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第30話 十字砲火

親衛隊に流れ弾が危険だからと言われ、後方まで強引に移動させられたので、戦場が見え辛くなってしまった。台車に乗って、双眼鏡でようやく微かに見えるぐらいの距離だ。……いや、あまり見えないな。視力は良い方だけど、かなり見辛い。


「騎兵を動かしたのは陽動のためだから、敵の援軍が来たら退避するように言っておいたけど、結構居座ってるね」

「敵の援軍の情報が誤っていた、とは考え辛いのですが……ああ、撤退を始めたようです」

「あれ、馬に乗ったまま振り返って射撃しているように見えるんだけど、見間違い?」

「いえ、私の目でも射撃しながら後退しているように見えます」


敵軍の奥まで走った騎兵、約2千人は敵の援軍が来たのか下がりながら射撃していた。殺意が高いし、練度がおかしい。ヒッタイトの弓騎兵の真似事、ってレベルじゃないな。老婆が大日本帝国内で1番精強な軍、と言ったのは過言ではなさそうだ。


「愛華さん、そろそろ左翼側から援軍来ない?」

「援軍として期待できるのは、遊軍となっている第16歩兵師団ですか。秀二郎様ならば、既に司令部が襲われていることに気付いて移動していてもおかしくないですね」


前線から国境までの丁度中間地点、国境から15キロの地点で第16歩兵師団が待機しているのなら、国境から10キロほどのこの戦場まで1時間もあれば到着するし、早くから敵軍に気付いていれば、もうすぐ到着してもおかしくはない。


とか考えていたら、左翼側からわらわらと日本軍が湧いて出て来た。見た感じ、5000人は居るな。南西方向と南東方向から十字砲火を浴びることになった共産党軍だと思われる軍は、あっという間に殲滅されていく。


……既に敵軍の無力化が完了しているのに引き金を引き続けられる辺り、軍人としての意識が高いな。もう共産党軍は立っている人より立っていない人の方が多いんじゃないか?


後方から援軍に来たのであろう1万人の軍勢は惨劇を目の当たりにして反転し、撤退しようとしていたので歩兵に追撃するよう指示を出した。騎兵で追撃しても良いけど、さっきまでの異様な精強さを見ると追撃で得られるだろう成果に対して予測できる被害が割に合わない。


「被害と戦果は、まとめる必要も無いか。騎兵40人、軍馬61頭に砲兵が3人だけか?対して、共産党軍はほぼ壊滅状態だったな」

「日が暮れて逃げ切った部隊が数千人規模でしたので、この死体の山は1万人以上の死体で出来ている、ということです」

「……何回見ても、こういうのは慣れないな。愛華さんは見慣れてる?」

「私は軍人でしたので、死体には慣れさせられました」


安全を確保した上で、敵軍の死体の山に近づく。今日中に焼いてしまうそうだから、死体を集めているとのこと。死体を一箇所に集める必要性は無いはずだけど、気付けば兵隊さんが死体をぶん投げて一箇所に集め始めているので、大きな山になっている。装備は全て取り外しているから、危険性は欠片も無い。


……恐らく目を撃ち抜かれたのであろう、片目しかない死体と目が合った気がした。死体はどれも酷くやせ細っており、満足な食事を食べることも出来なかったことが伺える。何より、10代前半であろう少年の死体が、片腕と片足が千切れた状態で山の中腹にあったことが辛かった。砲兵による最初の砲撃で死んだのだろうか?それとも、騎兵に釣られて移動した部隊にこの少年がいたのだろうか?


「……はぁ、今日は寝れなさそうだ」

「てっきり、慣れているものだと思っていました。申し訳ありません」

「いや、俺が望んで見に来たのだから愛華さんが謝る必要は無いよ。あと、寝て起きたら復活するし」


死体の山は結局一定以上の高さにならず、非常に末広がりな山となった。その山に何故か持って来ていた重油をぶっかけて、火を放つ。完全に日は暮れていたので、闇夜の中で死体の山は煌々と燃え続けた。その火を遠目に見ながら、酒を飲む。


「秀則様。お酒を飲むのであれば、私がお酌を……もう寝ていましたか」

「うんにゃ、起きてる」

「眠たいのであれば、私に身体を預けて………………」






5月11日の早朝。自制していたお酒を飲んだ挙句、愛華さんの身体の上で目を覚ました俺は、愛華さんにも手を出してしまったのかと狼狽えたけど、どうやらまだだったみたいだ。昨日の少し憂鬱だった気分は晴れ晴れとしているので、どうやら精神状態がニュートラルに戻った模様。まあ、これのお陰で二日酔いとも無縁だし、考察すると沼にはまりそうだから思考は放棄。


前線にいる第17歩兵師団と第68歩兵師団に加えて、ここにいる第16歩兵師団、第1騎兵師団、第1予備役歩兵師団だけでしばらくは前線を押し上げないといけないようなので、これからも頑張ろう。北京まであと400キロ以上あるから、北京到着までに後詰の師団は合流してそうだ。


「中国共産党の動向とか、把握できないかな?」

「そうですね、捕虜から聞き出してみたいと思います」

「あ、昨日の追撃で捕虜は獲得していたのか」

「ええ。20人ほどですが、食べ物を与えると、凄い勢いで食べているとのことです」


中国共産党について色々と知りたくなったので、捕虜から聞き出すように指示を出したが、食べ物で懐柔されそうなぐらいの飢餓状態だったらしく、簡単に内情は把握出来そうだ。捕虜から情報を引き出す際に1番問題になりそうなのは中国語を話せる人間が軍に少ないこと、ぐらいかな。


……俺も中国語とか、ニーハオとシェイシェイぐらいしか知らないけど。

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