第275話 インド内戦勃発
内戦が、なぜ起こるのかと問われれば、答えは簡単だ。政敵を殺せば、必然的に政権を握れる。ただ、これだけだ。自分達がトップになりたい。そのためには、手段を択ばない。そんな人達が多ければ、内戦は自然と起きる。
敵の敵は味方とは言うが、実際に味方となるケースは多くない。味方以外を全員殺せば、必然的にトップになるのだったら、協力出来ないケースも存在する。民主制に移行しようとして、内戦が勃発した国は非常に多い。インドもまた、同じような状況に陥ったというだけだろう。
選挙を行なおうとしていたインドで、1つの国家として纏まりかけていた話は霧散した。何処かの国が介入したのか、内戦を始めたのだからもう纏まった独立は不可能なはず。人口が多いのに、土地が広大なのに、内戦が始まれば、待っているのは各地方軍閥の独立だ。
無政府状態のまま内戦に突入したのでインドの復活は無理になったし、本格的にイギリスはインドから手を引かないといけない。もはや、人が住める環境では無いからだ。というかもう、インドの地に残っているイギリス人が珍しいほどだけど。
民主制の目玉である選挙は、最悪の形で内戦の火種となった。こうなればもはや選挙の実施は不可能だし、1つの勢力を除いて全ての勢力が降伏するまで内戦は続く。内戦が終わっても、勝ったグループの独裁体制となるだろう。立候補者が、全員同じ党に所属している選挙になるな。
日本も諜報員達の規模を小さくして、不可触民達には出来る限り東を目指せと伝えておく。東がどちらか分からない人のために、日が昇る方角だとも言っておいた。これなら迷う心配もない。東に集めることが出来れば、インド東部、ベンガル地方で独立させよう。あそこは比較的、イスラム教徒も多い。
「政権が欲しければ、人気取りに動く必要があるけど、他の手段として対立候補を落とす手段も存在する。対抗のカリスマ性があるトップを暗殺すれば、求心力が削がれる。事実だけど、実際に実行する奴がいるとはな」
「それだけ、利権を握りたい誰かがいたということでしょう。もしくは、他国が介入をした可能性も大いにあります」
「ペルシアが介入したとは考え辛いけどな。内戦させて、得があるとは思えない。行政府が存在しないと、戦争そのものを終わらせられなくなる」
「……この状況でイギリスは、インドのイギリスへの帰属に協力しろと言っていますが」
「無理。インドの独立は決定事項だから、まだインドの地に傀儡国が欲しければ、親イギリス人地域だけを纏めて独立させろと伝えておいて」
イギリスは、もうインド全体の支配を諦めないといけない。幸い、イギリス人とのハーフが多い地域や親イギリスのインド人が多い地域は存在する。キリスト教徒も、割合にすれば僅かだけど存在するしな。それらの人を纏めて、インド本国からは分離して独立させるのが最善手だ。
……まあ、何度連絡を取ろうとしてもはぐらかされているのでどうしようもないけど。イギリス本国でも反戦運動が活発化してしまったせいで、ロイズさんは戦争に導いた第一人者として叩かれる側の存在になってしまったようだ。それが原因か、辞任してしまったような雰囲気だからイギリス自体が不味いな。愛華さんに最後の伝言を頼んだけど、何処かで遮断されていそうだし、届かないかな。
元々、イギリス人には日本人嫌いが多い。理由としては、十数年前に戦争をしているからだろう。それで死んだイギリス人も少なからず存在するし、基本的にインドを巡ってずっと争っていたのだから、反日感情を持っているイギリス人は多い。
とりあえず、インドは内戦の推移とペルシア次第か。ペルシア領への侵攻を再開しているので、ペルシア軍はインドへ気軽に侵攻することが出来ない。下手すれば、日本軍が補給を遮断するからな。ペルシア軍が何も考えずにインドへ侵攻し続ければ、入り口に蓋をされる状態だったけど、そこまでの間抜けでは無かったらしい。
ペルシア軍は弱いと言っても、近代的な軍装備だから気軽に突破出来るわけではない。地道に、圧力を加え続けるしか選択肢は無い状態だ。
「内戦自体は好都合ですので、劣勢の勢力に支援を致しますか?」
「いや、共産主義者を増やし続ける活動だけで良いよ。最終的に、共産主義対それ以外という構図の戦いにして、自由主義の人間が共産主義者に勝つことが理想的」
「……国力が落ちた状態で、民主制の国家として樹立して欲しいのですね?」
「そういうこと。1国として独立されるのなら、その状態がベストだから。共産主義とそれ以外の構図になった時、2つの国として独立してくれても良いけど」
仁美さんには、具体的な俺の考える理想を押し付けておく。何処かの軍閥が政権を独占する国となるより、まだ民主制の国家の方が付け入る隙は多い。まあ、民主制を諦めていないインド人は多いようだし、軍を掌握している人は少ないから内戦の推移は本当に読めない。
ほとんどの軍はペルシア国境に並んでいるということも、軍部が暴れられない一因かな。ペルシア軍と戦っているインド軍が、何を食べて、どこから弾薬や武器を補給しているのかは気になる。案外、インド西部の生産活動は停止してないのか。




