第326.5話 フラコミュ軍の攻勢
白く大きな建物の中で、2人の男性が言い合いをしている。
「待ってくれ!春からの攻勢でベルリンを陥落させれば、フラコミュは勝てるはずなんだ!」
「もう待たない。ベン、貴様はフラコミュ人を殺し過ぎた。その代償は、貴様自身の身で払って貰わないとな」
2024年2月17日。フラコミュでトップ層の総入れ替えが行なわれた。日本の無差別爆撃によって、この戦争で民間人の死者が出過ぎたためだ。そして1番責任を取るべき立場へと追い込まれたのは、風船爆弾に対して静観をし続けたベンと呼ばれる男だった。
ベンは、フラコミュのトップを務める7人の内の1人だ。軍需物資の管理を行なっており、戦略にも口を挟んでいたが、彼の関わる攻勢はことごとく失敗に終わり、信用が地に落ちていた。戦略眼自体は悪いものでは無かったが、致命的に運が無かったのだ。
北アメリカ大陸でメキシコ軍にフラコミュ軍の背後を荒らされたことも、かなりの痛手になっていた。メキシコ軍自体は弱く、簡単にフラコミュ軍は追い出したのだが、各工場や物資集積地点が襲われたり放火されたりしたことで、組織的な抵抗が不可能になってしまった。
特に、食糧を集めていた地点が幾つも襲撃されたのは不運だった。メキシコ軍は満足な兵糧食を与えられておらず、自然と目標は敵軍の兵糧となっていたのだが、フラコミュ軍にとっても兵糧は貴重だった。結果的に、メキシコ軍はフラコミュ軍と戦う日本軍の手助けをしていた。
兵糧のせいで戦えなくなったのであれば、それはベンの責任でもある。既に余剰分の食糧を確保することは難しくなっていたが、それでも出来なかったことに対しての責任は追及される。
「だいたい、何でこんな戦争を始めたんだ?オーストリアなど放っておけば良かっただろう?」
「あのまま放っておけば、オーストリアはプロイセンに呑み込まれる。そうなれば、次の標的は自然と我々フラコミュに向くだろう。オーストリアが潰れてからでは遅かったのだ」
「そもそも、ペルシアは何でフラコミュ軍の通行許可を出さなかったんだ?フラコミュ軍をそんなに信用出来なかったのか?」
「……仇敵のはずのオスマン軍が通行出来ているのに、フラコミュ軍だけは通れないところを見ると、本当にその通り、信用が無いのだろうな」
フラコミュ軍は、ペルシア領内を通行することが出来なかった。その理由は、ペルシア側が補給を肩代わりしろとベンが要求したからなのだが、ベンはそのことに気付かない。大国フラコミュ軍の兵糧を賄うことは、同盟国として当然だと思っていたからだ。もっとも、ペルシアとフラコミュは直接的な同盟関係では無いが。
ベンは、自身を引き摺り下ろそうとしている男を見据える。自身よりも冷徹で、国を売りかねない男だということは把握していた。次の投票では、確実にベンよりも票を稼ぐ男だ。ルックスも良く、人脈があり、頭も回る。既に、ベンの退陣要求はさし迫っていた。
「……あの和平案を、呑むのか?フラコミュは解体され、払い切れない賠償金を要求されるのだぞ?」
「既に全体の会議で決定したことを蒸し返すつもりは無い。ただ、フラコミュ国民にこの戦争は不利であることを知らしめる必要はあるだろう」
「はあ!?ふざけるなよ!?敗色濃厚であることが国民に知れ渡れば、一気に士気は崩壊して革命が起きるぞ」
「それの、何が問題だ。そもそも、共産主義自体が間違いなのだから仕方ないだろう」
ベンと話す男は、共産主義以外の考え方を口にした時点で連行されてもおかしくないフラコミュで、異質な考えを話し続けていた。共産主義が間違っているという言葉を聞いた時点で、ベンは叫ぶ。
「間違っていたんだよ、我々は。ずっと同じ方針で、国が成長し続けるわけがないだろう」
「憲兵!こいつは非国民だ!捕まえろ!!
おい!何をしている!俺じゃない!離せ!」
「……安心しろ。フランスは生き残るさ。欧州がプロイセンの一強時代になること自体は、どこの国も賛成しないだろうしな」
そして憲兵を呼んだその瞬間、ベンはその憲兵に捕まって連行されていった。共産主義の中で、反共産主義者は着実に数を増やしていっていた。フラコミュ内で最右翼であるベンが国家反逆罪の罪で逮捕されたことにより、徐々に継戦派や徹底抗戦派は減っていく。
それでも、降伏はすることが出来ないという人達がフラコミュの上層部に多かった。そのような人達は、今年の春の攻勢で最大限の戦果を挙げ、なるべく有利な条件で和平をしようと企む。
その攻勢は、イタリア軍と合同で行なうことになった。動きが鈍くなっている英国海軍を尻目に、旧デンマーク領から強襲上陸を仕掛けようという構えだ。後方へ上陸を行なうことで、プロイセンの指揮系統を潰す目的もある。
しかし、その計画が実ることは無かった。突如としてフラコミュ本土の南の街、マルセイユに軍が上陸したからだ。フラコミュ陣営が制海権を握る地中海沿岸の都市で、悲劇は起こる。僅かに1個師団が南に上陸して来ただけなのだが、この師団が戦局を大きく傾けることとなった。




