第324話 日本軍の総力
2024年1月23日。サンディエゴ方面軍とサンフランシスコ方面軍が完全に合流し、将伯元帥の元で統一した司令部が作られた。その参謀長に就任したのは、第6軍の軍長だった秀一郎さんだ。
どうやら戦線は順調に押し上げているらしく、今年中にフラコミュ領となっている北アメリカ大陸は全土支配出来そうとのこと。風船爆弾はかなりの数の対空砲が向こうに用意されたようなので効果的な打撃が難しくなって来たけど、それでも一定の戦果を挙げ続けている。
……アラスカ戦線も徐々に押し上げ始めたけど、こちらはかなりゆっくりだ。戦い方が完全に列車砲へ依存してしまっているから、進軍速度が非常に遅い。いや、被害が出ないように砲撃で薙ぎ払うのは必要なことなんだけど、速度を重視して欲しい場面で慎重な姿勢はあまり評価を出来ない。
でも砲弾を使い果たすことで日本軍の被害を減らすことは、正しいことでもあるか。この動きは正直に言うと、評価自体をし辛い。少し前の俺なら被害を減らすために砲撃し続けて慎重に進むのはアリだと思っていたけど……このペースだとアラスカ戦線だけはかなり時間がかかりそうなんだよね。
既にサンフランシスコ方面軍の一部が南側からカナダ方面を攻めているから、アラスカ戦線で押し上げスピードが遅いという問題も解消しそうだけど。とりあえず、北アメリカ大陸でフラコミュは既に組織的な抵抗が出来ていない。小銃しか持っていない民兵のみのフラコミュ軍に、もう負けることは無いだろう。
ただ、今まで戦っていた軍は確実に欧州方面へ派遣されているだろうから、欧州の方は辛い戦いになる。ライン川防衛戦を突破された時用に、ヴェーザー川で防衛線を構築し、要塞も作っているみたいだけど、ライン川を突破された時点で負けみたいなものだ。そして現状、ライン川の一部地域では橋頭保を確保されてしまっている。
……フラコミュ側が戦車も投入し始めたし、防戦一方では厭戦気分も広まってしまう。どうにかしてフラコミュ軍に打撃を与えたいけど、プロイセンは南の戦線でも苦戦しているから状況的に厳しい。
いや、本当にプロイセンはよく持っていると思う。プロイセンが早々に潰されていれば、スカンディナヴィアも健在だっただろうし、そのままロシアまで赤化の波が襲っていた。フラコミュが覇権を握る可能性も十分にあっただろう。それを防げたのは、プロイセンのお陰だ。
そんなプロイセンに感謝をしつつ、ペルシアのアバダン油田近郊への上陸作戦の決行日を決めてオスマンへの圧力もかけていく。
「……四国への救援物資が大量に送れたことを考えると、北アメリカ大陸への強襲上陸以降、建造された輸送船や軍艦は予想以上に人や物を運べるね」
「実際、紅海からスエズ運河を奪取しに行く計画は立てられていました。しかしアバダン油田がそれほどに価値のあるものならば、アバダン油田近郊から上陸作戦を仕掛けた方が良いでしょう」
「もう、北アメリカ大陸への増員はしない感じなのか。まあ、既にアメリカの方は押すだけだろうから別に良いけど」
彩花さんによると、元々紅海で決戦を挑んでオスマンの横っ腹から殴る案は幾つか完成していたらしい。それが、俺の気分のせいでぶち壊されたと後から知ってまた後悔した。ペルシア湾を領土として確保出来るようになったから、アバダンに上陸してからオスマンのペルシア湾沿岸部を早目に毟り取りたかったのだけど、わりと強欲な作戦だったかもしれない。
……しかし、ペルシア湾の沿岸部を確保するだけで日本はどれだけの石油を産出するようになるんだろうな。サウジアラビア最大の油田も確か、ペルシア湾沿いにあった気がする。ペルシア湾自体に油田があるだろうし、一生石油には困らないかもな。
現状、満州の油田とインドネシアやマレーシアにある油田で十分なのだけど、内燃機関を搭載した貨物船が増えて来ると少し怪しいとのこと。自動車の数も順調に増えて来ているから、ガソリンの需要は増し続けている。
「1番石油を使うのは、飛行機か。中央アジア方面で毎日のように多くの飛行機を出撃させているから、燃料を送るのも一苦労だ」
「島津さんが、隊員の健康管理まで行なってローテーションで出撃させていますからね。大量生産した飛行機が湯水のように消費されています」
「それは、それだけパイロットが消耗しているってこと?」
「いえ、単純に飛行機が使い物にならなくなるまで酷使しています。飛行機を修理できる人員がまだ少ないので、修理作業が追い付いていません」
中央アジア方面では、島津さんが軍団長になってから異様なほど飛行機と燃料が消費されている。被弾したり、飛び過ぎたりして、次に飛べばもう不味い機体というのが判断できるようになっているらしい。そういった機体は、本国にも送られて次の世代の航空機開発にも役立っている。
とにかく、整備士が不足しているのは大問題だな。単純に、島津さんが空軍を酷使し過ぎているだけという見方も出来るけど、あの子は日本軍の被害を抑えたい一心で働いているので文句は言えない。あの子が空軍のトップになってから、純粋な空軍の戦果というものは3倍以上になった。
たぶん1日で3000人ぐらいは殺しているのに、それを5ヵ月ぐらい毎日続けている。単純計算で45万人は殺しているのだけど、この数の半分ぐらいは民間人だ。軍事工場で働く人や、港で働いている人も被害に含まれているだろう。
このまま行けば、他国から見て恐ろしい空軍が誕生しそう。いや、もう既に誕生していると言っても良いかもしれない。……ちなみに加藤さんは、敵航空機を34機も撃墜している。ついでに、被撃墜回数が6回になったらしい。
燃える飛行機から飛び出して、敵地に着陸したのに日本の航空隊基地まで歩いて帰って来たとか。あの2人は、本当に抜擢して良かったというしかないな。




