第28話 銃と武器
少し時間が空いたので鹵獲した中国軍の使っていた銃と、日本軍が使っている銃を見比べてみる。
「これが今の日本軍が使っている銃、ライフルか」
「小銃ですね。使いやすさと信頼性はイギリスよりも上です」
「精度も15年前にイギリス軍から鹵獲したライフルより上になったんだっけ。イギリス製のライフルの再現が甘いだけかもしれないけど、良さげな小銃だね」
日本軍が現在使っている小銃は、俺が改造を施した火縄銃にわりと外観が近い。構造はもちろん全くと言って良いほど違うけど、持った感じそこまで重たく無いし、精度も良い。銃の名前なんてあまり知らないし、詳しくも無いから、造形の近い銃は思い浮かばないけど……Kar?に似ている気がする。いや、ライフルなんてどれも似たようなものか。
一方で、中国の小銃は負のオーラが漂っていた。鹵獲した武器とはいえ、銃身がそもそも歪んでいるとか、まともに弾が飛ぶのだろうか?やたらと持ち手の部分は太いし、螺旋溝は無いし、そこそこ重い。
「……日本が提供していた銃って、ここまで酷かったの?」
「いえ、もう少しまともな構造をしていましたよ。しかし作り方までは教えていなかったため、独自で作ろうとした結果がこれなのでは?」
「模倣は上手かった気がするんだけどな、中国は。内戦の影響か、統治の方法が不味かったのかはわからないけど、畳みかけようか」
5月10日の昼前、第1騎兵師団と共に司令部も国境付近から北京に向かって中国沿岸部を進軍開始。トップが複数人いると、その複数がどんなに優秀でもぐだぐだになることは知っているので、周りにいる人間の中で1番優秀そうな秀一郎さんに移動の指揮を任せた。俺はその隣で提案するだけだ。
……戦国時代、金ヶ崎の戦いの時に軍団長になってから、何回か軍団長として軍を指揮することはあったけど、俺の指揮能力の限界が2万人だということは自覚している。それ以上の人数だと、他の人の方が明らかに軍の動かし方は上手い。戦術レベルの指揮は出来るけど、戦略レベルだと後手に回るケースが多い感じだ。
奇策を多く知っていたからなんとか立ち回れたけど、他に軍団の指揮を出来る人がいるなら任せるのが正解だろう。秀一郎さんも快諾してくれたし、俺の意図を可能な限りくみ取ろうとしてくれる人だ。
後方は第1、第2予備役歩兵師団が守るため、補給路の確保は大丈夫だろう。本土から数個歩兵師団が派遣されるし、将寛さんが早くも九州、沖縄、台湾からの同時強襲上陸作戦の立案とかしているらしいし。
……将寛さんに、上陸目標地点は香港、上海の2点に絞るよう伝えておこうかな。本当に中国が単独で馬鹿なことをやらかしたのか、背後に何かいるから攻めて来たのかわからないけど、早期に戦線を拡大して一気に蹴りを付けるなら強襲上陸は良い方法だ。
「インドシナやビルマにも攻めて来たのかは、早く知りたいな。そっちにも攻めていたのならイギリスが関与している可能性は高い。後は……考えたくないけどロシアか。一応、軽い挨拶程度は手紙でやり取りしたらしいけど、日本が焦っていると捉えられたか」
「ロシアとの接触は好感触だったと美雪様が喜ばれていたので、考え辛いです。ただ、ロシア側が日本と取引しようとしている所を見ると、ロシア内部でも何か問題が発生しているかもしれません」
愛華さんと話していると、中国の背後にいる国の話になった。既に中国国内で軍部が暴走した、ということはわかっているけど、俺は納得して無いし、愛華さんも少し疑問が残っているようだ。
中国を動かしている国の候補はイギリスかロシアのどちらかだと思っていたけど、内部の中国共産党やチベット、モンゴル、国境が接しているのかわからないけどペルシアまでは候補に入る。中国はたぶん、あの日本が手を出さないやべー国、だと外国では思われていただろうから、隣国が扇動して日本に仕掛けさせた可能性は高い。
「まあぶっちゃけ、中国奥地の統治は難しいから沿岸地域だけ切り取れれば良いんだけどね。ただ、それだと国境線が長くなるから良し悪しか」
「沿岸地域を全て獲得するとなると国境線の全て護るのは不可能となるので、緩衝地帯をつくり後方にある程度の軍団を置いておくしかないかと」
絵に描いた餅だけど、中国の沿岸地域の占領は魅力的だ。北方大陸領と南方大陸領が繋がるというだけでは無く、土地は肥沃で農業に適した土地が多い。また、東シナ海の全てが日本の管理下となり、他国との国境線が本土から遠ざかる。台湾や朝鮮、フィリピンに駐屯させる軍も最小限で済むようになるだろう。もうすでにかなり減らしたけど。
「あ、嫌な予感がするから北西からの奇襲に備えて」
「北西、ですか?偵察隊はかなり広範囲に放っていますが……」
「秀則様がそうおっしゃるのであれば、第1騎兵師団の半数を北西からの敵に備えましょう」
国境から3時間ほど、休憩を挟みつつ南西方向へ移動していると、北西から嫌な雰囲気を感じ取ったので愛華さんに伝える。すると、何故か第1騎兵師団の師団長である老婆がさっさと北西に師団の半数を向けてしまった。行動が早いなー、とか思っていると、北西方向に放っていた偵察隊の人から正規の軍とは思えない部隊がこちらに向かってくる、という報告を受けた。1個師団程度の人数を指揮しようとすれば、勘が冴える謎現象はまだ起きるのか。
「あれ、あの旗は……」
「中華民国の国旗ではありませんね」
そして、接近してくる部隊は今の中国の国旗では無く、俺の良く知る中国の国旗『五星紅旗』を掲げていた。
……中国の奥地、延安が本拠地だった中国共産党の軍が河北にいるということは、既に中国共産党が中華民国内部で独立して中華人民共和国を名乗って進軍しているのかな?何か、中国共産党が仕掛けていたのかもしれないけど、装備的に中華民国の正規軍より劣っているように見えるからまとめて轢き殺しても良いよね。