襲ったりしてくれないかな」
「それは、難しいかと。つい先日、ウェールズで共産主義者が決起集会を起こしたようですし」
「……大不況に陥れば、共産主義者は当然のように湧いて出て来るな。というか、もしもウェールズが独立でもしたらイギリスは完全に分裂するな」
「元々、ウェールズに住む人達は自分達をイギリス人ではなくウェールズ人と名乗ります。独立の意思は、あったのではないでしょうか?」
イギリスはスコットランドとイングランドに分裂し、スコットランドがイングランドを吸収して上手くやるんだろうなと思っていたら、想像をはるかに超えるスピードで国が崩壊していっている。アイルランドが独立し、ウェールズまで分離独立するなら国としてのイギリスは復活するのが無理なような気もする。
ロイズさんが政界に復帰しているからか、スコットランド自体はまだ規律が保たれているみたいだけど、これは時間の問題か?まあ、もうしばらくは放置で良いな。遠すぎて干渉することも出来ないし、今は情報収集をするだけだ。
世界大戦初期と比べて、かなり余裕が出て来たように感じる。この余裕を感じているのは、日本だけだろうな。他国に察せられない内に、第一次世界大戦を終わらせたい。




