第300話 信用
教育でシステムの変更があり、今までは学業を10段階評価、身体能力を5段階評価にしていたけど、これからは身体能力も10段階評価にするようだ。今まで学業は1から10の数字で10段階評価、身体能力は優、秀、良、可、不可の5段階評価だったけど、身体能力も1から10の数字で表すみたい。
身長に関してもアルファベットで14段階に区切っていたものを10段階に改正。今までは1優Aが最高の評価だったけど、これからは111が最高になるのか。
こうなった原因として、銀行制度の確立が背景にある。銀行側が融資をする際に、個人情報を1から調べ上げることは時間がかかるようで、国が個人の信用度も決めてくれと言って来たのだ。
そしてこの信用度というのは10段階評価にしようという話になっているので、これを機に全てを10段階評価にしようということだな。信用度が最初に来るので、人間として最高の評価は1111という感じになる。
……信用度を国が決めてしまうとなると、一気にディストピア感が押し寄せて来るな。俺の場合だと、前に身体能力を測定した結果も合わせて、信用度が1、学業が1、身体能力が3、身長が6となったので1136だ。この信用度によって、借金が可能な額の上限も決まる。
「10がある場合は、5桁になるのか」
「いえ、10の場合は0になるので4桁ですね。なので0000という人間も存在します」
「……信用度って、算出方法はあるの?」
「家系と親族の犯罪履歴で初期の値は1~3となります。それに本人の犯罪履歴や学業への態度、性格などが加算されていく形です」
怜可さんによると、信用度に関しては豊森家の人間なら基本的に1~2とのこと。一般人だと3~4程度になるのかな。一度犯罪を犯した人間や、借金の返済が間に合わなかったりした場合はどんどん上がる感じ。
性格テストに関しては、かなりの量のデータがあるお陰で露骨な質問を設定しなくても良いみたいだ。「あなたは人を殺したいと思ったことはありますか?」みたいな質問ではなく「桃3個、蜜柑6個、林檎9個を4人で分けるにはどうしますか?」みたいな質問が並んでいる。これで本当に正確な性格診断結果が出るかは謎。
他にも信用度に応じてラジオ局の設立を認めるか否かを決めたり、軍の兵士として徴兵出来るかも判断するようだ。ちなみに一応、信用度を1に近づける方法もあるみたいなので最初から3の人でも1になることは出来る。
何かの分野で一定の活躍をすると1下がったり、勲章を獲得すれば前までの数値に関係無く1になったりもする。まあ、6までなら正常な人間と見なされるようなので信用度の導入で大規模な反発が起きたりはしないだろう。元々管理されているようなものだし。
将来的な遺恨が出来るかもしれない政策であることは否定しない。でも、信用というものを可視化してしまえば犯罪は減るのではないかと考えている。未然に事件を防ぐ効果も期待できるし、試して損はしないはず。
それこそ、特定の研究区域には信用度が2までの人間しか入れないとすればスパイが入り込めないようにもなるしな。外国人は上限が3に、混血人や名誉日本人は上限が2になっているから、その辺りがどう影響するかも施行した後の動向を見て判断したい。
「将来的には、信用度をもっと細かくしていきたいですね」
「数値だけで犯罪者と決めつけたくもないから、工夫はしていかないといけないと思うけどね。意識の持ち様も、指導していかないといけない」
「信用度の数値だけで色眼鏡を掛ける人間の信用度は、落とす予定ですよ」
「……そこら辺は、流石に考えているのか。活用幅は広いだろうし、試験的な導入なら今の日本だと誰も文句を言わないと思うよ」
この信用度が低ければ犯罪者予備軍というわけだけど、それだけで不当な扱いをするような人も信用度は下げる予定だと仁美さんは言った。将来的にはこの信用度をもっと細かく規定したいとも言ってるし、信用度を利用して犯罪率を下げようとしている感じかな。
信用度に関しては、国が配布する手帳の色で区分するとも言っている。手帳に関しては、国有企業に働く人間に対して国が元々配布している物だ。カレンダーとメモ帳が合体しているようなもので、活用している人は多い。来年からその手帳の、デザインが変わるということか。
……国民全体が品行方正になること自体、俺の中では良いことだと結論付けて無いけど。ただ、相互監視社会で透明度を上げ続けた先の社会は、悪くはないと思う。あまりにも管理社会というのに、悪いイメージを持ち過ぎていた。
最初に悪いイメージを持ってしまうと、払拭することが難しい。管理社会は、悪のAIやらディストピアというイメージの面が強すぎる。
組織のトップという立場で管理社会について考え続けた結果だけど、人間性を否定するような政策、延々と同じ作業、人口管理のための殺人、みたいなことをさせるわけが無い。自由度を下げてしまえば、当然だけど効率は落ちる。
創作でガチガチの効率主義に陥った管理AIとかが、そう捻じ曲がった方向へ向かって思考を飛躍させてから投げ飛ばす理由は、改変前の世界で管理社会は悪じゃないと駄目だからだと思ったこともある。まあ、ほとんどの創作が自由な社会で描かれた空想の管理社会だからという理由もあるだろう。
低い信用度、低い能力、低い地位の人間は、結婚出来ないみたいな政策を採用することも無い。国がセッティングするお見合いの機会は減るかもしれないけど、結婚の強制や身分差による結婚の反対まではしない。
人間の力を引き出す最大の動力は、感情だとも考えているしな。……一度自由度に関しては徹底的に話し合った方が良いか。




