第322話 帰宅
1月5日。豊森邸に着いた頃には仁美さんも凛香さんも愛華さんも退院をしていたので、笑顔で出迎えられた。会談の内容は逐一電話を使って伝えられていたらしく、それなりの成果があったことやスコットランドとスペインが鬱陶しい動きをしていたことは豊森家全体で把握している。
まあ、まずは子供達とのご対面だ。仁美さんとの第2子になる仁衣奈は、久仁彦とかなり面影が似ているような気がする。男女の差はあるはずなのだけど、赤ちゃんの時の顔は兄妹だと特に似る傾向があるような気がするな。
愛華さんとの子供になる真奈華は、女の子なのに少し男らしい顔つきというか、将来的には愛華さんに似そうかなという感じ。逆に凛香さんとの子供になる力弥は、女の子みたいな可愛い顔で驚いた。
「……ぐっすりと、寝ているな」
「まだ生後半月程度ですから、1日のほとんどは寝ていますよ。久仁彦の時も、秀則さんが来る時に限って寝ていましたね」
現時点での身長と体重は、真奈華が2日遅れで産まれたはずなのに1番大きい。意外だったのが、凛香さんとの子供である力弥が5人の子供達の中で1番小さいことだな。将来的に、どうなるかまでは流石に分からないけど。
仁衣奈を抱き抱えて、久仁彦と対面させる。久仁彦はもうすぐ3歳になるし、何となく妹という存在の理解はしてそうだ。
「妹って、分かるか?」
「ニーナはいもうとです」
「本当に、分かっているのかは怪しい顔だな」
「わかってますー」
そう思って妹が分かるか聞いてみると、何となくまだ言わされている感が残っている。会話自体は成り立つのだけど、本質的な理解はまだ追い付いていないのかな。
「会談ではロイズさんが飛び入り参加したような報告が届いていますけど、個人的に話せたのですか?」
「全体の会談ではやり取りをしたけど、1対1の話し合いはほとんどしてなかったよ。……スコットランド政府としての利益を、とことん追求していたと思う」
仁美さんに会談のことや、ロイズさんのこと、プロイセンの軍のトップであるバルヘルム元帥のことなどを話していく。今回の会談で1番頑張ったのは、バルヘルム元帥だ。それに追従する形で美雪さんと彩花さんとロシア皇帝のアルセーニさんは頑張っていたと思う。
会談の最終日はクリスマスだったので、豪華な食事も振る舞われたし、その日にしっかりと日露普三国同盟への調印は行なった。たぶんこの世界で2023年12月25日は、教科書に載るレベルで大切な日になると思う。
「何か、こっちで変わったこととか起きなかった?」
「12月28日に、四国の方で大規模な地震が発生しました。津波も発生し、被害者数は十数万人になると思われます」
「……京都は揺れなかったの?」
「京都でも、結構な規模で揺れました。しかしそれ以上に、高知や徳島、それと和歌山は壊滅的な被害を受けています」
そして愛華さんに留守中、何かあったか聞いてみると、去る12月28日にかなり大きな地震が日本本土で起きたらしい。その地震で起きた火災はすぐに鎮火したそうだけど、火災のせいで逃げ遅れた人が津波で海へ流されたとか。
特に高知は養殖業が盛んで、日本の漁獲量を支えている地域でもあるから、これからの日本の食卓に影響を与えるレベルの地震だったらしい。すぐに対策本部を設置して、避難所へは大量のインスタント麺やフリーズドライ食品を送っている。
「……四国の南半分は、家が倒壊しまくったのか。東日本大震災の時は、半壊止まりや耐えた家もあるんだよね?」
「東日本大震災は、2011年3月11日の地震でしたか。その時は、全壊だらけでは無かったはずです」
「あの地震はノートに書けたから被害はかなり少なかったそうだけど……今回のは不味いね」
「津波が来る、ということは現地でも分かっていたようですが……津波の到達範囲が広すぎて逃げられなかった人が多いという状態です」
一応、四国は2020年から2030年ぐらいに大きな地震があるかも、とは書いていたのだけど、それだけで対策なんて出来るはずもない。とにかく、人命救助のためには災害復興隊を結成して現地に送るしかないか。
こういう時、豊森家の動きは迅速だ。既に災害時用の食料を輸送し、現地の復興を行なうための人手を募集している。普段の賃金よりも良いから、人手は集まりやすいし、国有企業に勤めている人から体力のある人を選抜して現地に送り込むこともしている。
まだ余震が多い上に、避難所自体が倒壊していたりして寒い季節だから、夜も眠れないとのこと。一先ずは、救援物資を送り続けるしかないな。被害者の数も、出来る限りの把握を行なおう。四国だけじゃなく、鹿児島や宮崎、和歌山にも被害は出ているから、復興は大変だ。
……この機会に、より震災に強い家も設計させるか。日本は災害大国と言っても良いぐらいには災害が多い。耐震性能の高い高層建築物を立ち並べられるように、建築家への投資は増額をしておく。災害対策の研究費の増額もしておこう。
「今回の地震は、過去10年間に起きた大規模な地震に比べて遥かに大きかったのだと思います」
「まあ、耐震性だけは元から追及していたのに全壊だらけだからな。如何にヤバい地震だったのかはそれだけで十分分かるよ。きっと京都も大きく揺れていたと思うし、京都や大阪の被害が少なかったのは今までの積み重ねの結果だよ」
彩花さんが今の日本の家の耐震性能が強いと言っているのは、テンプレ設計が耐震性に優れているからだ。簡単に建てられるけど、壊れないというのがコンセプトの平屋が、全滅というのは今回の地震の規模がおかしかったことを指し示す。
……あ、今結構揺れたな。余震で京都に震度2ぐらいの地震が来るなら、四国の方は余震で震度6強ぐらい揺れてそう。




