第2話 世界最大の海軍
「これと同じような都市が、日本には何十箇所もあります」
「……それは俺の残した都市計画通りに、か」
「はい。機能的で安価なため、本土以外にも何十箇所と存在しています」
仁美さんに連れられて案内された京の町は420年が経ってもほとんど変わらないままだった。服は少し現代に近いものかもしれないが、プリントされた絵が張り付けてあるような服を着ている人はいなかった。
俺が上下水道管を地下に配置するために再構築した京の街は妄想の中と若干の差異はあるものの、完成された街だった。これが西暦2020年の光景と知らなければ褒めていたかもしれない。これと同規模の街を至る所に作り、それを線路で繋ぐ。そんな単調な作業を長い時間続けた結果、日本の人口は爆発的に増え、土地が足りなくなって海外へと進出したようだ。
「蒸気船に大砲を乗せるぐらいはしているよ、ね?」
「はい。我が大日本帝国の海軍は、世界最大規模の海軍です」
「最強とは言わないんだ」
「……うん」
「……15年前、紅海で大英帝国とプロイセンの艦隊に負けましたので」
最近ではスエズ運河にも手を出そうとして、しっぺ返しを食らったようだ。国力的に見れば日本は1位だけど、技術や戦術はお粗末な模様。挙句の果てに国力2位の大英帝国と国力4位のプロイセンという2国を相手に物量作戦だけで挑んで敗退。想像以上にこの日本はヤバかった。
「その海戦で大敗北をして、反戦運動とか起きなかったの?」
「いえ?国民は全員余った旧式の艦船を廃棄処分するために戦った、ぐらいの認識ですので」
「実際に旧式の艦艇しか無かったのか?」
「…………?」
「実際には新造の艦船もありましたが、国民に伝わる情報は豊森家から発刊される新聞の情報だけですよ?」
この歪な大日本帝国は、大本営に変わり豊森家が支配する独裁国家だ。天皇はもはや何の権力も持たない、日本で唯一改変前と同じような存在になっている。しかも「豊森家の指示に従えば間違いない」と、全体主義的な思考を植え付けられた国民しかいない。実際にある程度は上手くいっているから笑えない。
確かに「漠然とでも良いから豊森家に従えばお得、という思想を植え付けろ」と息子の一人に管理させていた忍者衆に言った記憶はあるが、こうなるとは思ってもいなかった。
ついでに言うと新聞の発刊権利を豊森家で独占したのも俺のせいです。信長に情報操作の大切さを説いたら豊森家で管理しろとか言うから……9割9分は俺のせいだな。
「ちなみに実際の戦果と被害は具体的に言えばどの程度?」
「大型帆船が230隻、小型の蒸気船が280隻、大型の蒸気船が144隻沈みました。対して大英帝国側の船舶は169隻、プロイセン側の船舶は62隻が沈みました」
「…………負けてはない」
「いや、負けているというか、大敗北だろ。海軍の再建が当面の目標になるレベルだな。しかもまだ帆船が現役かよ……」
「現在、大日本帝国海軍が保有する艦艇は4000隻ほどあるため防衛戦力としては十分にあります」
「その半分はフリゲートなんだろ?帆船に砲を乗せただけの」
15年前の海戦では日本は大敗北を喫しているが、プロイセンも大英帝国も攻勢に出る戦力が残ってなく、双方痛み分けの形で終わったらしい。大英帝国の増長を防ぐためにスエズ運河を奪おうとして返り討ちとか、もっと増長しそうなものだけど。
この国の異質さをこの目で確かめたところで、ずっと気になっていたことを尋ねる。
「ねえ、ずっと後ろをピタリと張り付いているのは誰?」
外に出てからずっと、息が当たるぐらいの近さでついて来る人がいるのだ。囁くような小さな声がしっかり聞こえるほど至近距離なのに後ろを振り向くと誰もいない。ただ、後頭部に時々柔らかい感触が当たるため、高身長な女性であることがわかる。俺が165センチなのにその頭に胸が当たるということは180センチぐらいあるだろう。
「……りんか」
「豊森 凛香さんです。こう見えて素手で岩を砕くぐらい力持ちなんですよ」
「何で護衛が女なの」
「秀則様は女性の護衛の方が好みなのでは?」
「いや、良いけどさ、うん」
誰かと聞くと、素直に目の前に現れて自己紹介する凛香さん。顔は綺麗だけど、美人というよりは男前というか、素手で岩を砕くのも納得出来る筋肉質な身体の持ち主だった。長身で鍛えている身体に大きいおっぱいとかもの凄く好みなのでそんな人が護衛というなら正直に言うと嬉しい。
「豊森秀則は女好きとか、そんな感じで伝わっているわけ?」
「そう言うわけでは無いのですが、嫁が20人以上いて子供が50人以上いるとなれば誤魔化すことは不可能かと」
「……まあ、男児だけで30人はいたからな。大体は有力大名の姫に婿入りさせたけど」
「今、本国で一番多い苗字は豊森だと思いますよ」
「はぁ!?」
そして後世での俺の評価の1つに種馬、というものがあることを知る。息子たちが優秀だった上、息子たちも多くの嫁を囲って孕ませまくった挙句、乗っ取った家が幾つもあることを聞かされたら豊森という家名を持つ人間が日本で一番多いことにも納得出来る気分になる。豊森家の人間が増えまくったようだし。
……まあ、隙を見て乗っ取れよ、みたいな話は酒の席でした覚えがなんとなくあるから俺が悪い。息子たちも息子たちで俺の無茶ぶりを淡々とこなしていたから、乗っ取れと言った後はその通りに実行していたのだろう。
「はは……少し疲れたから、何処か休憩出来るような場所があれば教えて欲しい」
「……私が抱える」
「うわっ、お、おう?」
疲れを感じて来たので何処か休憩出来る場所があるか聞いたら凛香さんにお姫様抱っこをされる。情けない格好だし周りからの視線もあるし、恥ずかしくなってきたのですぐに止めるように言うと、凛香さんはしょんぼりとした顔で降ろしてくれた。
……腹筋が女性とは思えないぐらいに硬かった。今の身体は何故か重く感じるので、少しぐらいは鍛えたいな。