第321話 汽車新年
旧中国領を通って、朝鮮半島まで汽車で揺られながら移動している最中に新年を迎える。2024年の元旦は、汽車に乗りながら迎えることになった。今年の初日の出は普通に見逃したし、長旅は疲れるので、早く家のベッドの上で眠りたいな。
「明けましておめでとうございます」
「明けましておめでとう。いや、分かってはいたことなんだけど、中国領を突っ切るのは時間がかかるね」
「これでもかなり鉄道網の構築が進んで来たので、ほぼ一直線に釜山までは行けるんですけどね」
「……もう、中国を併合して3年以上の月日が経つのか。それでも線路の敷設スピードは、おかしい気がするけど」
中国領の線路の敷設は、かなり進んだ。沿岸地域は最優先で敷設していたけど、2022年から2023年にかけては中国奥地でもレールを敷設し続けている。今ではもう、結構な密度で網目状に汽車が走っている状態だ。昨月の中旬に開通した地域が多いから、会談は行きと帰りで別のルートを通っている。
この鉄道網のお陰で、アフガニスタン領へ迅速な軍を派遣することが出来たと言っても過言では無い。そして旧中国領で線路の敷設をしていた職人達は、今度はアメリカ大陸で見境なく線路を敷設し続けている。後は、旧アフガニスタン領でもか。
補給にも有用だし、後方に鉄道網があるかないかじゃ輸送量が段違いだ。ペルシア領に侵攻している軍の数が増えているのは、北アメリカ大陸に比べて補給が楽だからになる。7月頃に日本軍はペルシアの旧アフガニスタン領を制圧し、ペルシア領に雪崩れ込んだけど、その頃より軍の規模は大きくなっている模様。
……現時点ではオスマン軍がペルシア軍に合流しているせいで、侵攻ペースはかなりゆっくりになっているけど。空軍を使って確実に敵軍の数を減らしてはいるのに、ペルシアの大都市であるテヘランを陥落させるのには時間がかかっている状態だ。
ペルシアにある最優先で確保したいアバダン油田はペルシアの南西部にあるので、北東方向から侵攻を始めた日本軍がアバダン油田に到達する頃にはペルシアが先に降伏している状態だろうな。それよりも、カスピ海沿岸部を制圧する方が戦略的に良いという結論には会談で至っている。
まずはカスピ海の南側を占領して行き、バクー油田を陥落させたオスマン軍をそのまま包囲することが目標になるのかな。ロシア軍との連携もより綿密にしていく予定だから、これからはより大規模な攻勢が出来ると思いたい。
「……ここら辺でも、テンプレ通りの街作りになるんだよなぁ」
「一応、高層建築物などは増えていますし、小学校や中学校の校舎は3階建てになっています。少しずつ、街全体のモデルが変化して行ってます」
「一般家庭の住居は、まだ金太郎飴状態じゃない?」
「普通の住宅も6種類から24種類まで増えていますし……全く同じでも気にする人はそんなに多くいませんよ?飾り付けまでは全く一緒になりませんし」
旧中国領の街作りは、多少変化も出て来たみたいだ。瓦礫の山をどうにかすることから始まって、今では沿岸部に都市がどんどんと出来上がっている。この早さの要因は、テンプレート建築と作業員の多さだな。若干、バリエーションは出て来たとはいえ、同じような家が立ち並ぶことも未だに珍しいことじゃない。
……大体、テンプレート設計だと安い上に納期も早いから、依頼主としてもそっちの方が都合は良いのだろう。家の中の機能的にも優れているし、他人と一緒だとオリジナリティが無いから嫌、という人以外は拒否反応を示さない。
そのテンプレートが6種類から24種類と結構増えているような気がするけど、少し外観を変えただけで一種類増えたことになっているので、街並みはあまり変わり映えがしない。彩花さんは、普通は気にしないと言っているので、本当に気にしない人が多いのだろう。
一応、お金持ちなら建築士に依頼を出して、完全にオリジナルの家を建築することは出来る。だけど旧中国領には私財が豊かな人はまだあまりいないせいで、北京とかでも同じような景観の住宅街は続く。
北アメリカ大陸では、もはやお豆腐のような簡易住宅が立ち並んでいるそうだ。人と物資を送って、可能な限り自給自足をさせていきたいから、住居が簡易的になるのは仕方ないのだけど。将来的に北アメリカ大陸の東海岸は、この旧中国領の海岸沿いの都市と同じような都市が並ぶであろうことが容易に想像出来る。
「電線は地下に埋めているから、景観は本当に日本と変わらないんだよな。駅すらテンプレ設計だし」
「駅は基本的に、同じような構造になりませんか?複線にしないといけない地域は、若干大きめの駅になりますけど」
「前に、堺に行った時は駅が大きかったか。……いやまあ俺も、テンプレ設計で建築作業を減らすこと自体は賛成なんだけどね」
何個目かの駅を通過して、朝鮮半島に入る。すると、もう完全に日本と同じような景色が広がるのだから、如何に日本の本土と海外の領土とで差が無いかということが分かる。どこもある程度住みやすいお陰で転勤させること、させられることには抵抗感が無いようだし、利点は意外なほどに多い。
……これからは高層建築物が増えるから、建築士に求める条件は引き上げる方針は固める。今でも耐震性能を上げるために日夜研究をしているそうだけど、これからはオリジナリティのある高層建築物が増える時代だ。ビルやマンションのニーズも増えるだろうし、そこら辺のことも考えておくか。




