第310話 日露普三国同盟
元々、この世界には露普同盟が存在していた。歴史は古く、昔は相互防衛条約だったらしい。孤立気味だったプロイセンと、オスマンやリトアニアに対抗したいロシアが手を組んで、それがずっと続いている状態だ。そこに新しく日本が入って来たという感じだから、未だに若干のギクシャクはある。
「欧州の歴史は、あんまり詳しく無いんだよな。ナポレオンがいないのなら、対仏大同盟は成立しなかったのか?」
「対普大同盟は存在していますが……対仏大同盟でしたら歴史上には無いです」
「プロイセンの方が包囲網を形成されたのかよ。いや、でもあの頃にフランスが拡大しなかったらそうなる可能性もあるのか。
……もう少し、欧州の歴史は頭に入れておくべきだったなぁ」
18世紀と言えば英仏の第二次百年戦争とフランス革命、ぐらいの知識しかないし、この時代の欧州に関する知識はもう少し多く頭へ入れておくべきだった。プロイセンに包囲網を組まれた時、ロシアがプロイセン側に立ったからこの同盟は長く続いているのだ。
目先の損得に捉われず、ロシアがプロイセンと協力したからこそ露普同盟は長く続いた。そして今日、正式に日露普による三国同盟が締結されることになる。戦争中に正式な同盟を結ぶのは、特段珍しい話じゃない。改変前の第二次世界大戦時に日本が結んだ日独伊三国同盟も、調印されたのはフランスが降伏した後の話だからな。
同盟内容としては今まで以上の相互援助と、研究協定や戦後の分配、そして今後の戦略の決定だ。
だからこの場に、中立国としても中途半端なスペインが参加しているのは非常によろしくない。しかも王家や皇族が顔を出しているのに、スペインは外交官だけだし。そしてそのスペインの主張は、可能な限り賠償金や領土割譲を減らすようにしろというものだから、鬱陶しい邪魔者以外何者でもない。
スペインは、どちらの陣営から見ても漁夫の利を得ようとした小賢しい国でもある。そのせいで今、立場としては危ういのかもしれない。だから、どちらが勝っても戦後世界で戦勝国が好き勝手出来ないよう、平等主義や民族主義を掲げて勝ち組を抑制している。
俺達がオデッサに到着してから2日後、ロシア皇帝とその家族も到着したので晩餐会が開かれた。その時ですらスペインの外交官が大きな声で屁理屈を言っていたので彩花さんに反論させようかと思ったけど、途中で席を外したバルヘルム元帥が面白いことをしてくれるそうだ。
そして数分後、バルヘルム元帥が引き連れて来たのは片腕が無かったり頭の一部が吹っ飛んだりしている軍人達だった。大きな怪我をしている大柄で屈強なプロイセン軍人がスペインの外交官達を取り囲み、バルヘルム元帥は激怒したような声で叫んでいる。
「我々は戦争の被害者だ。ここにいる者達は、国境で警備をしていた者達だ。自分勝手なフラコミュが侵攻して来たせいで戦争は世界規模に発展し、多くの犠牲者が出た。フラコミュは、裁かれるべき存在である。未来永劫、戦争が出来ない国にしてしまわなければならない。何より、プロイセン領内の復興にもお金が必要である。そのためには、多くの賠償金をフラコミュに科す必要がある。
……以上、バルヘルム元帥のお言葉です」
「当然の主張ではあるな。プロイセン国内が主戦場となっているのだから、各方面から賠償金は毟り取らないと復興が望めない。というかあの能天気スペイン人達は、プロイセン国内の惨状すら知らないだろう」
「……我々としては、制裁が過激であればあるほど良いのですよね?」
「ああ、世界大戦は2度起こす。この大戦での講和会議は、たかだか20年の休戦にしなければならない」
彩花さんが翻訳してくれたけど、バルヘルム元帥の意見はプロイセン人として真っ当な意見なのだろう。フラコミュが侵攻して来たから、我々は戦った。賠償金の額に関しては、少なくともプロイセンが受けた被害の全額賠償にするだろう。これには間違いなく、戦死者も含まれる。きっと膨大な額になるだろう。
そして将来的に、立ち直ったフランスは間違いなく復讐をする。その時にプロイセンがどうなっているのか、日本がどこまで領土を拡大しているかによって、取るべき方針は大きく違って来る。
晩餐会は一部問題こそ発生したものの滞りなく進み、ロシア皇帝であるアルセーニ・ニコラエヴィチ・ロマノフさんが挨拶をした。たぶん、俺の知識で知っているニコライ2世の子孫なのか?いや、分家の可能性もあるか。基本的に欧州の王家は複雑なので、ニコライ2世の縁者かもしれないということしか分からない。
西暦2000年代もロシアで王家が存続していることから、おそらくニコライ2世は最後のロシア皇帝にはならなかったのだろう。そもそも共産主義革命が起こらなかったら、普通に存続は可能だったように思える。歴史が大きく変わっているから、一概には言えないけど、ロシアには良い影響があったのかもしれない。
「ロシアで共産主義が優位じゃない理由も探っておこうかな。ロシアじゃなくてフランスで共産主義革命が起こっているから、ある程度の予測は出来て来たけど」
「改変前の世界では、ロシアが社会主義国家と言っていましたよね。ということは、ロシアの王家は……」
「想像の通りだと思うよ。まあ、この世界では存続しているし、この話題はもう止めよう」
その後も彩花さんに通訳をして貰いながら、ロシアの食事を楽しむ。流石に高級な料理を揃えているからか、どれも普通に美味しい。一方で隅に追いやられているスペイン人達は、重傷のプロイセン軍人達に囲まれて食事をしていた。おそらく、あの様子だと介入は最低限になりそうだ。その最低限の介入で、何を言って来るかは注視しておこう。




