第342話 戦車
6月20日。北アメリカ戦線の中央軍がアメリカの東海岸へ到達した。まだ地雷の完全な除去は行えていないようだけど、これでほぼ北アメリカ大陸の全域を制圧したと考えても良いだろう。
この北アメリカ戦線で活躍した人は多いようなので、名前が本国まで届くような人に対しては表彰したりしていかないといけない。……この第3軍にいる織田知永って、彩花さんの妹さんだよね。
「……織田知永という人物について詮索しましたが、間違いなく私の妹ですね。まさか、織田家の男と懇ろな関係だとは思いませんでした」
「彩花の妹さんは、身分を隠していたんだろ?それなら何で、勲章を授与する時になって突然出て来るんだと思ったけど、俺と接触出来るからか?」
「わりと気軽に秀則さんへ物申すことは出来るのですが……傍から見れば、簡単に直訴は出来無さそうですからね。何かしら、言って来る可能性は高いと思います」
「確か、厳格な効率主義か。俺がトップに居座ってることにも、腹を立ててそうで怖いよ」
今大戦で戦略兵器である風船爆弾を戦術的に扱えたのだから、勲章を受け取れるだけの活躍をしたことは理解出来る。……知永さんが何か言って来る可能性は高いので、聞き入れる準備だけはしておこう。
現時点で、占領出来てない土地は北アメリカ大陸の北東部のみだな。その制圧も、来月末までには完了しているだろう。思っていた以上に地雷が多いようで、慎重に取り除いてはいるようだけど、それでも被害は出ている。
現地からは地雷が平気な自動車を開発した方が良いと言われたので、地雷一発当たりの威力はそれほど高く無いとは思われる。まあ、現在使われている地雷は人を死亡させる兵器と言うよりかは、負傷させる兵器だからな。脚一本を吹っ飛ばすぐらいがちょうど良い威力なんだろう。
対戦車地雷が開発されてなくて、本当に良かった。とりあえず現地には、試作した戦車も送る予定だけど、間に合わなさそうか。人手は送り続けているから、人海戦術で撤去するしかないな。恭順したフラコミュ人とかは地雷撤去作業に駆り出したいけど、地雷を投げ付けて来る可能性とかを考えると使えない。
「対地雷用戦車の開発は、しておいた方が良いだろうね。地雷があるかもしれない、というだけで進軍速度はめっきり落ちるし、素早い撤去手段は必要だと思う」
「現行の戦車でも、地雷に耐えることは可能だと思われますよ?」
「その内、対戦車用の地雷とかも出て来るだろうから普通の戦車だと吹き飛ぶんじゃない?今は対人用の地雷だから威力は低いけど、欧州戦線では対戦車用の地雷も出て来ると思うよ。プロイセンも、戦車を投入し始めたんでしょ?」
対戦車用地雷の撤去のために対地雷用戦車を用意する必要は、個人的にはあると思う。というか、装甲特化の防御型戦車も開発して良いんじゃないかな?戦車の開発を始めて、どんどん進化していく様を見てるとマウスのような戦車も作りたくなって来た。
今の日本が試作した戦車は、傾斜装甲や空間装甲を採用していたT-34を、大型化した感じかな?そもそもT-34をちゃんと知らないからサイズがT-34と比べて本当に大きいのか怪しいし、こんな傾斜装甲だったのかは怪しいけど……たぶん、似ていると思う。
装甲厚自体はさほどないから、分類としては中戦車なんじゃないかな。エンジンパワーが年々増加しているから、この戦車も時速40キロ程度は出る。坂道は苦手だけど、下り坂だと中々の速度が出る。ガソリン満タンで200キロは走れるから、航続距離は長いと思いたい。
なお主砲は5センチ砲で、最大射程は4キロほど。カタログスペックだけみたら良い方だけど、実際の命中精度はあまり良くないと開発の人達が嘆いていた。静止している時はそれなりに精度が良いけど、走りながら撃つと的へ当てるのは難しいとか。
とりあえず試作した戦車は量産して北アメリカ大陸にも送るけど、アバダンに上陸した軍へ最優先で配備だな。自動車化師団が上陸後、あまり使えなかったのは後ろへ回り込むための道が無かったからだ。その点、戦車なら道が無くても関係無く進むことが出来る。塹壕を、乗り越えることが出来る。
「戦車の名前は、中戦車のイ号だからチイで良いよね?チハの名付け理由は分かっているし、どうせなら採用したいんだけど」
「良いと思いますよ。いろは歌を使うんですよね?軽戦車なら、ケイやケロになると」
「……パッと見で分かりにくいし、24式中戦車1号で良いか」
戦車の名前は彩花さんと相談した結果、24式中戦車1号、略す時はチイとなった。あと2代後に、中戦車チハが完成するのかと思うと少し楽しみではある。今でもそこそこ戦えるだろうから、改変前のように装甲が薄いということにはなら無さそう。というか、小さくならないだろうしチハたんとは呼べないかもしれない。
重戦車や軽戦車の開発もしながら、チイの後継車両となる中戦車の開発も開始。この3タイプに関しては、単純に重量で軽中重が分かれそうだな。軽戦車なら15トンまで、中戦車なら15トンから30トン、重戦車なら30トン以上という区分で落ち着きそうだ。
日本の本土が島国で、船で輸送する必要がある以上、軽い方が良いのは言うまでも無いのだけど、対地雷用戦車なんかは重くなるだろうな。旧中国領の方にも、戦車を生産する工場はどんどんと立てていこうか。




