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第27話 黄河

「騎兵の追撃禁止、守ってくれてありがとうね」

「いえいえ。騎兵での追撃を禁止したのは、機動力のある騎兵師団の突破力をいざという時のために削ぎたく無かったからでしょう?秀則様が私達を頼りにされていることは感じとれました。

現在は歩兵と砲兵のみで進軍しており、先頭を走る第68歩兵師団は国境から30キロの地点で進軍を停止しております」


5月10日の朝。中国との旧国境地帯まで行くと、騎兵での追撃禁止令のせいで後方に待機していた第1騎兵師団が一糸乱れぬ行軍を見せてくれた。第1騎兵師団の師団長は女性だったけど、もうお婆さんと言って良いような年齢だ。そんな人が俺に敬語を使っていると、少しむず痒い気分になる。


軍馬として用いられるお馬さんに近寄ると、想像以上に大きくて怖い。戦国時代の時の軍馬より明らかに一回り以上は大きくなっているけど、これはイギリスやフランスの馬を鹵獲して種牡馬にしたのだろうか。もしくは、単純に大きな馬だけで交配をさせていったか。そんな大きな馬に乗る人は、馬に対してとても小さく、全員が身長140センチから150センチぐらいの低身長な方々だった。


「……身長が低いなら、体重は軽いよな。いや、これは逆か。体重が軽い人を選んだから、低身長だらけになったのかな」

「そうです。装備込みで50キロ未満の人間のみ、この精鋭第1騎兵師団に所属することが出来ます。人馬ともに鍛え上げられた、大日本帝国内で1番精強な軍でしょう」


話していた御年66歳の老婆は会話が終わった後、ひょいと馬に乗って銃を担ぎ、本陣へと戻っていった。顔はしわが多くて80歳にも見えるのに、身体にはまだ筋肉があって元気だからギャップが凄い。というか、大きな馬に乗るための瞬発力みたいな能力が高すぎる。俺とか馬に飛び乗ることも出来なかったから、いつも馬が屈んでくれていたよ。


旧国境付近は早くも線路の敷設を始めており、補給路を作っていた。すでに数キロなら汽車が走れそうな状態だ。昨日までの戦闘で中国軍は撤退を繰り返し、国境まで下がった5月8日から2日間で30キロもの距離を敗走したらしい。そこで防御陣地に籠っているそうだけど、砲弾を撃ちまくっているようだから防御陣地が跡形も無く砕け散りそう。


鹵獲した武器を見てみると、中国軍の銃は歪な形というか、とりあえず螺旋溝が掘られていないことはわかった。こちらの武器が向こうの手に渡ったとは思えないし、万が一何処かで捕虜を捕まえてられていたとしても、すぐに生産できるとは思えないから大丈夫かな?


「大砲の砲弾って、集めようとしたらどれぐらい集まる?」

「1年かければ、1000万発は集まるのではないでしょうか?今すぐにだと、200万発程度が限界だと思います」

「1個砲兵旅団に大砲はいくつ配備してるの?」

「現在は1個砲兵連隊に50門なので、1個砲兵旅団だと100門ですね」


愛華さんに大砲の数について聞くと、1個砲兵旅団の3000人で100門を運用していると聞いた。割合的には30人当たりで1門か。結構砲の数が少ない感じはするけど、砲自体が大きくなっているし、100門の砲が一気に火を吹くと凄い威力だそうだ。


国境まで来た俺についてきた親衛隊はいつの間にか重装甲な服に着替えており、威圧感が増していた。普通の兵士の防護服よりも厚くてぶかぶかな服ってことは特注品だろうけど、無駄にお金を使っている気がする。そして俺を中心に輪形陣。いつもは後ろにいるはずの凛香さんが前にいるのはとても頼もしいけど、護衛である親衛隊の隊長が1番前という陣形は間違っている気がする。


「このままいけば黄河まではスムーズに進軍できそうだけど、何か中国政府は言って来た?」

「……いえ、特に連絡は入ってません。こちらからの使者も帰って来てないです」

「は?使者が帰って来ないって……そういうことだよね?」

「はい。殺されたか、生きていてももう帰って来ることが出来ない状態だということです」


侵攻してきた中国軍が粉砕されたのにも関わらず、一向に何も言って来ない中国政府に不気味さを感じるけど、何も言わないのならこのまま進軍して領土を切り取りたい。


使者を殺す辺り、本当にこの世界には外交という概念が無いのか、単に中国がヤバいだけなのか判断は出来ないけど、弱いことが判明してなお尊大な態度を取るなら、このまま進軍してしまおう。


このペースで進軍していけば、早々に北京には到達するだろう。その先は黄河、か。


黄河の堤防決壊作戦とか、やってくるかな?このまま行けば5月下旬までには河北の各都市を占拠出来そうだから、可能性としてはある。増水期に実行してきたら、たぶん中国の各都市が水没するな。防ぐために騎兵師団を突っ込ませるか?


……いや、小舟の用意と警戒だけさせておくか。


「黄河まで到達したら、小舟の用意だけしておいて」

「?

黄河を船で渡るのはわかりますが、小船で良いのですか?」

「違う違う。たぶん中国が自棄になって黄河の堤防を決壊させると思うから、河北に黄河の水が流れ込むんだよ。その時になってから舟を用意するのは対応が遅くなるから、あらかじめ用意したい」

「黄河の堤防を決壊させれば多くの地域が水没するでしょうから船を用意するのはわかりますが……そうですね、急いで船の用意いたします」


愛華さんに小舟の用意と堤防の決壊への警戒、準備をするよう伝えると、すぐに舟を用意するように各所に連絡が行った。まあ、自国民もろとも沈めようとするとは思えないけど、改変前の日中戦争でしでかしているはずだから警戒するに越したことは無い。一応、司令部とかは高台に設置するように、とも言っておこう。


……決行されるかわからない作戦を防ぐように指示を出すことは、俺には出来なかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 16歳には思えない落ち着きと采配ぶりだなと思ったけど 感性が成長しないとはいえ、もう66歳なんだよねぇ
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