第289話 スクール警察
小学校と名前が変えられた教育機関では、体罰問題の他にもいじめ問題が起きている。改変前でも大問題になっていたし、やっぱりいじめはなくならないものらしい。
この話題になると凛香さんが暗い表情にもなるので、触れたくもない。でも、いじめのせいで有望な子の将来が変わってしまうことは個人的にも嫌なので、提案ぐらいはしようか、
「何か、案でもあるのですか?」
「いじめを犯罪にして加害者を逮捕し、法的措置をとるのも微妙だと思うし、学生同士で裁判を行なわせたい。学生が逮捕して、裁判で量刑を決めて、簡易的に裁くことで双方の未来へ影響しないようにしたいかな」
「生徒達が、量刑を決めるのですか。……いじめは、教員側も発見するのに時間がかかります。学生が迅速に動いて問題の解消をすることが出来るのなら、手段としては最良でしょう」
「まあ、教師が発見に遅れるのは見えないところで行われるものだから仕方ないよ。でも学生が目を光らせるなら、発見は早まるんじゃないかな」
正義感の強い人は、子供の頃から悪を見逃せないタイプの人間だ。そういう子供を子供警察というか、監視役にしてしまうことでいじめを撲滅してしまおうという考えだ。
「その学生が横暴を出来ないように、部下を付けて告発役にしましょうか」
「数人は警察係をしたい人もいるだろうし、完全に縦社会にしても良いかもね。教師も複数人いることだし、面倒事を早期に解決できるとは思う」
スクール警察とスクール裁判官を用意することで、その役割に応じた働きを強制することが今の日本なら出来る。任命することで、確実に罪を見逃さない存在として、機能させたい。
いじめ問題はかなり悩ましい問題でもあるようなので、試験的にスクール警察の方は導入されることになった。スクール裁判官の方は、もうちょっと協議してから慎重に判断をするとのこと。まあ、量刑を生徒全体で決めてしまえば生徒全体が納得のしやすい解決になるかもしれないと俺が思っただけなので、却下されるとは思っていた。
……教師が複数人いてもいじめは発生するのだから、いじめは無くなりそうに無いな。ちょっと休み時間に教室の外から連れ出されてしまえば、教師の監視の眼は足りなくなる。それを補うには、監視の眼を増やすしかない。
生徒の中から、自発的にスクール警察になってくれる人がいることを信じておこう。後は、権力が集中し過ぎないように調整することも大変か。部下を付けて教師への告発係にするようだけど、そう上手く機能するかは分からない。
結局は、生徒がその部下達を監視することになりそうだな。学校の中でも監視社会が蔓延ることに、なるのか。もう監視社会に抵抗は無いし、むしろ推進したいぐらいだけど、上手くいくかどうかは最初の雰囲気次第かな。
この場合、教師は豊森家の役割になるのかな。リーダーに任命する人はたぶん地位が高くて優秀な人になりそうだし、その部下も教師が信じられる人材になる。学校が、社会の縮図になるな。
よく学校は社会の縮図と言われるけど、監視社会でもその縮図となるのか。よく考えなくても、これも俺のせいだな?
いじめという議題が終わった後は、また体罰問題について議論を再開する。今度は、過去に起きた事件を事例に交えて活発な議論が行われた。
「……この、生徒が蹴り飛ばされた時の描写が凄いね」
「目撃証言から、本当に5メートルぐらい飛んだようです。まだ私が小さい時でしたが、ちょっとした話題にはなりましたね」
2011年の教育では、問題のある生徒に口頭での注意しか出来なかったらしい。そしてその問題の生徒は授業中に何度注意されても後ろの人と喋り続け、教員の怒りを買っている。この事件は、当時10歳の彩花さんでも憶えているらしく、有名な事件のようだ。
今だと確実にロープでぐるぐる巻きにされて、口枷を付けられて廊下で転がされるだろうな。しかしこの当時は軽い体罰こそ認められているものの、教室から追い出すことやきつい体罰は禁止だったようで、それが生徒側が調子に乗る原因にもなっていた。
何度か平手打ちをしても全く堪える気配が無く、むしろ生徒側が喧嘩を売ったようで、生徒は睨む教師に挑発をしたようだ。その時になって教師はぶち切れ、襟首を掴んで空中に投げた後、追撃で腹部に強烈な蹴りを行ない、生徒を5メートルほど先の壁まで蹴り飛ばしたと書かれている。
……この国の教員は、一昔前まで元軍人が多かった。今は研究職に就くことが多くなったから教員の元軍人比率は下がったけど、当時は元軍人の割合が高かった。この教師も元軍人で、この件で生徒に大怪我を負わせたことで問題となった。と言っても、生徒は全治2日程度の怪我だったようだけど。
「体罰禁止の時は、体罰をしたことで犯罪になったりするの?」
「よほどの怪我を負わせない限りは、問題にはなりませんね。しかし体罰を行なうことによる罰金があるので、体罰を行なう教員は少なくなります。0にはなりませんけどね」
「親の教育とかも、この会議を参考にするのかな。
……親の体罰とか、禁止されてるの?」
「いえ、流石に家庭の中のことまでは突っ込みませんね。虐待が行なわれていると判断すれば、保護をしますが」
「躾や体罰と、虐待の境目はどうしてるの?」
「豊森家が虐待だと判断すれば、虐待です」
珠菜さんに色々と聞いたけど、親による虐待と体罰の判断の仕方はばっさりと豊森家裁定だと言い切った。一応、基準はあるそうなので無意味に取り上げたりはしないとのこと。子供の証言から、周囲の家庭の証言から、親の証言から、判断をするらしい。
まあ、子供の数をきちんと把握している国なので、虐待による死は絶対に無い。子供を殺したら、親でも長い期間の懲役刑になる。健康診断には力を入れているし、成長が遅かったら親による虐待を疑われるような国だ。長年データを収集して来ているから、そういう判断は早いようだし、心配は要らないかな。




