第332話 オランダ陥落
4月6日。ペルシア湾への上陸作戦の吉報を待っていたら、連絡が入る。上陸作戦についての連絡かと思ったら、フラコミュの大規模な攻勢が始まったことについてだった。どうやら4月1日から本格的な攻勢が始まっており、統一司令部は相当忙しかったみたいだ。
そして、今日の明け方にオランダのアムステルダムが陥落していたという報告が入る。アムステルダムはオランダの首都であり、海岸に近い都市だ。そこが陥落したということは、ライン川の北側、下流地域が集中的に攻められていたということか。
よくオランダ、ベルギー、ルクセンブルクのベネルクス三国を通り道国家とか言うけど、実際の通り道となるのはベルギーだ。オランダの領土は河川が多く、水路の多さを考えるとかなり攻め辛い。しかしあえてそこを突破したということは、フラコミュ軍は大きく迂回して攻めて来たことになる。
プロイセン軍もオランダ領内で奮闘したようだけど、持ち堪えられなかったみたい。プロイセン軍は、ライン川の中流地域を厚く守っていたし、わりとどうしようもなかった。
まあ、ライン川の沿岸地域を全て守ることは出来ないしな。どうしても戦力の空白地帯は出来る。一応、フラコミュとプロイセン軍はお互いにライン川を挟んで対峙しているけど、人口密度としては単純に割ると1メートル分の戦線を1人で守っている感じ。
今回のフラコミュ軍は、進軍速度も速い。海軍を併用していることから、本気度も伺える。去年の攻勢で投入をしていた戦車を北部地域で集中的に運用しており、電撃戦に近い何かもしているな。
まだ戦車師団が立ち止まって包囲殲滅をしてくれているから良いけど、戦車師団がどこまでも突破し前進を続け、後ろから来る自動車化歩兵が包囲殲滅を担当するようになれば戦況は一気に不味くなる。
今回の会戦でオランダ領は大きく削られ、フラコミュ軍は前線を押し上げた。フラコミュ視点で見ると、戦果はかなり大きかったと思う。しかし前線を押し上げた分、補給面では不利になったし、オランダ軍はまだ生き残っている。包囲殲滅を受けたのは、一部の師団のみだ。
基本的に、戦争は攻勢の方が多くの被害を受ける。攻撃する側は移動をより多くしないといけないし、防衛側から砲撃は始まるからだ。フラコミュ側にとって、オランダ軍を壊滅させられなかったことは痛手だろう。
ただ、フラコミュ側も今回の攻勢の被害はかなり少ない可能性が高い。機動力のある部隊で突破し、被害が大きくなりそうなら立ち止まる、ということを繰り返したからだ。精鋭を集めて、戦力の集中運用を開始した分、より厄介な存在になったかもしれない。
現時点で、プロイセン軍とオランダ軍はフラコミュ軍をフリースラント州で足止めをしている状態。案の定、場所がどこか分からなかったけどオランダの1番北にある州だそうだ。アムステルダムのある地域の、対岸って言って良いのかな?
ここまで侵攻されていると、もう政府は亡命をしているし、国民もプロイセンへ難民として流れ込んでいる。でも、オランダ人でフラコミュに連行されていった人は多いだろうな。その内、何割が殺されるんだろう?
「……食い止められる、か?今回の攻勢は、フラコミュの必死さが増しているぞ」
「どうやら、目に見える戦果を欲しがっていることは確かですね。しかしフラコミュも、国力をすり減らしながら戦っていることは変わりません。今回の攻勢で、フラコミュの限界は知れました。ベルリンへはもう、到達しないと思います」
「お。彩花さんの思います、は100%その通りだから信じるよ?」
「はい。信じて大丈夫だと思います」
彩花さんがベルリンへ到達しないと言い切ったので、その理由を聞いてみると素直に答えてくれる。……今回のフラコミュの攻勢は、本来であれば北部の戦線でもプロイセン領に侵攻しているはずだったのだと、彩花さんは言った。
そこまで侵攻出来なかったのは、フラコミュ軍の士気の低下が大きいと。戦車を運用するような部隊や、精鋭のはずの師団ですら士気が落ちているのは、フラコミュの国民意識に何らかの変化が出たのかもしれないと言う。
まあ、プロイセン軍も士気の低下は著しいしな。今回は被害が少なかったライン川の南側の地域での話だけど、突撃命令を拒否した師団が出て来たらしい。守るための戦いならするが、もう突撃は勘弁という軍人達が現れたのだ。
もちろん、無駄な突撃ではない。南側でプロイセンが攻勢をかければ、フラコミュ側も少しは南側へ意識が逸れる。間接的に、北部地域への支援攻撃となるはずだった。その攻勢で、拒否をされたのだから大問題だけど、その軍人達の気持ちも分かるので何とも言えない。
訓練期間を短縮したのも響き、一時期はライン川の上流地域を守る部隊のほぼ全てが攻撃をしなくなった。この地域で唯一淡々と攻撃を続けていたのは、日本軍だけという異常事態に。
プロイセンでも士気の低下が起きたのだから、フラコミュでも士気の低下が起きるのは当然だ。今回の攻勢での進軍速度低下の理由は士気のせいだと彩花さんが言い切ったのだから俺は信じるし、実際にそうだと思う。
フラコミュ人が人間じゃ無かったら士気の低下も起こり得なかったけど、士気の低下が起きたということはフラコミュ人も人間だったのか。あいつらが人間でいてくれて、個人的にはホッとした気がする。
まあ、フラコミュにとってもプロイセンにとっても今回の会戦は山場になるだろう。プロイセン領まで侵攻されないよう、日本軍の援軍は増やす方向で検討しようか。




