第282話 2年目突入
2023年6月13日。世界大戦に突入してから、1年が経過した。その間にイギリスは足元が崩れ、アフガニスタンは消滅し、パナマ運河が爆破されたり、大規模な海戦が幾つも起きた。この1年での死者は、両軍合わせて推定で700万人だとされている。来年は、もっと多くの人が死ぬだろう。
ライン川防衛線は、一部こそ突破されたものの何とかプロイセンは耐え忍んでいる。フラコミュとプロイセンは両陣営の軍をそこに並べて、死体の山を築いているのだろう。一方でフラコミュはアメリカ大陸でも死体の山を築いており、国力は確実に低下しているはずだ。
それでもなお、フラコミュが元気なのは陣営の力が大きい。イタリアとオーストリア、スカンディナヴィア、オスマンに加えて間接的にペルシアも協力している状態だ。
一方でプロイセン陣営も日本とロシアが協力をしているけど、イギリスは反応が無いレベルでボロボロの状態らしいし、メキシコは首都のメキシコシティを取り返してから働かない。中米諸国連合やコロンビアは、日本側に付くと言っていたのに結局は日和見状態だ。大国の間で揺れ動くムーブに、慣れているのか動かし辛い。
スペインやインドでは内戦が激化し、他国が介入出来ないような状況にもなった。国が根底から消えてしまう内戦を繰り返した後で、得られるものは少ないのだけど……次代の利権を得るために、戦っている連中が如何に多いかということがよく分かる。
日本の豊森家独裁体制が成り立っているのも、利権の塊を保持しているからだしな。恐らくその利権の生産者表示をするならば、俺の写真が貼られるだろう。そういえばカラーカメラの試作品が完成したので、これから資料として残る写真はカラー写真になると思う。
光の三原色を利用して、赤と青と緑の色で何とかしているらしい。詳しい原理を説明されたのだけど、俺には三原色を利用していることしぐらいしか分からなかった。ただ、フィルム写真とは別物だということだけは分かった。写真として完成させるまで、随分と時間もかかるし。
「航空機で写真を撮れるようになるのは、まだまだ先か」
「流石に、それはまだ白黒でも難しそうですね」
「うーん、観測機は目視で情報は垂れ流す状態になるのか。無線通信もかなり発展した分野ではあるけど、交信のせいで迎撃されたら嫌だな」
「無線は、確実に傍受されています。戦場でのやり取りは基本、後方の中継所を利用した有線通信になりますね」
戦場では、飛行機の姿も確認出来る。日本が本格的に偵察機としての集中運用を始めてから、世界各国の航空機利用率は上昇した気がする。やはり日本の飛行機よりも、性能的には上の飛行機をプロイセンもフラコミュも開発している。ただ、兵器として見た時にはかなり追い付いて来ていると言っても良いはずだ。
怜可さんの言う通り、戦場では有線が基本になっている。後方まで電線を引っ張り、各前線と通信を行なう。それが確実に盗聴されない方法でもあるけど、前進が遅くなっている理由の一つでもある。
フラコミュは、アメリカ大陸から撤退を始めるみたいだ。この後、欧州の方で巻き返しを図るだろう。アメリカ大陸で相対する軍に民兵の割合が増えるだけだし、プロイセンへの助力もしないといけないので面倒な状況ではある。
ペルシアに侵攻している日本軍は、ついにオスマン軍とも相対を始めた。もはや、ペルシアはフラコミュ側に立って参戦しているという解釈で良いだろう。オスマン軍と共闘を始めたペルシア軍の抵抗は頑強なものとなっており、前進が難しくなっている。
ちょうど、旧アフガニスタン領で戦っていることになるけど、山岳ばかりだから侵攻が難しいのかな。ペルシアの軍が戦い慣れをしてきた上に、インド侵攻軍からある程度の軍を対日本用の軍として回したようで、こちらも増援を送らないといけない。
……フラコミュはたぶん、アメリカ大陸に住む人を全て戦線に投入するだろう。あの国は、そういう国だ。日本に活用される人的資源となるなら、戦って死ねということだな。民兵は、その先駆けに過ぎない。
実際問題、フラコミュの洗脳教育は大したものだ。アメリカ大陸の中央部分に差し掛かっているが、ゲリラ戦になることは珍しくなく、日中戦であれほど見られた全裸土下座をする割合は少ない。投降するフリをして、刺そうとしてきたことや発砲しようとして来た率は非常に高い。
「この違和感は日本軍を、殺そうとしているフラコミュ人が多すぎるのか。風船爆弾で、民意を刺激し過ぎたかもしれないな」
「しかし、その風船爆弾が無ければ大規模な前進も無く、日本軍の被害は増えていたでしょう。そのことが分かっているから、現在も利用し続けているのですよ」
今日は怜可さんが傍にいる。何だかんだ言って、怜可さんも副隊長が板についてきた。上に愛華さんという隊長がいるから目立って無いけど、十分に能力は高い。護衛役として雇われた新人4人も、美しさと筋肉を兼ね備えたボディガードとして機能はしている。
……新人の中には約1名、すらっとした外見なのに筋肉が引き締まっていてやべーとしか思えない人材もいるしな。柔軟性のある柔らかな筋肉を持つ凛香さんとは、正反対の人だ。でもまあ、現状ではかなり頼りになっているし、この前は飛んで来た石を蹴りで粉砕していた。石を投げ飛ばした人は、戦争で息子2人を亡くした母だ。
日本軍にも被害は出ている以上、このような不幸話は珍しくなくなった。まだ集団の反戦運動が起こる気配は無いが、個人レベルで反戦の意思を持っている人は増えて来ている。その対応も、向き合わないといけないことだ。




